「アメリカが北朝鮮を80発の核で攻撃検討」は誤訳による誤報

「いらすとや」より核兵器のイラスト

 アメリカの著名ジャーナリスト、ボブ・ウッドワード氏のトランプ政権暴露本「Rage(怒り)」の内容について、朝鮮日報など一部のメディアは「アメリカは北朝鮮が核攻撃してきた場合に80発の核で報復する」と報じました。

 しかしそれは誤訳であり、実際に書かれていたのは「北朝鮮が80発の核を含む可能性のある攻撃を行ってきた場合でのアメリカの対応」という内容で、80発の核とは北朝鮮側の推定保有数の話であるという指摘がハンギョレ紙などから出ています。そして韓国政府は次のような立場を示しました。

韓国青瓦台(大統領府)は15日、トランプ米政権の内幕を描いたとする米著名記者ボブ・ウッドワード氏の新著の内容に関し、2017年に北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)級の「火星14」を発射した後、米国が核兵器80発での対応を検討したと一部メディアが報じたことについて、「誤訳」との立場を示した。

出典:「米が北に核80発検討」は誤訳? 韓国大統領府「全文確認を」:聯合ニュース

原書の該当部分は74ページ目の以下の内容です。

The Strategic Command in Omaha had carefully reviewed and studied OPLAN 5027 for regime change in North Korea-the U.S. response to an attack that could include the use of 80 nuclear weapons.

(オマハの戦略司令部は、80発の核兵器の使用を含む可能性のある攻撃に対するアメリカの対応として、北朝鮮の体制転換のための作戦計画5027を慎重に再考した。)

 作戦計画5027の部分について「”80発の核兵器の使用を含む可能性のある攻撃”に対するアメリカの対応」と読めば、この80発とは北朝鮮側の行う核攻撃と解釈するのが普通です。80発とは北朝鮮の核弾頭の推定最大保有数のことだと理解すべきです。

 そもそもアメリカが北朝鮮への核報復で80発も核弾頭を撃ち込むというのは戦術的にあまりに不自然です。アメリカは通常兵器だけでも北朝鮮を滅ぼすことができるのですから、核報復する場合は必要最低限の数に止める筈です。北朝鮮のような小国相手に核弾頭80発はどう考えても過剰攻撃でしょう。

 さらに言えばアメリカ軍の作戦計画で使用する核弾頭の数が予め決まっているなどという話は不自然です。かつてのソ連のような超大国から大規模な全面核戦争を仕掛けられたならば全力で反撃することになりますが、北朝鮮のような小国が相手ならば限定核戦争になる筈です。仮想敵の北朝鮮がどのような小規模の核攻撃を行ってくるのか不明なのですから、攻撃を受けてから適切な報復量を決めるのが当然でしょう。

 文意の読解の面でも、戦術的な面でも、「アメリカは北朝鮮が核攻撃してきた場合に80発の核で報復する」という内容は考えられない記述です。ウッドワード氏の暴露本のこの部分での新しい発見を正しく理解すると「これまで北朝鮮の核弾頭は最大で40発と推定されていたが、2倍の80発である可能性がある」ということになります。