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北朝鮮ノドン弾道ミサイルのランチャー数は50基以下

JSF軍事/生き物ライター

アメリカ国防総省が5月2日に初めて提出した「北朝鮮の軍事力2012」報告書には、北朝鮮の弾道ミサイル戦力に付いて以下のような表が掲載されていました。(元は英文で和訳してあります。)

ノドン弾道ミサイルのランチャー数は50基以下

米国防総省年次報告「北朝鮮の軍事力2012」の表より和訳
米国防総省年次報告「北朝鮮の軍事力2012」の表より和訳

今回の報告書にはミサイル本数の記載は無くランチャー数だけでした。北朝鮮の保有ミサイル数は諸説ありますが、スカッド系が500~600発、ノドンが200~300発はあると推定されており、ランチャー1基あたり5~6発のミサイルが用意されている計算です。比較として、中国軍の短距離弾道ミサイルでは移動式ランチャー×1輌(ミサイル1本搭載)と輸送車両(ミサイル2本搭載)×2輌の組み合わせなので、編成としては妥当な数字です。

・核弾頭ICBMはランチャー数=ミサイル本数

・通常弾頭SRBMはランチャー数<ミサイル本数

一般的に核弾頭ICBM(大陸間弾道ミサイル)はランチャー数とミサイル本数が同じで、通常弾頭SRBM(短距離弾道ミサイル)はランチャー1基あたり数発のミサイルが用意されます。ICBMは全面核戦争用の装備であり継続的な攻撃は求められていません。また地下に穴を掘って建設する固定式の硬化サイロや大型野戦機動トラックを改造して作る移動式ランチャー(TEL)はとても高価です。ミサイル1本当たりに発射機1基を用意するのは価値の高い核弾頭ICBMなら見合いますが、安い通常弾頭SRBMでは費用的に見合わないという面もあります。弾道ミサイルは射程が長く大きなミサイルほど値段が跳ね上がって行きます。

北朝鮮の弾道ミサイルは殆どが移動式ランチャーでの運用

今回の報告書ではランチャーの種類には触れていませんが、その殆どが車両移動式のTEL(Transporter Erector Launcher 輸送起立発射機)である筈です。北朝鮮は縦深が少ない為、位置が暴露されやすく生存性が低い固定サイロ式発射基は役に立ちません。ただしテポドン2は大き過ぎる為にTELでの運用は無理で、実戦配備する積りなら固定サイロを用意する必要が有ります。テポドン2が実戦配備されるかは未知数で、TELで運用できる新型長距離弾道ミサイルKN-08が本命であるのかもしれませんが、KN-08は情報が無さ過ぎて今回の報告書では具体的な言及は有りません。

※固定サイロ発射式の大陸間弾道ミサイルは世界的に見ても新規開発計画はロシアが計画している新型の液体燃料式重ICBMくらいしか計画が無く、冷戦時代からある古いものが退役していくと殆ど消えてしまいます。

移動式ランチャーを発射前に狩り切るのは不可能

有事が近付くと北朝鮮の弾道ミサイル部隊は移動式ランチャーと予備弾運搬車両が全て基地から出て全土に散開し、身を潜める事になります。基地は蛻の殻であり攻撃しても無意味です。そして逃げ回る移動式ランチャーを狩る事は著しく困難で、湾岸戦争では失敗に終わっています。砂漠の中で数千機の航空機を投入していた多国籍軍ですら多くを撃ち漏らしました。これが隠蔽しやすい森林と山岳の北朝鮮では更に困難になる事が予想出来ます。森林の多いユーゴ空爆でも航空攻撃で車両を狩り切る事はとても無理でした。

弾道ミサイルの攻撃に対しては発射されてしまったものを弾道ミサイル防衛システムで迎撃する事、発射された後に判明した位置へ攻撃を行い再発射を阻止する事、監視を継続し発見次第攻撃する事で逃げ回る弾道ミサイル部隊は散発的な攻撃をせざるを得なくなり、飽和攻撃の企図を挫き、弾道ミサイル防衛システムの迎撃を容易にさせる事が重要になります。

現在、海上自衛隊とアメリカ第7艦隊のイージス艦が搭載しているSM-3迎撃ミサイルは合計で推定100発近くありますが、北朝鮮のノドン部隊50発射基が3回目の発射を行う頃には足りなくなってしまいます。1~2回目の発射後の空爆によって数を減らさないと防ぎ切れません。あるいはイージス艦のSM-3搭載数を増やすかハワイやサンディエゴからイージス艦の増援、フォートブリスからTHAAD部隊を送り込むかが必要になって来ます。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人戦闘兵器、オスプレイなど、ニュースに良く出る最新の軍事的なテーマに付いて解説を行っています。

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