一部の性犯罪報道 被害者の容姿について、なぜ報じるのですか?

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8月23日午後、若手俳優が強姦致傷容疑で逮捕されたという報道がありました。俳優が二世タレントだったことや、今週末に放送される「24時間テレビ39 『愛は地球を救う』」に出演予定だったことなどから報道は加熱。テレビ、新聞、ネット上でさまざまな報道が行われています。

この報道の中に、被害者の容姿について触れるような内容があることを知り、性犯罪を取材してきた者として看過できないと感じています。

東スポwebは8月25日6時に配信した記事で、被害女性が女性タレントと容姿が似ていたことを記事タイトルにつけて報じています。

また、24日早朝に放送された民放の情報番組でも、事件のあったホテルを知っている人が、被害者について「美人」など、容姿について語った内容が報道されたそうです。

上記のような報道に強く疑問を感じます。理由は下記の2点です。

(1)プライバシーの侵害となる報道である

性犯罪はその犯罪の内容から、報道が被害者の特定につながらないように、最大の注意が払われなければなりません。被害者に関する情報は最低限にとどめるべきです。個人を特定しかねない容姿についての情報を報じることは必要だったのでしょうか。身近な人であれば「あの人かも」と想像しかねません。これが俳優ではなく一般人の犯行だった場合、被害者の容姿が報道されることは、まず考えられません。まるで、俳優の恋愛報道かのようなノリで容姿が報じられたことに強い疑問を感じます。

また、被害者には、自分が被害に遭ったことを誰かに知られたくないと思う意識が働いて当然です。しかし、誰かがこういった話をマスコミに提供したという事実は、被害者が誰かを知っている人が存在することを示しています。恐らくは被害者の許可を取ることなく、被害者の特徴をマスコミにしゃべってしまうような人に、被害の事実を知られているのは恐ろしいことではないでしょうか。そして、事件と関係ない第三者から被害者の特徴をわざわざ聞きだしたのはマスコミです。繰り返しになりますが、加害者が一般人である性犯罪の場合に、わざわざ被害者の特徴を周辺に聞き込むでしょうか? それが二次被害(セカンドレイプ)になるという認識が、なぜなかったのでしょうか。

(2)「レイプ神話」を補強しかねない報道である

性犯罪には「強姦(レイプ)神話」と呼ばれるものがあります。これは「強姦(レイプ)にまつわる話として、その真偽に関わりなく、広く一般に信じられていること」(神奈川県HPより)で、「若い女性だけが強姦被害にあう」「女性側の挑発的な服装や行動が誘因となる」といったものです。神奈川県HPの説明では代表的な5つの例が示されていますが、これ以外にも「魅力的な容姿の女性だけが被害に遭う」や「男性は性被害に遭わない」なども、レイプ神話だと言えるでしょう。

こういったレイプ神話がなぜ問題なのかといえば、被害者が被害を訴え出ないことに直結するからです。異性から無理やり性交された経験を持つ女性のうち67.5%は、知人や家族はもちろん、警察や医療関係者にも相談していないという調査結果(※)があります。たとえば、「高齢なのに被害に遭った」「魅力的な容姿ではないのに被害に遭った」「男なのに被害に遭った」「だから、被害を信じてもらえないのではないか」といった理由から被害を訴え出ることのできない人が実際にいます。

(※)内閣府男女共同参画局「女性に対する暴力」に関する調査研究/平成26年度調査

こういった報道が行われてしまう背景には、性犯罪や犯罪被害者に対するマスコミ側の認識の欠如があるのではないでしょうか。誤解を与える報道や、報道による二次被害が繰り返されないためにも、今後も性暴力被害に関する発信を続けていきたいと思います。

ツイッターなどネット上では、こういった報道に憤る内容の発信が数多く行われています。そのような動きを心強く思います。また、日頃から性暴力に関する活動や発信を行っている方たちに、今回の報道に関するメッセージをいただきました。下記に随時、更新していきます。

■繰り返されてきた躊躇ない報道(皆川満寿美さん/早稲田大学ほか非常勤講師)

「かつて日本のマスメディアでは、こうした犯罪が発生すると、顔写真など、被害者についての情報が躊躇なく掲載され、また、あたかも被害者に非があるかのような報道も繰り返されてきたが、その度ごとに、女性たちは問題を指摘し、適切な報道を求めてきた。

そのためか、今回は、多数の報道機関においては、抑制的な扱いがされているように思われる。妥当なことである。しかし、指摘のインターネット記事は、『女性にとって心身に大きな傷が残る』などと書きながら、被害者の特定につながるような情報を出しており、そのことによってアクセスを増やそうとする意図さえ感じられる。

このような記事によっても、被害者は大きなダメージを受け、支援を受けて自らの尊厳を回復し、加害者に責任を取らせるよう進んでいくことが難しくなることを、いま一度、銘記してもらいたいと思う」

■「スポーツ新聞だから」ではすまない(治部れんげさん/ジャーナリスト)

「(東スポWebの)記事には事件の背景情報が詳しく記されています。被害状況や被害者の勤務先などについても、取材に基づいて書かれていることが推測できます。

問題は、記事の焦点が被害者の権利擁護や被害回復ではなく、興味本位のゴシップになっていることです。これは、被害者の人権を二重三重に傷つけるセカンドレイプに該当し、看過できないと感じました。

『スポーツ新聞だから構わない』ではすまない問題だと私は思います。責任は、このような記事を書き、掲載するメディアだけではなく、それを受け取る読者の側にもあると思います。

メディアも企業です。このような記事を掲載するのは、それを消費し喜ぶ読者がいる、という経営判断が働くためです。記事を読んで『おかしい』と思った方は、ツイッターやメールでその気持ちを伝えていただきたい。

多くの方が嫌悪感や怒りを持っていることが伝われば、編集方針は変わっていくでしょう。『メディアが悪い』ですませず、みなさんが一歩、行動するかどうかが大事だと思います」

■明らかにすべきは、「なぜ被害に遭うのか」ではない(中野宏美さん/特定非営利活動法人しあわせなみだ理事長)

「まず、事件を届け出た女性の勇気を称えます。性暴力を警察に届け出ることには、大きな困難を伴います。特にこの事件は、加害者が著名人、女性がホテル従業員という、明確な上下関係があります。その中で、事件の告白を決断したのは、本当に素晴らしいことです。

次に、女性が誰であるかを特定しかねない報道内容に、抗議します。性暴力を訴えることは、通常私的領域にある性的接触を、公にさらすことであり、被害者に強い心身的苦痛をもたらします。被害者のプライバシーを明らかにすることは、第三者に対して、事件をポルノ化することであり、その苦痛をより一層深めます。また、加害者側からの報復等、被害者を危険にさらすことにもなります。

そして性暴力に対する誤解や偏見を助長しかねない報道姿勢を、とても残念に思います。性暴力のすべての責任は加害者にあります。被害者の詳細を明らかにしようとすることは、『こういう人だから性暴力に遭うんだ』という、性暴力が起こる責任を被害者に押し付けるものです。明らかにすべきは、『なぜ被害に遭うのか』ではなく、『なぜ加害に及ぶのか』です」

■容姿を強調する報道は加害者擁護につながりかねない(鶴田信子さん/臨床心理士)

「レイプは「魂の殺人」と言われるほど、被害による精神的後遺症の大きさは計り知れません。

個人が特定されかねない情報が報道されることによって、被害者は周囲の好奇の目にさらされ、さらに深く傷つけられ、被害からの回復が遅れることになります。大半の人間は相手が魅力ある容姿だからと言ってレイプをすることはありません。年齢や服装、容姿と関係なく性犯罪が起こっていることはこれまでの調査で明らかになっています。

容姿を強調する報道は、魅力ある容姿だから人がレイプをしたくなるのはやむを得ない、という加害者擁護につながりかねません。また、被害者個人が特定されかねない情報が報道されるということになれば、今後被害を訴える性犯罪の被害者はさらに少なくなるかもしれません。

これまで被害者支援は、被害者の声なき声を拾い上げ、被害者の現状、犯罪の加害・被害を問わず、最新の知見を報道いただくことによって、大きく進んでまいりました。報道のみなさまには、被害者の回復を支援し、性犯罪の減少につながる報道をお願いいたします」

■女性を応援する論調の記事が出ない日本(武村若葉さん/Change.org広報・キャンペーンスタッフ)

「性犯罪や性暴力は日本に限った問題ではなく、あらゆる国で起きている。そのため世界18カ国にサイトを展開するChange.orgでも、様々な国で性暴力の課題を解決しようとするキャンペーンが立ち上がっている。今年に入ってからも、インドネシアでの性暴力犯罪の厳罰化を求めるものや、アメリカのスタンフォード大でレイプ犯罪を犯した学生への判決内容が軽すぎるため判事を辞めさせようといったキャンペーンが大きな動きとなっていた。

世界的に見ても、性犯罪は、多くは女性である被害者に対しての非難が集まる傾向があるが、日本はそれが特に顕著に感じる。例えばマスメディアで女性を擁護したり応援する論調の記事がほとんど出て来ないことがそれを示しているといえるのではないだろうか。前述のスタンフォード大の事件では 女性の勇気を讃える記事やサポートをするムーブメントが大きくなったのとは対照的である。

本記事で小川さんが指摘する、スポーツ 紙やテレビ情報番組、またネットでの記事や書き込みにおける女性の外見や経緯を細かく報じたりする姿勢は、なんら被害にあった女性を力づけるものとはならない。ただ一方的に一部の男性の性的興奮や、性別を問わず多くの人のゴシップ的な物に対する好奇心を満たすだけの情報となってしまっている。この事件の被害者だけでなく、多くの性暴力被害経験者にとって、つらい経験を思い起こさせるものとなってしまっている。

大手メディアは報道部門だけでなく、情報番組やバラエティ番組においても、こういった点をもっと考えていただきたいと感じる。また、私たち一人一人も、マスメディアを受け取り、かつネットで発信する主体でもある者として、目の前で起こっている問題で、最もつらい立場に置かれているのは誰なのか?ということを考えながら情報を読み取り、発信していかなければならない」

■犯罪は売り物ではありません(水井真希さん/映画監督・女優)

「マスメディアで文章を書いている、または何らかの情報発信をされているあなた、は『犯罪報道の犯罪』(浅野健一 著)と云う本をご覧になった事はありますか。旧版は1984年刊行と古い本なので、ご存知ない方もいらっしゃるかと思います。

もし当時既にメディア仕事をされていた方は、その頃『報道のあり方と人権』について、大きく変革があった時期だったと覚えていらっしゃるのではないでしょうか。

インターネットで市井の誰もが情報発信出来る今『売れるコンテンツ』を作るのは大変だと思います。しかし、犯罪は売り物ではありません。犯罪被害者を更に傷付ける様な、加害者のプライバシーを暴く様な、センセーショナルな文言は、犯罪報道には似つかわしくありません。倫理を遵守する事が我々消費者との信頼関係になり、長期的視点での支持になります」

■これまで性暴力被害に遭ったことがあるひとへ(古内真望子さん/精神保健福祉士)

「これまで性暴力被害に遭ったことがあるひとへ。連日の報道をやるせない思いでご覧になっていると思います。この芸能人の事件以外にも立て続けに性暴力事件が報道されています。

被害届を出したひと、出さなかったひと、誰かに被害について話したひと、話さなかったひと。被害は様々で誰かと同じになることはありません。どうか、この事件と自分の被害を比較しないでください。被害届を出したら世間に自分のことが知られてしまう、誰かに話したら恐ろしいことになってしまう、そんなふうに思わないでください。

セカンドレイプは絶対にあってはならないことです。今回の報道に関しては、性暴力に対する日本人の問題意識の低さが露見しました。しかしその問題意識をどんどん表出させて変えていこうとしている方々のメッセージはとても心強いものです。SNSでもたくさんの方々が発信されています。

自分の事件ではなくても、報道の在り方によってはまた傷つくこともセカンドレイプと言えるでしょう。傷ついたあなたへ、どうか、再びまた深く苦しむことがないように願って止みません」

■レイプはセックスではなく暴力(キャサリン・ジェーン・フィッシャーさん/『涙のあとは乾く』著者・アーティスト)

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「被害者の容姿が性犯罪に関係あると感じさせるような報道が行われるのは、性犯罪に関する知識が日本に足りていないから。レイプはセックスではないのに、レイプをセックスだと思っているのです。レイプはセックスではなく暴力です。

レイプについての話を聞いて、『私はブスに生まれて良かった』と感想を言った女性を私は知っています。レイプに関する誤解、偏見、神話(myth)があるのです。

私は在日米軍の米兵によるレイプの被害者ですが、米兵が憎いわけではありません。レイプという犯罪を憎んでいます。沖縄でレイプ事件が起こると多くの人がデモを起こすけれど、今回の俳優が起こした事件で被害者のために行動を起こす人がいるでしょうか?

私は彼女のための行動として、歯ブラシでアートを作りました。2つの意味を込めています。1つは加害者が歯ブラシを彼女に持ってこさせたことのイメージ。もう1つは、歯磨きをする間に考えてほしいということ。アメリカでは2分に1回、レイプが起こります。あなたが歯を磨いている間に誰かがレイプされていると想像してみてください。

性犯罪被害者のために何ができるか。間違った報道を行わせないために何ができるか。みんなで何ができるのか。#toothbrushというハッシュタグに歯ブラシの画像を載せることで、レイプに反対しようというのが、私の提案です」※口頭でのメッセージを筆者が要約しました。

■海外では性犯罪に対する偏見を変えるためのキャンペーンも(大澤祥子さん/ちゃぶ台返し女子アクション)

「今回の事件において、まるで芸能人の恋愛ネタのように被害者の容姿について報道することは、とても許しがたいことです。

まず、個人の特定につながるような情報を報道することは、プライバシーの侵害です。本人の意思とは関係なく被害が周囲に知られてしまうことにより、被害者の苦痛は一層深いものとなります。

また、報道では、レイプがあたかも恋愛感情や性欲の延長線上にある行為のように扱われており、性暴力の軽視を助長しかねません。被害者の容姿や年齢に触れるということは、性暴力の要因が被害者側にあると言っているようなものであり、被害者をさらに傷つけ、性暴力に対する誤解や偏見を生むこととなります。

このような性暴力における被害者非難( ヴィクテム・ブレーミング Victim-Blaming)は日本だけでなく、海外でも大きな問題となっています。一方で、その現状を変えようとする動きも出てきています。アメリカのスタンフォード大学で起きたレイプ事件においては、被害者の行動に非があるように書かれた報道や発言に対し大きな批判が巻き起こり、大勢の人々が被害者の女性に向けてサポートと連帯のメッセージを発信しました。

またイギリスでは、被害者の服装が性犯罪を引き起こすという偏見を変えるために、This Doesn’t Mean Yes(「この服は同意を意味していない」)というキャンペーンが展開されました。この他にも、被害者非難に抗議する記事や個人による発信が多くみられます。このような働きかけにより、これらの国では、性暴力や被害者非難に対する問題意識が社会の共有認識として徐々に形成されつつあります。

今回の事件においても、ネット上で報道に対する怒りの声が上がっていることを、とても心強く思います。今後は、この怒りが広がって社会全体で共有されることにより、被害者非難やセカンドレイプがなくなるよう、私たち一人一人が行動することが重要です。

またメディアには、被害者の人権を尊重した報道はもちろん、性被害がなくなるよう、より多くの人が性暴力の問題に真剣に向き合うきっかけとなる報道をしていただきたいです」

(8月26日14:40)武村若葉さんのメッセージを追記しました。

(8月26日17:30)水井真希さん、古内真望子さんのメッセージを追記しました。

(8月27日15:40)キャサリン・ジェーン・フィッシャーさんのメッセージを追記しました。

(9月9日12:30)大澤祥子さんのメッセージを追記しました。