園児・児童を狙う事件相次ぐ 臨床心理士に聞く、子どものトラウマケアに必要なこと

(写真:アフロ)

今年に入り、子どもを狙った事件のニュースが相次いだ。子ども向けツアーを企画し、そこで撮影などを行った事件では男6人が逮捕、被害児童は168人に上ると報道されている。このほかにも児相職員や小学校の教師が逮捕された事件や、元保育士が女児にストーカーをした事件が報じられた。

子ども(13歳未満)を狙った刑法犯の認知件数は2万4707件(平成26年)で平成14年以降は減少傾向にある。一方で、子どもの被害件数に占める性 犯罪の割合は、他の犯罪と比べて高い。参考:警察庁

また、PTSD(外傷後ストレス障害)を発症する確率は、災害や事故に比べて、性 暴力を受けた場合の方が高いという研究結果がある(Kessler, 1995)。

子どもが性的な被害を受けたとき、親や周囲の大人はどのようにケアをすれば良いのだろうか。被害者支援都民センターで性 暴力などについてのカウンセリング対応を行う臨床心理士の鶴田信子さんに聞いた。

■子どもが被害を打ち明けない理由

被害者支援都民センターのHP
被害者支援都民センターのHP

――性的な被害の場合、子ども本人が被害に気づいていない場合もあり、大人に比べて発覚しづらいという問題があると思います。

鶴田:子どもは何かおかしい、嫌だなと感じたとしても、それが性被害であると理解することが難しいことが多いです。子どもが被害を打ち明けることのほうが少ないと思ったほうがよいでしょう。大人が子どもの普段とは違う様子を示したときに、大人は何かあったのではと考えたり、年齢に似つかわしくない性的行動を示したときに、性暴力被害を疑う必要があります。

――どういった理由で打ち明けられないのでしょうか。

鶴田:1つは、相手から口止め、脅迫されている場合です。あとは子ども自身も何かおかしいな、嫌だなと思いながらも、なかったことにしたいので言わない。また、打ち明ければ心配をかける、怒られると思っている場合も多いです。子どもは言って怒られると思うことをあえて言いません。

――被害の責任が自分にあると感じてしまっているということでしょうか。

鶴田:子どもの場合に典型的なのは、「自分が悪いことをしてしまった」という漠然としたとらえかたです。もしくは、「逃げなかった」「ついて行ってしまった」「イヤだと言わなかった」ことへの自責です。親は防犯だと思って子どもに「逃げなさい」「知らない人について行かない」「イヤと言いなさい」と教えますが、そうできなかった子どもは「お父さんお母さんの言いつけを守っていなかった」と思ってしまう。子どもは警察よりも、親に怒られることのほうが怖いです。

■「自責」もトラウマ反応の一つ

――大人の言いつけが、子どもが被害にあった場合に、それを言い出せない状況に追い込んでしまうこともあるのですね。

鶴田:加害者は非常に言葉巧みに子どもを騙したり、弱みにつけこんだりします。これは大人が被害者の場合でもそうで、誰にでもある「人を露骨に疑うのは申し訳ない」という気持ちや状況を利用することすらあります。大人でも騙されるので、子どもが逃げなかったり、ついて行ってしまったりするのには必ず理由があります。それ以上の危機を逃れるために、逃げないことを子どもが自分で選ぶ場合もあります。でも、そのことを責めないでください。被害に遭った人は自分のとった行動、とらなかった行動を後悔しますし、自責の傾向があるからです。これはトラウマ反応(衝撃的な体験をした後に生じる心身の変調、物事のとらえかたの変化)の一つです。

――被害を受けたことで起こるトラウマ反応には、他にどんなものがあるのでしょうか。

鶴田:他には、不安や恐怖、フラッシュバック、ハイテンションやかんしゃく、不眠、体の不調、情緒不安定、集中困難、ぼーっとする、イライラなど、さまざまです。ときには、年齢や場所にそぐわない自慰行動など性的行動をとることもあります。これらの反応は被害に遭った子どもに現われる正常(普通)の反応で、大半は時間とともに良くなっていきます。時間がたって良くならない場合でも、専門家への相談で回復することは可能です。「(被害を受けた場合は)心や体にいろんな変化が起きるよ。だんだん良くなっていくけど、心配だからなんでも教えてね」など、子どもを安心させてあげましょう。

■子どもの話を聞くことが、もっとも大切なケア

――子どもが被害を打ち明けた際に、親や周囲の大人ができるケアを教えてください。

鶴田:まずは子どもの話をしっかり聞きましょう。子どもに自分を責めている様子があれば、「悪いのはあなたではない。悪いのは加害者(相手)だよ」と教えてあげましょう。子どもが話したがっているときは話を聞き、話したがらないときは無理に聞き出そうとしないでください。「話したいと思ったらいつでも時間をとってちゃんと話を聞くからね」と伝えられるとなお良いでしょう。子どもの話に耳を傾けることは、もっとも大切なケアになります。

――子どもの気持ちやタイミングに合わせるということですね。

鶴田:そのとおりです。まずは子どもの気持ちを受け止めることです。子どもを責めてはいけないといいましたが、ここが難しいところで、もし子どもが「自分が悪いと思う」と話し始めたら、「そう思ってしまうんだね」といったん受け止める。その後に「でもね、これは犯罪で、犯罪はやった人が悪いんだよ」と伝えてください。

■被害を聞き取る際の注意点

――子どものタイミングに合わせたいと思っても、やっぱり大人は心配で、すぐにでも状況を把握したい気持ちが強いと思います。そういった際の聞き取りで気を付けた方が良いことはありますか?

鶴田:被害の聞き取りは、誰から、何をされたのかといった簡潔な情報がわかれば充分です。なるべく子どもの言葉を使い、子どもの言った言葉を繰り返すようにして聞くと良いでしょう。聞き終わった後は「よく話してくれたね、ありがとう」と子どもを充分に褒めてあげましょう。

被害届を出すことを考えても、聞き取りは特に慎重に行わなければなりません。大人は子どもに対して誘導的な質問をしがちです。子どもの記憶は成人のものと異なり、誘導的な質問をされることで実際と違う記憶を思い込んでしまうことがあります。これを記憶の汚染と言います。記憶の汚染によって、(被害証言が採用されないなど)司法手続き上不利益を被ることも起きかねないため、これは極力避けなければなりません。被害の詳しい聞き取りは、警察や児童相談所の職員など、専門的な訓練を積んだ人によって行われるべきです。

子どもに関わる仕事やたくさんの子どもに接する機会の多い人には、RIFCR(TM)という研修を受けることをお勧めします。必要最小限の聞き取りによって、適切な機関につなげるための面接方法です。

■表面化しづらい男児の被害

――今年に入り男児が被害に遭った事件の報道が続きました。

鶴田:男児の被害は表面化しにくいだけに、実際は一般的に思われているより多いと考えられます。また、被害を軽視されやすい。たとえば、同年代の子どもから下着を脱がされたり、性器を無理矢理触られたりした場合、女児の場合は大問題として扱われますが、男児の場合は「男の子だからね」と軽く扱われてしまうことがあります。しかし実際には、これは成人のデータですが、男性がレイ プ被害によってPTSDを発症する確率は女性よりも高いと言われています。女児以上に被害と認識しにくく、圧倒的な屈辱感のために被害を申告しづらかったり、適切なケアを受けづらかったりすることが要因の一つと考えられます。

――男児と女児の被害で異なる部分はあるでしょうか。

鶴田:男児の場合、加害者は同性であることが多く、被害を受けたことで「自分が同性愛になってしまうのではないか」とか、「相手が誘うのは自分が同性愛者だからなのでは」など、自分のセクシャリティに混乱が生じることがあります。また男児の場合、「気持ちがよかった」と感じたり、あるいは感じたときに相手にそれが伝わりやすいため、自分や周囲も「快感を覚えたのは喜んでいた証拠だ」と誤った認識をしやすいことが考えられます。

――誤った認識を解いてあげるためにも、話を聞くことがケアにつながりそうです。

鶴田:男児女児に関わらず、暴力と性 行為の違いや、身体の反応と気持ちは必ずしも一致しないことがあるといった性教育を、子どもの成長段階によって丁寧に行うことが大切です。

男児の被害の場合、保護者の中には成長後に加害者に転じるのではないかと心配になる人もいます。でも、親や専門家からきちんとケアを受けて回復することができれば問題はありません。実際に性的な加害行為をしてしまう子どもの場合、そういった子どもを対象とした回復プログラムもあります。

■支える人のケアも必要 一人で抱え込まないで

――子どもの被害は、親や周囲の大人にとっても衝撃が大きいと思います。

鶴田:難しいと思いますが、お子さんが落ち着いて安心できるような対応を心がけましょう。親が動揺してしまうのは当然です。動揺してしまったときは、「大人だって動揺するし、動揺したときは感情を表現してよい」ということを子どもに伝えましょう。つまり、大人が感情をコントロールしながら(怒鳴ったり、物にあたったりするのではなく)、悲しみや怒りを表現することは子どもにとって、とてもよいモデルになります。動揺のあまり、感情的に叱ってしまったり、その話を信じられなくて黙り込んだり、子どもを疑って責めたりしてしまうこともあるかもしれません。このようなときは落ち着いてから子どもに謝り、「あまりにも驚いてしまったのだ。犯人に腹が立って悲しかった。あなたに腹が立ったのではない」と自分の気持ちを説明しましょう。

――被害を受けた子どもを支える大人にもサポートが必要という場合がありそうです。

鶴田:はい。保護者の方にも協力者や助けが必要です。保護者の方はどうしても、自分のケアを後回しにします。でも、保護者は、子どもの回復にとってもっとも大事なサポーターです。子どもを支えるために、保護者の方も、誰かに支えられることが必要です。

周囲の大人が無理をしすぎてしまうと、子どもはそれを察知して影響を受けます。保護者の状態が子どもの回復に非常に大きな意味を持ちますので、一人で抱え込まず、専門機関や相談窓口に相談してください。(※記事末尾に相談窓口などを記載)

――もし、子どもを責めるような言葉を口にしてしまったという場合は…?

鶴田:謝って自分の気持ちを伝えてください。どこからでも軌道修正できます。これは被害を受けた場合に限りませんが、大人が間違えてしまったときに、子どもに謝ることができるかどうかは親子関係の大事なポイントです。

――普段の親子関係も重要だと感じます。

鶴田:お子さんが被害に遭って相談に来られる保護者の中にはこちらのアドバイスがなくても適切な対応をされている保護者も少なくありません。また、日頃から子どもの言うことを頭ごなしに否定したり無視したりせず、ちゃんと受け止めてあげる関係であれば、子どもは被害を打ち明けやすいと思います。親は子どもの話を聞いているようで、実は自分の聞きたいことだけを選別して聞いてしまいます。そうではなく、子どもが話したいことを話すまで待つこと。被害を受けた子どもを周囲がどう受け止めるかが、その後の回復に大きく影響します。

■適切なケアで回復できる 悲観し過ぎずに

――被害を受けても、適切なケアを受ければ回復できる可能性は高いのですね。

鶴田:はい。実は、中には専門的なケアを受けなくても回復しているケースもあります。性被害と言っても内容はさまざまです。子どもは大人が驚くほどの成長や回復の力を持っています。大切なことは、日ごろから大人が子どもの様子に目を配り、子どもの話を真剣に聞くということです。子どものときに被害がわかるということは、いち早くケアを開始できるということです。

――回復が可能と聞いて、少し安心しました。

鶴田:性 被害は確かに深刻な経験であり、被害を軽視するようなことはあってはなりません。でも一方で、被害を受けることは「世界の終わり」ではありません。周囲の大人や、場合によっては専門的なケアの助けを借りて回復が可能です。繰り返しになりますが、大人が悲観してしまうと子どもはその影響を受けやすいので、大人が適切な情報を得て、必要であればサポートを受けるようにしてください。

<子どもへの性 暴力に関する関連図書>※鶴田信子さん推薦

『メグさんの性教育読本』(メグ・ヒックリング/三輪妙子(訳)/ビデオドック/1999年)

『メグさんの女の子・男の子からだBOOK』(メグ・ヒックリング他/三輪妙子(訳)/築地書館/2003年)

『メグさんの男の子のからだとこころQ&A』(メグ・ヒックリング/三輪妙子(訳)/築地書館/2004年)

『あなたが守るあなたの心・からだ』(森田ゆり/童話館/1994年)

『女の子のセーフティブック-からだとこころをまもる』(安藤由紀/童心社/1999年)

<子どものケアに関する参考サイト>

被害者支援都民センター

※リンク先からリーフレット「性的な被害にあった子どもを支えるために」をダウンロードできる。

こころとからだのケア~こころがきずついたときのために~第2版

※兵庫県こころのケアセンターHP内

子どもの性の健康研究会

※『はなしてくれてありがとう ~性 暴力被害からの回復に向けて~』など、心理教育用教材をダウンロードできる。

<相談窓口>

ウィメンズセンター大阪サチッコ

※19歳までの相談を受け付けている

被害者支援都民センター

公益社団法人全国被害者支援ネットワーク

警察庁 性 犯罪被害相談電話設置一覧表

※平成29年度から警察庁全国共通性犯罪専用ダイヤルが開始予定。