03式中SAM改のBMD対応改修とPAC-3との関係性

陸上自衛隊より03式中距離地対空誘導弾(改)発射試験 矢臼別演習場

 陸上自衛隊の03式中距離地対空誘導弾改(03式中SAM改)に弾道ミサイル迎撃対応改修(BMD対応改修)を施すことを、2019年12月28日に産経新聞が、2020年1月6日に日経新聞が報じています。

03式中SAM改へのBMD対応改修はPAC-2GEM-Tに相当

 これは03式中SAM改をソフトウェア等の改修で弾道ミサイル迎撃に対応させるもので、ミサイルそのものに大幅な変更を加えるものではありません。パトリオット迎撃ミサイルで言えば弾道ミサイル迎撃に対応していなかったPAC-1を元に、弾道ミサイル迎撃に対応させるべくPAC-2迎撃ミサイルに改修を施していった経緯に似ています。PAC-2は何度も段階的な改修が施され、現在では弾道ミサイル迎撃に最適のタイミングで起爆するよう調整された近接信管を搭載した「PAC-2 GEM-T(PAC-2誘導強化型・対戦域弾道ミサイル)」が配備されています。

 03式中SAM改へのBMD対応改修は能力的にこのPAC-2GEM-Tに相当します。つまり最初からBMD対応で設計されているPAC-3迎撃ミサイルには能力的に全く及びません。あくまでターミナル段階大気圏内での弾道ミサイル防衛の主役は航空自衛隊のPAC-3であり、陸上自衛隊の03式中SAM改BMD対応改修弾はこれを補完する立場になります。

 ミサイル自体のサイズは似通っている03式中SAM改とPAC-3ですが、構造が大きく異なっており完全に別種の迎撃ミサイルです。弾道ミサイル迎撃では相手がイスカンデルのような変則的な軌道を飛んでくる相手だろうと、PAC-3の迎撃能力は他の同クラスの迎撃ミサイルよりも遥かに上です。一部の報道でPAC-3がイスカンデル迎撃に能力が不足しているかのような書き方がありますが間違いです。アメリカ軍はイスカンデル迎撃にPAC-3が能力的に不足しているとは全く思っていません。

PAC-3迎撃ミサイルの特異過ぎる設計

 PAC-3の設計が特異な部分は「本来ならば炸薬を搭載する場所を全てサイドスラスターに充てて驚異的な機動性を確保し、弾道ミサイル目標に体当たりする」という基本設計にあります。PAC-3の搭載炸薬はほぼゼロ、対航空機用にリサリティエンハンサーと呼ばれる近接爆発ユニットを補助的に搭載してはいますが炸薬量は僅か0.35kg。同クラスの他の中距離地対空ミサイルの搭載炸薬量が40~50kgあるのと比べると桁が二つ少ないのです。

アメリカ陸軍よりPAC-3の図解。赤線がサイドスラスター部分
アメリカ陸軍よりPAC-3の図解。赤線がサイドスラスター部分

【参考】PAC-3のリサリティエンハンサー(筆者の外部記事)

 

 PAC-3のサイドスラスターはACM(姿勢制御モーター)と呼ばれる小型固体ロケットモーターが180個も搭載されています。サイドスラスターを持つ大気圏内迎撃ミサイルは他にもありますが、これほど大量に搭載しているのはPAC-3だけです。PAC-3のサイドスラスターは重心より前寄りに搭載されており、これにより急激な方向転換を何度も行えます。この物理的な装備の差により、他の迎撃ミサイルとは一線を画した高い機動性を発揮することが可能です。そして空気が薄くなる高高度では空力操舵が効き難くなるのですが、サイドスラスターならば空気が無かろうとお構いなしに機動できます。仮にカタログスペック上でPAC-3と同程度の最大射撃高度を持つ他の迎撃ミサイルがあったとしても、実際の高高度での機動性で大きく差が生じている筈です。

 PAC-3の「本来ならば炸薬を搭載する場所を全てサイドスラスターに充てる」という特異な設計は未だに他に真似をする物は出て来ていません。炸薬をほぼ捨ててしまうので直撃で当てる自信が無ければとても採用することは無理だからです。これと比べると03式中SAM改はサイドスラスターを持たず近接爆破用の炸薬を持つ一般的な普通の構成の迎撃ミサイルになります。

ロッキード・マーティンよりサイドスラスターを噴くPAC-3MSE
ロッキード・マーティンよりサイドスラスターを噴くPAC-3MSE