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核攻撃型トマホーク巡航ミサイル、完全退役

JSF軍事/生き物ライター
アメリカ海軍よりトマホーク巡航ミサイルの垂直発射

 アメリカ海軍から対地攻撃用トマホーク巡航ミサイル核攻撃型(TLAM / N)が完全に退役しました。以前から核トマホーク用W80-0核弾頭はミサイルから外されて地上で保管されていましたが、昨年の内に全て解体されています。全米科学者連盟(FAS)のハンス・クリステンセン氏が18日、新たに更新された海軍訓令から核トマホークの記述が削除されていた事を指摘し、また21日に追記された内容では、核兵器の管理を行うB&Wパンテックス社の2012年度の報告書に、核トマホーク用のW80-0核弾頭に付いて「備蓄の全てが解体済み」と書かれてある事が判明しています。

US Navy Instruction Confirms Retirement of Nuclear Tomahawk Cruise Missile - FAS

(アメリカ海軍訓令で核トマホーク巡航ミサイルの退役を確認)

 これでアメリカ海軍の戦術核兵器は全て消え去り、運用する核兵器は戦略核兵器のみ、つまり戦略原潜に搭載された水中発射弾道ミサイル(SLBM)だけになります。攻撃原潜や駆逐艦や巡洋艦、空母にはもう核兵器は積みません。核軍縮の成果であり、ロシア海軍もアメリカと同様に戦術核兵器を廃棄して海軍の核兵器を戦略原潜のみに搭載しています。戦略原潜は自国近海の防備の厚い海域から大陸間弾道ミサイル並みの射程を持つSLBMで敵国を狙い撃つ兵器なので、他国を訪問する事はありません。よって米露の軍艦が他国を訪問する際に港湾担当者が核兵器搭載の有無を照会する必要はもう無くなりました。存在しないものは積みようがありません。(※通常弾頭型トマホークは現役です。)

 現在運用されているアメリカ軍の核兵器は海軍のSLBMの他に、空軍の大陸間弾道ミサイル(ICBM)と戦略爆撃機専用の空中発射巡航ミサイルALCM核弾頭型(W80-1核弾頭)、戦略爆撃機と戦闘機に搭載できるB61戦術核爆弾とB83戦略核爆弾が有ります。ICBMはアメリカ本土、SLBMはアメリカ本土近海にあり、西太平洋のアメリカ軍の基地で核兵器を置けるのはグアムのアンダーセン空軍基地にある戦略爆撃機搭載用だけです(※ただし常備の核兵器貯蔵施設はもう無い)。ALCM巡航ミサイルはB-52戦略爆撃機専用で、ステルス機であるB-2戦略爆撃機が自由落下核爆弾を運用します。(B-1戦略爆撃機は核兵器運用能力が外されました。)

B-52戦略爆撃機とALCM空中発射巡航ミサイル
B-52戦略爆撃機とALCM空中発射巡航ミサイル

 戦略爆撃機の航続距離ならばグアムから発進すれば中国全土、北朝鮮、ロシア東部を往復する事が可能で、空中発射巡航ミサイルならばフィリピン海の中央から発射しても攻撃が可能です。最近、米韓合同軍事演習にグアムからアメリカ空軍のB-52戦略爆撃機が参加しましたが、今回の訓練では韓国の基地には降りていません。実戦の場合でも戦略爆撃機が韓国に降りる必要はありません。また釜山港にアメリカ海軍の攻撃原潜シャイアンが入港しましたが、「核ミサイルは搭載していない」と韓国聯合ニュースは報じています。

韓米連合海上機動訓練 米原子力潜水艦が参加(聯合ニュース) - Y!ニュース

 もはや核トマホークは存在せず、攻撃原潜は核兵器を積んでいません。空母やイージス艦も同様です。「核兵器を搭載した艦艇を日本や韓国に入港させて睨みを効かせよう」という発想はアメリカ軍にはもう無く、東アジアの最前線で核兵器を見せ付ける役目はグアムの戦略爆撃機に絞られました。

アメリカ太平洋軍YouTube公式アカウントより

A B-52 Stratofortress conducts a training flight over the Republic of Korea, March 19, 2013

(2013年3月19日、B-52ストラトフォートレス戦略爆撃機が韓国上空の演習飛行に参加)

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人戦闘兵器、オスプレイなど、ニュースに良く出る最新の軍事的なテーマに付いて解説を行っています。

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