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在韓米軍THAADと東欧MDの配備問題における共通性、中国とロシアの本音

JSF軍事/生き物ライター
在韓米軍のレポート「Strategic Digest 2017」より

 中国が激しく反発して韓国との関係が険悪になっていた在韓米軍THAAD配備問題について、10月31日に中国と韓国は関係改善を発表し合意した3点を表明しました。

  1. THAADの追加配備を検討しない事
  2. アメリカ主導の弾道ミサイル防衛網に加わらない事
  3. 日米韓の安全保障協力を軍事同盟に発展させない事 

 中国の要求、本音が全て此処に現れています。「THAAD配備を切っ掛けに韓国がアメリカのアジア版MD(弾道ミサイル防衛網)に組み込まれ、日米韓の関係がより強固になり軍事同盟へと発展する」という事態を拒否しなければならない。在韓米軍のTHAADに反対していた時の「THAADのレーダーで中国が覗き見られてしまう」という主張は、本当の理由ではなかったのです。軍事技術的な懸念が理由などではなく、全て政治的な理由が動機だと結論付けられます。中国が恐れているのはMD網の構築を切っ掛けとした日米韓の軍事同盟化、アジア版NATOに発展する事だったのです。

韓国がイスラエル製MD用レーダーを配備した時は何も言わなかった中国

 韓国軍はイスラエル製MD用レーダー「EL/M-2080S スーパークリーンパイン」を購入済みで、2012年に稼働を始めました。このレーダーは弾道ミサイル防衛システム「アロー」用の車載移動式レーダーで、アメリカのTHAAD用レーダー「AN/TPY-2」と役割も大きさも性能も全て似通っています。スーパーグリーンパインの探知距離は800~900km、AN/TPY-2の探知距離は1000kmと公式発表されています。そして中国はスーパーグリーンパインが韓国に配備された時に何も言わなかったのに、在韓米軍がTHAADを配備する時にだけ激しく反発しました。この一点だけをもっても、中国の反対理由は機材の技術的理由ではなく、アメリカを中心とする軍事同盟の拡大にあると分かっていた事でした。

 なお中国は在日米軍にXバンドレーダー(AN/TPY-2の事)が配備された時にも反対していません。これは日本への配備が為されても前方にある韓国へ情報が送られるわけではなく繋がりは強化されないからです。しかし在韓米軍にMD用レーダーが配備されれば観測された情報は全て米軍と自衛隊に伝達されます。アメリカの弾道ミサイル防衛網として機能する事になるわけです。この前例を見る限り、日本が新たにイージスアショア(陸上型イージス)を導入しても中国は政治的に大きく反対したりはしないでしょう。そもそも日本には以前からイージス艦が居るのですから、技術的にも反対する理由が今さら存在しません。

ロシアが欧州MDに反対する理由も技術的なものではなく政治的なもの

 ロシアが欧州MDに反対するのも同じように政治的な理由であり、軍事技術的な理由で反対する主張は何もかもがこじ付けであり本心ではありません。アメリカを中心とするNATOが計画する欧州MDはイランの弾道ミサイルに対処する目的のものですが、イージスアショアの配備予定地点2カ所はルーマニアとポーランドです。ロシアはこれをNATO東方拡大、東欧との軍事的連携の強化と見做して強行に反対しています。

 もしロシアが本気で「大陸間弾道ミサイル(ICBM)が迎撃されて軍事バランスが崩れてしまう」と心配しているなら、反対すべきは欧州MDではなくアメリカ本土防衛用のGBIでなければなりません。欧州MDのイージスアショアに配備される迎撃ミサイル「SM-3ブロック2A」ではロシアのICBMを迎撃する能力はありませんし、そもそもロシアから米本土に向かうICBMは位置的に欧州MDでは有効射程に届きもしないのです。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人戦闘兵器、オスプレイなど、ニュースに良く出る最新の軍事的なテーマに付いて解説を行っています。

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