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自衛隊の新兵器「島嶼防衛用高速滑空弾」とは

JSF軍事/生き物ライター
防衛省、平成30年度概算要求より

 8月31日に防衛省の平成30年度概算要求が掲載されました。その中にこれまでにない自衛隊の新兵器開発予算が計上されていました。それは「島嶼防衛用高速滑空弾」と「島嶼防衛用新対艦誘導弾」です。 

防衛省・自衛隊 我が国の防衛と予算-平成30年度概算要求の概要-(PDF:6MB)(平成29年8月31日掲載)

島嶼防衛用高速滑空弾
島嶼防衛用高速滑空弾

○島嶼防衛用高速滑空弾の要素技術の研究(100億円)

 島嶼防衛のための島嶼間射撃を可能とする、高速で滑空し、目標に命中する島嶼防衛用高速滑空弾の要素技術の研究を実施

島嶼防衛用新対艦誘導弾
島嶼防衛用新対艦誘導弾

○島嶼防衛用新対艦誘導弾の要素技術の研究(77億円)

 諸外国が保有するミサイルの長射程化を踏まえ、その覆域外から対処が可能となるよう、現有の対艦ミサイルの射程及び残存性の向上を目的として、新たな島嶼防衛用対艦誘導弾の要素技術の研究を実施

 どちらも島嶼防衛を名目とした長射程兵器です。「島嶼防衛用新対艦誘導弾」の方は、予想図からアメリカのLRASM対艦ミサイルと同じように亜音速で飛行する長距離対艦ミサイルと考えられ、数百kmの射程を持ち、更に対地攻撃も可能になると考えられます。というのも、この予想図は平成26年度事前事業評価の「先進対艦・対地弾頭技術の研究」で紹介された対地弾頭技術の研究に描かれたミサイルの予想図とそっくりなのです。

対艦用二重貫通弾頭と対地用EFPクラスター弾頭の開発を行う日本防衛省 - Y!ニュース

マルチプルEFP対地弾頭も搭載可能か
マルチプルEFP対地弾頭も搭載可能か

 「島嶼防衛用新対艦誘導弾」は対艦用だけでなく対地攻撃も可能な、新しい設計の長距離対艦ミサイルになるでしょう。これは本格的な巡航ミサイルだと言えます。

 しかし「島嶼防衛用高速滑空弾」に付いては、現時点で判明している情報からはまだ謎が多い兵器です。対艦攻撃用ではなく対地攻撃専用と見られ、ロケットモーターで加速した後に滑空弾頭を切り離して飛翔する兵器であり、弾道ミサイルでも巡航ミサイルでもない兵器になります。そしてこの種の滑空兵器は大きく分けて2種類があります。

●ブーストグライド兵器・・・弾道ミサイルなどをブースターに用いて極超音速グライダー弾頭を発射する兵器。大気圏の上を跳ねるように飛行し大陸間弾道ミサイル並みの射程を持つ兵器で、各国が開発中。

●滑空爆弾・・・航空機から投下される推進力を持たない折り畳み式の有翼を持つ爆弾。例外的に地上から発射するロケット弾の弾頭部分に小型の航空機用滑空爆弾を搭載した合体兵器「GLSDB」も存在する。

DARPAよりブーストグライド兵器、ファルコンHTV2
DARPAよりブーストグライド兵器、ファルコンHTV2

 自衛隊の「島嶼防衛用高速滑空弾」がどちらに近い兵器なのか。予想図からブースター部分は多連装ロケット発射機用のロケット弾とそっくりでGLSDBに近いように見えますが、しかし滑空型弾頭の部分は翼が見当たらず、ブーストグライド兵器のグライダー弾頭の方に非常によく似ています。

島嶼防衛用高速滑空弾
島嶼防衛用高速滑空弾

 また島嶼間射撃とある以上、石垣島や宮古島に展開して尖閣諸島を撃つ想定ならば射程200km前後、沖縄本島から撃つなら射程450km前後が想定されます。そしてブーストグライド兵器で最も射程が短いのは2012年に開発中止されたアメリカのアークライト計画でしたが、これはSM-3迎撃ミサイルのブースターを利用して射程3700kmを予定していた極超音速グライダー弾頭でした。自衛隊の「島嶼防衛用高速滑空弾」とは射程が違い過ぎて、同種の兵器なのか疑問が残ります。

 現時点では「島嶼防衛用高速滑空弾」がどのような兵器になるのか情報が少なすぎて判然としませんが、簡易的なブーストグライド兵器だとした場合は将来的には島嶼防衛用だけでなくもっと長射程のものを開発できる余地が出来ます。弾道ミサイル並みに高速で長射程かつ誘導性能も持つとした場合、偵察をどうする気なのかはまた別の話とすると、敵基地攻撃能力・弾道ミサイル狩りにも使用できる性能を持つ新型兵器となり得るでしょう。

 「島嶼防衛用高速滑空弾」と「島嶼防衛用新対艦誘導弾」は両方とも島嶼防衛用を謳っていますが、自衛隊がこれまで持っていなかった長射程対地攻撃兵器の開発を意味しています。将来的には敵基地攻撃能力を持つ兵器として発展する可能性を持つ事になります。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人戦闘兵器、オスプレイなど、ニュースに良く出る最新の軍事的なテーマに付いて解説を行っています。

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