極超音速兵器とは何か

アメリカで試験された極超音速滑空兵器「ファルコンHTV-2」のイメージ画像(写真:DARPA/ロイター/アフロ)

 中国やロシアが開発している、弾道ミサイル防衛を突破可能な「極超音速兵器」という新兵器は一体どういうものなのでしょうか。極超音速(ハイパーソニック)とはマッハ5以上を指す言葉なのでマッハ5以上を発揮できる兵器である・・・という説明だけでは、大雑把過ぎて適切ではありません。実は旧来型の兵器でもマッハ5以上を発揮できるものが含まれているからです。特に弾道ミサイルは射程500kmの短距離のものでマッハ5を超えているので、それ以上の射程の弾道ミサイルは全て極超音速です。弾道ミサイルだけでなく、対空ミサイルや対レーダーミサイルなどにもマッハ5以上を発揮できるものがあります。しかし、これら旧来からある兵器は極超音速を発揮できても「極超音速兵器」と呼ばれることは通常ありません。弾道ミサイルが極超音速を発揮できるのは普通の事だからです。

極超音速滑空ミサイルと極超音速巡航ミサイル

 今注目されている弾道ミサイル防衛を突破できる「極超音速兵器」とは、「弾道ミサイル並みの射程と速度を持ちつつ弾道飛行を行わない」ものを指します。それは「極超音速滑空ミサイル」と「極超音速巡航ミサイル」です。弾道飛行は効率よく物体を投射できる代わりに飛行経路と着弾位置を簡単に計算されてしまうので、迂回機動を取る事が可能な別の飛行方法である滑空と巡航を行います。また大気圏外の宇宙空間までは飛び出さずに希薄な大気が残る高高度を飛ぶことにより、弾道ミサイル防衛用の大気圏外迎撃ミサイルを全て無力化し、更に極超音速を発揮する事で大気圏内用の迎撃ミサイルも殆どを無力化できます。ゆっくりと飛んでいては高高度であっても従来型の大気圏内迎撃ミサイルでも対応されてしまうので、極超音速での飛行が要求されます。

極超音速滑空ミサイル

 極超音速滑空ミサイルとは発射・加速をロケット(弾道ミサイル)で行い、弾頭部分をグライダー(滑空翼体)とする兵器です。全体のシステムを含めて極超音速ブーストグライド兵器、あるいは弾頭部分を指して極超音速グライダーとも言います。構造は簡単そうに見えますが、大気の上層部を大陸間弾道ミサイル並みのマッハ20で滑空し続けると空気の断熱圧縮で高温となる時間は弾道ミサイルよりも長くなる上に、高温でプラズマ化した空気は外部との通信を阻害して誘導を困難にし、開発には弾道ミサイルよりも高い技術が要求されます。

 この種の兵器はアメリカ、ロシア、中国で研究開発されていますが、公式に実戦兵器として配備予定が宣言されたものは現時点でロシアの極超音速滑空翼体「アヴァンガールト」のみです。アヴァンガールトは固定サイロで運用され、大陸間弾道ミサイルと同等の最高速度マッハ20、1万km前後の射程を持つとされています。

極超音速巡航ミサイル

 巡航ミサイルはジェットエンジンを噴射し続けて飛びますが、マッハ5以上の極超音速は従来型のジェットエンジンでは達成は困難で、「スクラムジェットエンジン」などの全く新しい設計のエンジンが必要になります。これに加えて速度が上がって行けば極超音速滑空ミサイルと同じく熱の問題も出てきます。現時点で実戦配備予定が公式に宣言されているのはロシアの極超音速巡航ミサイル「3M22 ツィルコン」だけですが、これまでのロシアでの報道で伝えられている性能はマッハ5~8、数百km~1000kmの射程を持つ対艦攻撃用とされています。この性能から分かるようにツィルコン極超音速巡航ミサイルは戦術用の兵器です。

対抗手段

 大気圏外迎撃ミサイルが無力化してしまう迎撃高度の問題については、希薄大気の中でも機動が可能なサイドスラスターを持ち空気抵抗を考慮した砲弾型の形状の迎撃体ならば対応可能です。現在実戦配備された迎撃兵器ではTHAADがこれに該当します。しかし高度の面は解決できても本来THAADは中距離弾道ミサイルまでが対応できる設計で、大陸間弾道ミサイル並みの速度を持つアヴァンガールトには速力の面で対応できません。これを解決するために改良型2段式THAAD、「THAAD-ER」が既に提案されています。ただし迂回機動を取ってくる事への対応手段は無いので、確実に迎撃するためには目標が接近して引き付けてから迎撃しなければならなくなり、迎撃可能範囲は狭くなるので、広範囲を守るためには数多くの迎撃システムを配備する事が要求されます。対艦ミサイルであるツィルコンに対しては、アメリカ海軍が必要と判断した場合は艦載型THAADの開発も視野に入ってくるかもしれません。ただしツィルコンの速度は準中距離弾道ミサイル以下なので、大気圏内用のSM-6艦対空ミサイルで対応可能と判断される場合もあります。

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