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産後クライシス―出産後「愛情が減ったと感じる」夫婦、「愛情が増したと感じる」夫婦の違いは?

小川たまかライター

■「あさイチ」、東洋経済が問題定期

NHKの「あさイチ」で取り上げられ、その後東洋経済が特集(日本人を襲う「産後クライシス」の衝撃/2013/11/11)を組んだことで話題となった「産後クライシス」の問題。出産後に夫婦仲が悪化、特に妻から夫への感情が急激に悪化する現象のことをいいます。記事内で引用されていますが、ベネッセ次世代育成研究室が288組の夫婦に追跡調査したところ、子どもが0歳児、1歳児、2歳児となるにつれ夫婦間の愛情が低下していく傾向が明らかになりました。特に夫への愛情を感じる妻の割合は妊娠期74.3%から2歳児には34.0%にまで下がっていました。

夫婦に子どもが生まれることはこれまで幸せの象徴のようなイメージで捉えられていたところがありましたが実態は異なるかもしれず、「とりあえず、出産前に『産後クライシス』という概念を認識する。それだけでも、産後離婚のリスクを減らせるかもしれません」と東洋経済ではまとめています。

私は働く既婚女性へ取材を行うことが多いのですが、子どものいる既婚女性といない既婚女性の両方を取材してみて思うことは、子どもを持つ女性はそれだけ「考えることの量が増える」ということです。抽象的な表現で申し訳ありませんが、自分以外に守る命があるということは、それだけより深く社会と関わっていかなければならなくなるということを、取材を通して改めて感じます。1日の過ごし方や、働き方について話を聞くとき、たいてい子どもを持つ女性の方が多弁です。これは、子どもを産み育てることを通して、改めて自身の働き方や生き方を考えるからなのではないかと思います(子どもを持つ女性とそうではない女性、どちらがいいとかどちらが優れているという意味ではありません)。子どもを持つことの責任の重さは、ときにはその女性の考え方、もっといえば人生観や性格まで変えることがあるのではないでしょうか。そして、その変化が少なからず夫との関係に影響するのかもしれません。

■出産後「愛情が減ったと感じる」人、「愛情が増したと感じる」人の違いは

子どもを持つ女性のための情報サイト「ママこえ」が行った調査(※)によれば、出産前と出産後で、「夫への愛情に変化を感じる?」という問いに、43.3%が「愛情が減ったと感じる」、42.2%が「変わらない」、14.4%が「愛情が増したと感じる」と答えました。

※子どもを持つ女性180人が対象。インターネット調査。

その理由を聞いたところ、「愛情が減ったと感じる」の回答は次のようなものがありました。

■愛情が減ったと感じる

「何をするにも今は子ども優先なので、前より夫にかまってない。たまに夫にくっつかれるのが嫌なときがある」

「旦那さんのことを考える時間がもったいない。愛情なんてものをあえて口に出さなくても大丈夫な空気のような存在になっている」

「子どもに関心が向いたから」

「変わらず愛情はあるけれど、子どもが一番かわいいので愛情の順位が相対的に下がった」

「子どもが中心だから」

「旦那のことまで気が回らない」

「離婚したい。協力する気が感じられない」

「スキンシップがなくなった」、「借金があるのがわかったから」といった理由もありましたが、最も多かったのは「意識が子どもへ注がれているから」というものでした。

反対に「愛情が増したと感じる」「変わらない」と回答した人の理由は次のようなものでした。

■「愛情が増したと感じる」

「子どものためにも大切にしようと感じる」

「子どもができてなかなか2人でおしゃべりする時間すら難しいので、時間が大切だということが実感できました」

「恋愛感情はもともとなくなっていたけど、今も一緒にいるのは子どもを介しての家族愛というか仲間になったから」

「自分の子どもに対して100%同じように感じられるのって夫だけだし、そういう気持ちをシェアできる相手がいることをうれしいと思うから」

■「変わらない」

「一番大切な人が増えた」

「子どもも好きだけど、パパも好き」

「もともと愛情より友情」

「家事、育児をかなり手伝ってくれる」

「家事育児に旦那が積極的だから」

それぞれの「理由」を比べてみて分かることは、どちらも子どもへ愛情を注いでいることは間違いがないということです。「愛情が増したと感じる」と答えた人の中にも、「夫より子どもへの愛情が強い」と意識している女性はいました。その上で、それを「家族の変化として当然のこと」と考えるか、夫から子どもへ愛情が移ってしまったことに自分自身とまどいを覚えるかの違いがあるようにも見えます。

■出産後、妻が夫に感謝したことは?

また、これは以前から繰り返し言われていることですが、家事・育児に協力的な夫に対する妻の感謝の気持ちはかなり強いようです。出産後に「夫にしてもらってうれしかったこと」について集まった意見を紹介します。「何もない」「思いつかない」「うれしくないことだらけ」という回答もありましたが、女性が夫に感謝を感じていることには次のようなものがありました。

「子守をしてくれて自由時間をくれた」

「育児を手伝ってくれたこと」

「マッサージ」

「家事の手伝いや飲み物やお菓子を買ってきてくれる気遣い」

「いろいろ手伝ってくれ不安を受け止めてくれた」

「初めての子育てを一緒にがんばってくれた。夜泣きのときなども」

「よく頑張ったという一言を聞けた」

「『養っていくぜ!俺に任せろ』と男らしく言ってくれたこと」

「『大丈夫?』『交代しようか?』などの声かけ。実際にはしてもらえなくても気にかけてもらえてると感じるだけで気が楽になったから。朝早くのゴミだし。冬の寒い日に乳児を抱っこしてゴミ捨てに行くのはしんどかったので助かりました」

「小さい子どもが苦手ながらに、それでも遊ぼうとしてくれたこと」

「子どもがけがをして病院に運ばれたとき、私は仕事があってすぐに行けなかったが、夫が早退して迎えに行ってくれた。いざというときは頼りになると思った」

「子どもを見ててあげるから、好きな服をたくさん買ってきなって言ってくれて、一人でのんびり買い物させてくれたこと!」

「2人で外食」

「月に一度、子どもの面倒を見てくれて自由に遊びにいく時間をくれること」

「少し寝ておいで、交代で休もうと言って睡眠時間をくれたこと」

■「産後クライシス」を定義する意義

東洋経済の記事では、「とりあえず、出産前に『産後クライシス』という概念を認識する。それだけでも、産後離婚のリスクを減らせるかもしれません」「今、この概念を紹介する意義を言えば、それは産後の育児が妻だけの問題ではないという事実を再認識できる、ということです」と言及されていますが、私がこの姿勢に共感する理由のひとつは、私自身、夫婦仲が良くない家庭で育った経験があるからです。子どもの頃は、両親が楽しく会話しているようなお茶の間の光景は「ドラマの中だけのこと」と思っていました。実際に夫婦仲が良い家庭もあると知ったときにショックを受けた覚えがあります。

結婚・出産というイベントは、ほとんどの人が初心者です。誰もがうまくいくわけがありません。「産後クライシス」という言葉が認知されることで、家庭を持つ人、出産を控える人が、良好な夫婦仲を続けるための自分なりの考えを見つけることにつながれば、両親の仲が悪いことで心を痛める子どもが一人でも減れば、と思います。

ライター

ライター/主に性暴力の取材・執筆をしているフェミニストです/1980年東京都品川区生まれ/Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット大賞をいただきました⭐︎ 著書『たまたま生まれてフィメール』(平凡社)、『告発と呼ばれるものの周辺で』(亜紀書房)『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を』(タバブックス)、共著『災害と性暴力』(日本看護協会出版会)『わたしは黙らない 性暴力をなくす30の視点』(合同出版)など

トナカイさんへ伝える話

税込550円/月初月無料投稿頻度:月4回程度(不定期)

これまで、性犯罪の無罪判決、伊藤詩織さんの民事裁判、その他の性暴力事件、ジェンダー問題での炎上案件などを取材してきました。性暴力の被害者視点での問題提起や、最新の裁判傍聴情報など、無料公開では発信しづらい内容も更新していきます。

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