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基準値を上げても発表回数が急増の記録的短時間大雨情報、最初の発表は38年前の梅雨の与那国島

饒村曜気象予報士
与那国 日本国最西端の地(写真:イメージマート)

初の記録的短時間大雨情報

 数年に1回程度の大雨を観測した時に報じる「記録的短時間大雨情報」は、昭和58年(1983年)10月1日に開始となりました。

 とはいえ、大雨の季節は過ぎており、最初の発表は、翌59年(1984年)5月14日の与那国島でした。

 与那国島では、12時から13時 までの1時間で90ミリ(13時10分までの1時間では96ミリ)を観測し、当時の雨量基準である70ミリを超えたことから、記録的短時間大雨情報が発表となりました。

 この日、沖縄気象台では梅雨入りを発表しましたので、最初の記録的短時間大雨情報は、梅雨前線による雨で発表と言うことができます(図1)。

図1 地上天気図(昭和59年(1984年)5月14日9時)
図1 地上天気図(昭和59年(1984年)5月14日9時)

増えてきた記録的短時間大雨情報

 記録的短時間大雨情報が始まった昭和59年(1984年)から平成5年(1993年)までの10年間で、全国の年間発表回数の平均は33回でした(図2)。

図2 記録的短時間大雨情報の年間発生回数の推移
図2 記録的短時間大雨情報の年間発生回数の推移

 数年に1回の発表で、気象庁が当初想定していたより多い頻度でした。

 そして、平成29年(2017年)109回、平成30年(2018年)123回、令和元年(2019年)96回、令和2年(2020年)109回、令和3年(2021年)64回と、近年らは、急増しています。

 アメダス観測値を用いて、1時間に80ミリ以上を観測した地点数(観測地点数が年毎に変わるので、1300地点当たりに換算)をみると、増加傾向がみられます。

 アメダスの観測が始まった昭和51年(1976年)頃の約14回から、現在の約24回へと、約1.7倍に増えています(図3)。

図3 全国の1時間降水量80ミリ以上の年間発生回数(1300地点あたり)の経年変化
図3 全国の1時間降水量80ミリ以上の年間発生回数(1300地点あたり)の経年変化

 地球温暖化によって、大雨などの極端な現象が増えるとされています。

 記録的短時間大雨情報の増加の一因に、地球温暖化があると思いますが、それ以上に大きいのが、解析雨量の導入です。

解析雨量

 記録的短時間大雨情報は、アメダスの雨量計を用いて始まりましたが、昭和61年(1986年)11月27日からは、都道府県等の雨量計も活用しています。

 そして、平成6年(1994年)6月1日からは、5キロメッシュ毎の解析雨量も活用しています。

 解析雨量は、レーダーの5キロメッシュ毎の細かい観測データを、約17キロメッシュ毎に設置してあるアメダスの雨量計の観測値で補正したものです。

 解析雨量の5キロメッシュ毎にもとめた雨量は 、実際の雨量計の観測精度に近いことがわかったことからの導入です。

 当時、気象庁内では、解析雨量で時折出てくる1時間で100ミリ以上の雨は、雨量計より強めに出すぎているとの意見もありましたが、どうも正しいらしいので積極的に使う方がよいとなったのです。

 記録的短時間大雨情報に解析雨量を導入したことで雨量観測地点が飛躍的に増え、それだけ大雨の観測回数が増えています。

 また、平成13年(2001年)4月1日からは、解析雨量のメッシュを2.5キロと細かくなり、平成15年(2003年)6月2日からは、解析雨量の計算間隔が1時間から30分に変更となっています。

 さらに、平成16年(2004年)12月1日からは、アメダスの観測値を10分単位とし、正時から正時だけでなく、例えば、9時10分から10時10分までの1時間雨量も使うように変わっています。

 さらにさらに、平成18年(2006年)3月1日からは、解析雨量のメッシュを1キロとしています。

 これらの変更の度に、大雨の観測回数が増えています。

発表基準の変更

 記録的短時間大雨情報が頻繁に発表されると、特別感がなくなり、防災効果が薄れます。

 このため、解析雨量の導入とともに発表基準が引き上げられています。

 発表基準は、北海道宗谷支庁で40ミリから80ミリに、東京地方で60ミリから100ミリに、沖縄県与那国島地方で70ミリから100ミリに変更となっています(表)。

表 記録的短時間大雨情報の発表基準値
表 記録的短時間大雨情報の発表基準値

 このように、発表基準が引き上げられていますが、それでも、最近の年に全国で約100回(予報区毎では1から2回)というのは、記録的短時間大雨情報の趣旨からして、多い気がします。

スーパー警報ではない旨の通知

 記録的短時間大雨情報が始まって約10年後、平成5年(1993年)9月10日に、気象庁では報道機関や予報業務許可事業者に、「記録的短時間大雨情報は、スーパー警報ではありません」という通知を出しています。

 これは、「スーパー警報に相当する記録的短時間大雨情報」と報道されることが多くなっているための措置です。

 記録的短時間大雨情報は、防災効果を高めるために発表するもので、法的に定められた警報や特別警報ではないからです。

 防災活動の中心は、警報です。

雨に警戒の季節

 沖縄地方が梅雨入りし、きょう11日にも鹿児島県奄美地方で梅雨入りするかもしれません。

 また、今週は、関東甲信地方など多くの地方で走り梅雨になりそうです(図4)。

図4 48時間予想降水量(4月11日3時から13日3時までの48時間予想)
図4 48時間予想降水量(4月11日3時から13日3時までの48時間予想)

 雨に警戒の季節が始まりました。

 警報等の気象情報の入手につとめ、無事に梅雨を乗りきってください。

図1の出典:原典:気象庁「天気図」、加工:国立情報学研究所「デジタル台風」。

図2、表の出典:気象庁資料をもとに筆者作成。

図3の出典:気象庁ホームページ。

図4の出典:ウェザーマップ提供。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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