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北朝鮮が一度に8発の短距離弾道ミサイルを発射

JSF軍事/生き物ライター
北朝鮮のミサイル等関連情報(続報):日本防衛省(2022年6月5日)より説明図

 6月5日朝、北朝鮮が弾道ミサイルを大量に発射しました。韓国軍の観測では4カ所から8発、日本自衛隊の観測では3カ所から6発です。いずれも日本海に向けて発射されています。

 韓国と日本で観測結果が違うのは、一部のミサイルが飛距離110km・最大高度25kmと低く、遠い日本からでは地球の丸みの陰に隠れてしまいレーダーでは見えていなかった結果だと考えられます。

日本防衛省の発表した自衛隊の観測結果

① 9時6分頃、北朝鮮西岸付近から東方向に向けて発射し、最高高度約50km程度で、約350km程度飛翔。

② 9時10分頃、北朝鮮東岸付近から東方向に向けて発射し、最高高度約50km程度で、約300km程度飛翔。

③ 9時15分頃、北朝鮮西岸付近から東方向に向けて発射し、最高高度約50km程度で、約400km程度飛翔。

④ 9時24分頃、北朝鮮内陸部付近から東方向に向けて発射し、最高高度約100km程度で、約350km程度飛翔。

⑤ 9時30分頃、北朝鮮西岸付近から東方向に向けて発射し、最高高度約50km程度で、約400km程度飛翔。

⑥ 9時41分頃、北朝鮮内陸部付近から東方向に向けて発射し、最高高度約100km程度で、約300km程度飛翔。

また、上記の弾道ミサイルには変則軌道で飛翔したものが含まれる可能性があります。さらに、以上の弾道ミサイル6発以外にもミサイルを発射した可能性があり、関連する情報を収集し、分析しているところです。

出典:北朝鮮のミサイル等関連情報(続報):日本防衛省(2022年6月5日)

韓国軍合同参謀本部の発表した観測結果

合同参謀本部によると、北朝鮮は同日午前9時8分ごろから9時43分ごろにかけて、順安と平安南道・价川、平安北道・東倉、咸鏡南道・咸興から短距離弾道ミサイル計8発を発射した。ミサイルの飛行距離は約110~670キロ、最高高度は約25~90キロ、最高速度はマッハ3~6(音速の3~6倍)という。発射したのはロシア製短距離弾道ミサイル「イスカンデル」の北朝鮮版と呼ばれる「KN23」と米陸軍戦術ミサイル「ATACMS(エイタクムス)」に類似した「KN24」、北朝鮮が「超大型放射砲」と呼ぶ「KN25」と推定される。

出典:北朝鮮 4カ所から弾道ミサイル計8発発射=韓国「強く糾弾」:聯合ニュース(2022年6月5日)

 おそらくですがこのKN-23、KN-24、KN-25の3種類に加えて、2022年4月16日に発射された新型小型短距離弾道ミサイル(名称不明)と同じタイプが混じっていると思われます。

  • 飛行距離110km・・・新型小型短距離弾道ミサイル
  • 飛行距離400km・・・ATACMS型(KN-24)
  • 飛行距離670km・・・イスカンデル型(KN-23)
  • 最高高度25km・・・新型小型短距離弾道ミサイル
  • 最高高度50km・・・KN-23およびKN-24
  • 最高高度90km・・・600mm超大型ロケット弾(KN-25)

 過去の北朝鮮の弾道ミサイル飛行データに照らし合わせると、これらの4種類が発射された可能性が高いでしょう。

関連記事:北朝鮮が初登場の新型ミサイルを公開。小型の短距離弾道ミサイル(核弾頭型):2022年4月17日

北朝鮮6月5日発射ミサイルの推定発射地点と推定着弾地点

Google地図より筆者作図。韓国軍推定の北朝鮮ミサイル発射地点4カ所(黄色)と筆者推定の着弾地点の無人島2カ所(赤色)
Google地図より筆者作図。韓国軍推定の北朝鮮ミサイル発射地点4カ所(黄色)と筆者推定の着弾地点の無人島2カ所(赤色)

韓国軍推定の北朝鮮ミサイル発射地点

  • 平壌市の近郊・順安(スナン)
  • 平安南道・价川(ケチョン)
  • 平安北道・東倉里(トンチャンリ)
  • 咸鏡南道・咸興(ハムン)

推定着弾地点の無人島

  • 咸鏡北道・花台郡の沖合いの無人島(알섬、アルソム)
  • 咸鏡南道・利原郡の沖合いの無人島(난도、ナンド)
  • ※なおどちらも卵島という意味(海鳥の産卵場)

 咸鏡南道・咸興から咸鏡南道・利原郡の沖合いの無人島まで距離110km。平安北道・東倉から咸鏡北道・花台郡の沖合いの無人島まで距離430km。このため韓国軍が観測した飛行距離670kmのミサイルとかなりズレがあるので、このミサイルについては海上に着弾した可能性があります。

2022年の北朝鮮ミサイル発射一覧

  • 1月05日朝 1号 「極超音速ミサイル」
  • 1月11日朝 2号 「極超音速ミサイル」
  • 1月14日夕 3、4号 KN-23鉄道型
  • 1月17日朝 5、6号 KN-24
  • 1月25日朝 7、8号 巡航ミサイル
  • 1月27日朝 9、10号 KN-23車両型
  • 1月30日朝 11号 火星12
  • 2月27日朝 12号 火星17(予備実験)
  • 3月05日朝 13号 火星17(予備実験)
  • 3月16日朝 失敗 火星17(推定)
  • 3月20日朝 カウントせず(多連装ロケット4発)
  • 3月24日夕 14号 火星15?(火星17の偽装説)
  • 4月16日夕 15、16号 新型小型SRBM
  • 5月04日昼 17号 火星17(予備実験?)
  • 5月07日昼 18号 イスカンデルSLBM型?
  • 5月12日夕 19、20、21号 KN-25?
  • 5月25日朝 22号、失敗、23号 火星17予備実験?と極超音速兵器?
  • 6月05日朝 24、25、26、27、28、29、30、31号 KN-23・KN-24・KN-25・新型小型SRBM?

※失敗2発を含め17回の発射実験で33本のミサイル発射となります。予備実験を含め発射成功は31本です。

※KN-23(イスカンデル型)、KN-24(ATACMS型)、KN-25(超大型放射砲、放射砲は多連装ロケットの意味)、これらは短距離弾道ミサイル(SRBM)。KNナンバーはアメリカ軍のコードネーム。

※600mm超大型ロケット弾(KN-25)は並みのSRBM(短距離弾道ミサイル)より巨大なので、SRBM扱いされます。

※火星12は中距離弾道ミサイル(IRBM)、火星15と火星17は大陸間弾道ミサイル(ICBM)、SLBMは潜水艦発射弾道ミサイルのこと。

※北朝鮮が発射を報告したのは4月16日の新型小型SRBMまでで、それ以降は北朝鮮自身による発射報告はありません。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人戦闘兵器、オスプレイなど、ニュースに良く出る最新の軍事的なテーマに付いて解説を行っています。

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