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性犯罪刑法改正に向けアートパフォーマンス「被害者を信じて」

小川たまかライター
翼のマスクをつけたメンバーがパフォーマンスを行った

1月29日、国会議事堂前や東大赤門前で、翼のかたちのアイマスクをつけた男女がアートパフォーマンス「ビリーブ・マーチ」を行った。このパフォーマンスは性犯罪に関する刑法の改正について関心を高めることなどを目的とした「ビリーブ・キャンペーン」の一環。

性犯罪に関する刑法は、修正案が今年の国会で審議される予定だ。修正案では強姦罪の法定刑の下限を3年から5年に引き上げることや、女性のみに適用されてきた「強姦罪」規定の見直しなどが盛り込まれている。改正が行われれば、刑法がつくられた明治40年から110年経って初めての大きな改正となるが、日弁連が修正案に一部反対の意見書を出したことから被害者支援団体が抗議を行っている。

【参考記事】性犯罪被害者を泣き寝入りさせる日本の刑法。100年以上前の法律を今、変えるべき理由は?(治部れんげ/2016年11月7日)

性犯罪の厳罰化に日弁連が一部反対の意見書 被害者支援57団体が抗議へ(2016年11月15日)

■被害者を社会から孤立させないで

参加したのは、社会派アートグループ「明日少女隊」とコミュニティオーガナイジングプロジェクト「ちゃぶ台返し女子アクション」のメンバーら。両団体はこれまでも、性犯罪に関する刑法改正を求める署名キャンペーンをネット上で行うなど活動を続けてきている。

正午からスタートしたビリーブ・マーチは霞が関ビル付近を出発し、国会議事堂前でダンスやハイタッチなどのパフォーマンス。その後、地下鉄で移動し、本郷三丁目の東大赤門前でもパフォーマンスを行った。

霞が関付近を行進する様子
霞が関付近を行進する様子

キャンペーンやマーチにつけられた「ビリーブ」には、被害者を信じ、寄り添う意味が込められている。

「日本の性暴力の現場で、被害者が周囲の人に被害を信じてもらえず孤立し、それが原因で回復が遅れるどころか、周囲の無理解でさらに傷つき、より深刻な被害を生んでしまうことがあります。また、日本の刑法は、まさに、被害者の言動を『信じない』ことが前提となっているようにも感じます。性暴力の問題の解決には、まず、社会が、被害者に寄り添うことが大切です」(ビリーブ・マーチQ&Aより)

2014年の内閣府調査によれば、異性から望まない性交を強要された女性が警察に相談する割合はわずか4.3%。また、性被害は「見知らぬ人」から行われるものだと考えられがちだが、同調査によれば被害者と加害者の関係は「知り合い」だった場合が65.9%だった。「あなたにも隙があったのでは」といった声を恐れて、被害を打ち明けられない被害者もいる。

■暗い問題として捉えるだけではなく、変えていかなくてはならない

性犯罪のニュースを耳にするたびに、心を痛める人も多いだろう。性犯罪は「人間の欲望から行われるためなくならない」と思われがちだが、なくしていくためにできることはまだ多くある。その一歩が性犯罪刑法の改正であり、強姦神話のような誤解や偏見を社会からなくしていくことだろう。

片方の翼のデザインには「もう一つの翼が必要」という意味が込められている
片方の翼のデザインには「もう一つの翼が必要」という意味が込められている

「ちゃぶ台返し女子アクション」共同発起人の大澤祥子さんは言う。

「性暴力って声に挙げにくい話題だし、話しづらいので、社会問題化されづらい。でもこういう問題が存在していて、それに苦しんでいる人がいるっていうことを打ち出すとともに、今、性犯罪刑法で議論が提出されようとしていること。その改正を通ることを強く望んでいる人がいることを伝えたいと思いました」(大澤さん)

また、明日少女隊のメンバーの一人は「明るくエンパワメントするような」パフォーマンスをしたかったと話す。

ビリーブ・キャンペーンのインスタグラム
ビリーブ・キャンペーンのインスタグラム

「“性犯罪”っていうと暗い方向へ考えてしまう。英語だと(被害にあった人のことを敬意を込めて)”サバイバー”って言ったりするんですけど、これが暗い問題だっていうことよりも、これからこれを変えていかないといけない、刑法を変えていかないといけないっていう思いがあります。だから、みんなが勇気づけられる、エンパワメントされるパフォーマンスを考えました」(明日少女隊メンバー)

残念なことだが、性犯罪被害を軽視する風潮は未だにある。筆者の記事にも、「体を触られるぐらいのことがどうしてそこまで嫌なのか」といったコメントが書き込まれることもある。ネット上の反応を見ても、性犯罪被害が被害者にどのような影響を与えるのかを伝えることが、まだ足りていないと感じたりもする。暗い話になり敬遠されたとしても、その被害の深刻さを伝えることは現状ではまだ必要だ。

しかし一方で、明日少女隊のメンバーが言うように、「これから変えていける問題」という前向きさを持って問題に取り組む人がいることも、同時に伝えていかなければならない。性犯罪について「どうにかしなければいけない大変な問題」と感じつつも、「自分に何ができるかわからない」という人もいるだろう。そういった層には、ビリーブ・キャンペーンが行う署名や、今回のようなアクションを届けたい。性犯罪についての現在の課題や被害者の置かれている現状、そして課題解決のためのアクションの両方をもっと広めていきたい。

ビリーブ・マーチの様子は今後映像でまとめられる予定。ビリーブ・キャンペーンは2月以降もワークショップなどを予定しているという。

(関連)

性犯罪の厳罰化を 刑法の早期改正求め 被害者らが行進(NHKニュース)

(参考)

性犯罪被害者を泣き寝入りさせる日本の刑法。100年以上前の法律を今、変えるべき理由は?(治部れんげ/2016年11月7日)

「イヤよイヤよは嫌なんです」100年前の性犯罪刑法、被害者が「暴行・脅迫要件の緩和」を訴える理由は(2016年11月8日)

性犯罪の厳罰化に日弁連が一部反対の意見書 被害者支援57団体が抗議へ(2016年11月15日)

ライター

ライター/主に性暴力の取材・執筆をしているフェミニストです/1980年東京都品川区生まれ/Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット大賞をいただきました⭐︎ 著書『たまたま生まれてフィメール』(平凡社)、『告発と呼ばれるものの周辺で』(亜紀書房)『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を』(タバブックス)、共著『災害と性暴力』(日本看護協会出版会)『わたしは黙らない 性暴力をなくす30の視点』(合同出版)など

トナカイさんへ伝える話

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これまで、性犯罪の無罪判決、伊藤詩織さんの民事裁判、その他の性暴力事件、ジェンダー問題での炎上案件などを取材してきました。性暴力の被害者視点での問題提起や、最新の裁判傍聴情報など、無料公開では発信しづらい内容も更新していきます。

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