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火炎瓶の準備は戦意高揚が目的で、積極的な実戦投入はされていない? ウクライナの宣伝戦

JSF軍事/生き物ライター
ロシアがウクライナ侵攻 火炎瓶を作る人々 2022年2月28日(写真:ロイター/アフロ)

 ウクライナではロシアによる侵攻が開始された2月24日の開戦直後に総動員を発令、国民に徹底抗戦を呼び掛けました。またウクライナの報道機関や国防省は火炎瓶の作り方を紹介し、敵を無力化して欲しいと市民に訴えています。

 そしてこれは戦時国際法の限定的な条件で合法でした。

つまり事態の急変で総動員による正規の軍隊の編成が間に合わず、軍隊として戦闘参加できない場合においては、住民が自発的に武装し戦闘を行った場合でも、捕虜としての資格を与えられるとあります。

出典:火炎瓶による市民の抵抗は合法? 徹底抗戦を掲げるウクライナと戦時国際法について

 では実際に開戦初期に市民による火炎瓶を用いた戦闘は実施されていたのでしょうか? 結論から言えば積極的な戦闘は行われていません。確認できるのは宣伝用に撮影されたものがあったくらいです。

火炎瓶で市民が「戦闘」した様子が無い

 確かに数例の火炎瓶を用いた戦闘の動画は確認できます。しかしどの動画もロシア軍側が反撃しておらず、無人の車両に火炎瓶を投げつけているだけのように見えます。

 反撃されたら生き残れないので映像が残せない・・・しかしそうであるならば、反撃したロシア軍の側から撃退が報告されていないのは奇妙なことです。動画を撮っていなかったとしても報告はできる筈です。しかしそれもありません。

 つまり積極的な火炎瓶戦闘は行われておらず、火炎瓶の準備は市民の戦意を高揚させることが目的で政治的なパフォーマンスだったのでしょう。ウクライナ政府は実際に市民に火炎瓶戦闘を実行させて無駄に命を消耗させるようなことは選択していなかったようです。

 なお開戦初頭に兵器不足でウクライナ軍の兵士が対戦車手榴弾代わりに火炎瓶を戦闘投入した報告はありますが、これは市民の戦闘参加とは別の話になります。

実戦投入されていない「火炎瓶を搭載したドローン」

ロシアがウクライナ侵攻 火炎瓶を搭載したドローン 2022年3月10日
ロシアがウクライナ侵攻 火炎瓶を搭載したドローン 2022年3月10日写真:ロイター/アフロ

 また「火炎瓶を搭載したドローン」も登場しましたが、実際に投入された事例は皆無です。ドローンはカメラで撮影しながら攻撃するので攻撃を行ったら動画で報告が必ずできる筈ですが、それが一切ありません。

 重いガラス瓶にガソリンを詰めたらかなりの重量になるので、運べる民生ドローンは産業用の大きな機体に限られます。そしてそのようなドローンには対戦車手榴弾「RKG-3」を改造したドローン用小型爆弾「RKG-1600」が用意されており、こちらの爆弾の方の投入例はたくさん報告されています。この対戦車手榴弾を改造した爆弾は重量約1kgであり、中身が詰まった火炎瓶とほぼ同じ重量です。

 火炎瓶などより遥かに威力が高いドローン専用の小型爆弾が用意されているのに、わざわざドローンに火炎瓶を運ばせる理由がありません。民生ドローンでも産業用は数が多いわけではありませんから、手作り火炎瓶をたくさん用意する必要がありません。

 つまり「火炎瓶を搭載したドローンの開発」もまた市民への戦意高揚の宣伝であり、ウクライナ政府のプロパガンダであったという結論になります。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人戦闘兵器、オスプレイなど、ニュースに良く出る最新の軍事的なテーマに付いて解説を行っています。

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