北朝鮮ミサイルの「分析中」「可能性」とは何を意味するのか?

防衛省資料より2019年の北朝鮮ミサイル発射一覧表の一部

 日本防衛省は北朝鮮が2019年に発射したミサイルについて観測したデータから性能の評価を行っていますが、一部の発射については「分析中」「可能性」といった表現を行って断定していません。そこで防衛省が断定していない理由を推定していきます。

防衛省資料より2019年11月5日までの北朝鮮ミサイル発射の表
防衛省資料より2019年11月5日までの北朝鮮ミサイル発射の表

防衛省:北朝鮮のミサイル等関連情報

「大口径ロケット弾」が「分析中」である理由

 北朝鮮が7月31日と8月2日に発射した飛翔体について防衛省は「分析中」としています。これは発射翌日の北朝鮮自身の発表では「大口径ロケット弾」だったのですが、異例なことに発表写真にはモザイクが掛けられ詳細な分析ができませんでした。

北朝鮮発表写真よりモザイク入りの発射車両
北朝鮮発表写真よりモザイク入りの発射車両

 北朝鮮が公表写真にモザイクを掛けた意図はよく分かっていません。ただし見えている範囲で発射筒の搭載数や車両の大きさから対比した大雑把な推定で直径400mm前後のロケット弾とすると、北朝鮮の主張する大口径ロケット弾という分類に整合します。しかし韓国軍の観測した飛行性能の数値は以下の通りで、それは異様な結果でした。

  • 7月31日発射 水平距離250km 最大高度30km
  • 8月2日発射 水平距離220km 最大高度25km 最大速度マッハ6.9

 速度があまりにも速過ぎるのです。マッハ6.9は400mmロケット弾としては異様に速い数字です。また飛行パターンは極端に低い弾道(ディプレスト軌道)です。低い弾道はそれ自体が射程を短くする上に、低ければ空気の密度が濃く空気抵抗も大きくなり更に射程が落ちます。もしこの飛行性能で最もよく飛ぶ角度で発射した場合、射程500kmは飛べてしまいます。

 つまりこの飛翔体は韓国軍の観測データからは短距離弾道ミサイルとしか言いようがありません。しかし発表された写真から推測されたサイズは400mmロケット弾で、とてもこの飛行性能を発揮できる大きさではないと防衛省は困惑し、はっきりした断言ができず「分析中」とせざるを得なかったのです。発表写真にモザイクが掛かっていたことだけでそうしたのではなく、飛行性能と発表写真に明らかな矛盾が見受けられたからなのです。

 そこで筆者が推定する可能性としては、7月31日と8月2日に発射されたのは実際には北朝鮮版イスカンデル短距離弾道ミサイルであり、低弾道発射の限界に挑んだ実験だったというものです。それを何らかの理由で隠す欺瞞目的として、全く別のロケット弾の写真を公表したのではないかと考えますが、どのような目的でそのようなことをしたのか動機は全く分かりません。そうなると下手な推測はせずに「分析中」とだけ発表する防衛省の判断が最も賢明なように思えます。

短距離弾道ミサイルの「可能性」とは?

 北朝鮮が8月10日と8月16日に発射した飛翔体について防衛省は「短距離弾道ミサイルの可能性」としています。この飛翔体は発射当日には観測された飛行性能から北朝鮮版イスカンデルと予想されていましたが、発射翌日の北朝鮮発表写真はATACMSそっくりの形状で日米韓の軍関係者を驚愕させました。しかしイスカンデルでもATACMSでも短距離弾道ミサイルであることには変わりがないはずで、なぜ日本は「可能性」としているのでしょうか?

 なお北朝鮮は公式声明でこの飛翔体を「新型兵器」としか呼称せず、弾道ミサイルとは説明していません。そして弾体の形こそATACMSに似ていますが、大きさは全く異なる上に、尾部と操舵翼の部分はむしろイスカンデルに似ています。

 そのため筆者である私は「ATACMSのコピー品ではなくATACMSの皮を被ったイスカンデルである」可能性が高いと分析します。しかし海外の識者にはもっと大胆な可能性を唱える人も居ます。ドイツのミサイル専門家マルクス・シラー(Markus Schiller)博士は「イスカンデルの写真を加工してATACMSのように見せているのではないか」という可能性について指摘しています。

・シラー博士の説明1/19

・シラー博士の説明14/19 数字が従来のミサイルに描かれていたものと比べると不自然に縦長である(圧縮された可能性)

・シラー博士の説明15/19 数字が正常に読めるまで写真を伸ばすと全長と直径の比率がイスカンデルと一致する

 あくまでこれはシラー博士の仮説に過ぎません。しかし怪しい部分であることは確かです。大口径ロケット弾の発表写真をモザイク加工したという前例もあります。ATACMS擬きの写真を加工している可能性を否定できません。

 つまり防衛省はATACMS擬きの分類をイスカンデルと別にするか同一ミサイルとするかで、迷っているのかもしれません。そこで短距離弾道ミサイルであることは間違いないがわざと言い切らず「可能性」として、判断を保留したかったのだと思います。

超大型ロケット弾は並みの短距離弾道ミサイルより大きい

 北朝鮮が8月24日、9月10日、10月31日に発射した飛翔体について防衛省は「短距離弾道ミサイル」と明言しました。しかし北朝鮮自身は「超大型ロケット弾」と公表しています。これについては簡単な話で、大きさと飛行性能が同等以上なので短距離弾道ミサイル扱いするという日本の意思表示です。日本だけでなく米英仏独韓など主要国全て弾道ミサイル扱いしています。

  • 北朝鮮のKN-25超大型ロケット弾(直径600mm、全長8.6m)
  • アメリカのATACMS弾道ミサイル(直径600mm、全長4m)

※超大型ロケット弾の推定値はKN-25 | CSISを参照

 北朝鮮の超大型ロケット弾はなんと本家アメリカ製ATACMS短距離弾道ミサイルと直径がほぼ同じで全長は2倍以上、重量もおそらく2倍以上です。よく大型ロケット弾については短距離弾道ミサイルとの境目が曖昧な存在だと解説されることも多いのですが、この北朝鮮の超大型ロケット弾に限って言えば曖昧どころか大きく飛び越えてしまっています。ゆえにいくら北朝鮮がロケット弾だと言い張っても世界は弾道ミサイル扱いするでしょう。

左:北朝鮮KN-25 右:アメリカATACMS。北朝鮮とアメリカの発表写真から直径で揃えた大きさ比較
左:北朝鮮KN-25 右:アメリカATACMS。北朝鮮とアメリカの発表写真から直径で揃えた大きさ比較

 この大きさならば核弾頭の搭載すら可能かもしれません。4連装発射機の4発中1発のみ核弾頭として残り3発を囮として機能させる戦法も考えられます。あまりにも大き過ぎるので単なるロケット弾だと侮るわけにはいかない存在なのです。