攻撃『着手』段階での敵基地攻撃は国際法違反ではないとする日米韓と、国際法違反だとする立憲民主党の違い
日本政府は反撃能力(敵基地攻撃能力)の行使の条件として、攻撃を受けた後の反撃だけではなく、敵国が武力攻撃に着手した段階でも攻撃することが可能としています。先制自衛や先制的自衛という考え方で、国際法に違反しない自衛権の範囲内という立場です。
日本政府の反撃能力(敵基地攻撃能力)の方針
- 侵害の恐れがある時に先制攻撃 → 違法。
- 我が国が現実に被害を受けた時に反撃 → 合法。
- 侵略国が我が国に対して武力攻撃に着手した時に先制自衛攻撃 → 合法。
1は国際法違反の予防戦争です。2は侵略国の領土であっても我が国を攻撃する拠点の基地ならば攻撃してよい、国際法に違反しない自衛権の範囲内です。3は現実に我が国に被害が生じていない段階でも、侵略国が武力攻撃に着手して不可逆的な状態ならば2と同様であるという考え方です。
1の「予防戦争」とは、例えば、相手国が今直ぐ戦争を起こす気でなくても数年後には行いそうなので、今のうちに我が国から先に攻め込もうというやり方です。国際法違反になります。
2は「攻撃を受けた後の反撃」です。実際にロシア-ウクライナ戦争で開戦翌日にウクライナ軍はロシア領内のロシア軍の航空基地に弾道ミサイルで反撃を行いました。これはロシア軍がウクライナ攻撃の出撃拠点として使用していた基地への反撃であったので、国際法に違反しない自衛権の行使になるので国際社会は問題視していません。 (※2022年2月25日、ミルレロヴォ空軍基地攻撃。)
3の「着手段階での攻撃」は条件が厳しくなりますが、そもそもどんな条件ならば国際法上で問題無いのか判断が非常に難しいのは事実です。このため実際には積極的に行うつもりというよりは、条件に合致する稀有な事例に巡り合わせた時に、自分たちの手足を縛られるわけにはいかないという考え方です。また将来的に技術的な進歩や配備場所の前進など現状と大きく条件が変われば、実行する機会は増える可能性があります。
立憲民主党の反撃能力(敵基地攻撃能力)の方針
日本の野党第一党である立憲民主党は日本政府の立場と異なっています。反撃能力保有については賛成していますが、侵略国による攻撃の被害が発生した後にのみ反撃を行うべきとして、着手段階での攻撃を国際法違反としています。
しかし着手段階での攻撃については、韓国政府も日本政府と同様に国際法に違反しないという立場です。
韓国政府の対北朝鮮先制打撃(대북 선제 타격)の方針
韓国の李鐘燮(イ・ジョンソプ)国防相(国防部長官)は就任直前にこのような見解の答弁書を韓国国会に提出しています。これは歴代の韓国政権の方針通りです。
そしてこれはアメリカも同じです。北朝鮮の侵攻を想定したアメリカと韓国の防衛計画「作戦計画5027(OPLAN 5027)」は、1998年の改定「作戦計画5027-98」以降で、北朝鮮が戦争を仕掛けて来る確かな兆候が察知された場合ならば米韓連合軍が攻撃を行える方針となっています。
つまり着手段階での攻撃は国際法違反ではないという立場は、日本、韓国、アメリカで揃っている見解です。
このため着手段階での攻撃は国際法違反であるという立憲民主党の見解は、日本政府の方針への批判というだけでなく、日本と同様の方針を取る韓国とアメリカをも国際法違反であると同時に言っていることになります。
すると将来もし立憲民主党が総選挙で勝利して政権を担当する際に、着手段階での攻撃は国際法違反であるとする現在の主張を維持することは非常に困難になるでしょう。日本政府が韓国とアメリカの方針を国際法違反であると言ってしまうと、外交問題になってしまうからです。
その時に立憲民主党は現在の主張を放棄してしまうか、あるいは「着手段階での攻撃は韓国とアメリカが行っても国際法違反ではないが、日本が行うと国際法違反になる」とする違いを詳しく説明する必要が生じることになります。もし「韓国とアメリカは国際法違反だ」としてしまう場合は同盟関係が維持できません。