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実はあまり役に立っていないレッドサラマンダー

JSF軍事/生き物ライター
岡崎市HPよりレッドサラマンダー

 愛知県岡崎市消防本部に配備されている関節連結型全地形対応車「レッドサラマンダー」は、非常に高い踏破性能を持つ特殊車両です。シンガポールの軍需企業STエンジニアリング製で、軍用車両「ブロンコATTC」の民生版「ExtremV」がその正体です。日本では消防車メーカーのモリタが輸入代理を行っています。

関節連結型全地形対応車とは

 関節連結型全地形対応車とはスウェーデンのヘグランド「Bv.206」が最も有名ですが、本来は雪上で自由に走り回る目的の車両です。非常に幅広く長いクローラー(履帯)を採用して接地圧を可能な限り小さくして、足回りが沈み込まないように設計されています。

  • 雪上(深雪)
  • 干潟(泥濘)
  • 降灰(堆積)

 上記のようなタイヤ式の車両どころか通常の履帯式の車両でも足回りが沈み込んで行動不能になるような過酷な条件でも、関節連結型全地形対応車ならば走行が可能です。これらの条件の地形でも走行が可能ならどんな条件の地形でも走行できるという意味を込めて全地形対応車と銘打たれています。

あまり役に立っていないレッドサラマンダー

 レッドサラマンダーは将来起こる大災害に備えて緊急消防援助隊用の全地形対応車として採用されました。まだ現状では1両だけですが、運用実績が満足いくものであれば多数追加購入することも考えられていたはずです。しかし現在までの運用実績は芳しいものではありません。

  • 2013年3月、愛知県に配備
  • 2017年7月、大分県の豪雨被害に出動(初投入されるも活動は低調)
  • 2018年7月、岡山県の豪雨被害に出動(冠水した状況で活動できず)
  • 2019年10月、千葉県の豪雨被害では出動せず
  • 2020年7月、熊本県の豪雨被害では出動せず

 レッドサラマンダーは配備から7年間で出動は2回のみで、人命救助の実績はありません。2017年の大分県では初投入ということもありましたが主に隊員を輸送したくらいで、2018年の岡山県では2階まで水没した真備町で何もできず、水が引いてからようやく活動を始めたという有様でした。

 レッドサラマンダーには浮上航行能力もあるのですがゆっくりとしか進めず、浮力の余裕も少ないので流れのある川や波のある海では航行できません。冠水した真備町では航行するだけなら可能だったかもしれませんが、船外作業ができるような余裕はなく、この状況で人命救助に活躍したのは渡河ボートやゴムボートなどちゃんとした舟艇でした。船としての性能が低いタイプの水陸両用車が活躍できるような状況ではなかったのです。

 またレッドサラマンダーは関節連結型であるために履帯式でありながら信地旋回や超信地旋回といったその場での回転旋回が出来ず、小回りも利かず最小回転半径8mと大型バスやトラック並みで、狭い山間部や入り組んだ市街地での取り回しがあまりよくありません。

 それでも津波が襲った後の泥と瓦礫で覆われた場合や火山が噴火して降灰が大量に堆積した場合ならば、レッドサラマンダーが活躍できる可能性があります。深雪、泥濘、火山灰といった条件ならば比類なき走破力を発揮できることは間違いなく、普段は活躍できなくても100年に1度の大災害に活躍できればよいという考え方もあるでしょう。ただしその出番が到来したとしても僅か1~2両では焼け石に水です。しかし大量導入しようにも普段はあまり役に立たないというのであれば、予算を投じることはなかなか難しいというジレンマがあります。

 追加の購入を止めるべきなのか、それとも大災害に備えて大量調達すべきなのか。果たして税金の正しい使い道としてレッドサラマンダーの調達はどうあるべきなのでしょうか? 

関節連結型全地形対応車の構造

エンジン付き前部車体から後部車体への動力分配

Wikipediaより自在継手
Wikipediaより自在継手

 関節連結型全地形対応車は車体が前後に二分割されていて、エンジンの付いた前部車体から自在継手(ユニバーサルジョイント)を装着したプロペラシャフトが後部車体に接続されて動力が分配されて、後部の車体の履帯も回転します。後部車体は牽引されているわけではなく、前部車体と一緒に動きます。

 これは幅広で長い履帯を装着して接地圧をできるだけ低くしたいのですが、あまりにも幅広かつ長過ぎる履帯は旋回性能が極端に落ちてしまうので、旋回性能を確保するのが目的です。車体に関節を設けて二分割してしまえば曲がりやすくなるという発想です。

油圧シリンダーを用いた操舵システム

STエンジニアリング社よりブロンコ3の関節部分
STエンジニアリング社よりブロンコ3の関節部分

 通常の履帯式の車両は左右の履帯に回転差を付けて旋回します。しかし関節連結型全地形対応車は履帯式の車両ですが左右の履帯は同じ回転数のままで、前後の車体の間に装着された左右2本の油圧シリンダーを用いることで前と後ろの車体を左右に曲げて旋回します。関節部分そのもので操舵する「屈折式ステアリング」という機構になっています。

 また油圧シリンダーは旋回用の左右2本だけでなく中央の前後にも2本付いており、これを作動させることで車体を上下の方向に「へ」の字あるいはその逆に曲げることができます。これは悪路でスタックした際に自力で車体を持ち上げて突っ張らせて、地面に履帯を噛み合わせて脱出する狙いがあります。

  • 関節連結型全地形対応車ヘグランドBv.206の関節油圧駆動
軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人戦闘兵器、オスプレイなど、ニュースに良く出る最新の軍事的なテーマに付いて解説を行っています。

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