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台風1号に続いてフィリピンの東海上で予報円がグルグル巻きの台風2号発生か

饒村曜気象予報士
ぐるぐる巻きの予報円(4月9日15時の発達する熱帯低気圧の予報円)

台風に発達する熱帯低気圧

 4月8日15時に発生した台風1号に続いて、フィリピン東海上にある熱帯低気圧が発達し、台風2号になりそうです。

 ただ、台風2号は動きが遅く、予報円がグルグル巻きとなっています(タイトル画像参照)。

 これは、台風に発達した後も進行方向が定まっていないことや、台風1号との相互作用があるかどうかなど、現時点では全く分からないことを示しています(図1)。

図1 台風1号と台風2号になりそうな熱帯低気圧の進路予報(4月10日0時)
図1 台風1号と台風2号になりそうな熱帯低気圧の進路予報(4月10日0時)

 台風1号などの台風情報は最新のものをお使いください

【追記(4月10日11時30分)】

 フィリピン東海上の熱帯低気圧は、4月10日9時に域内の最大風速が17.2メートル以上となり、台風2号となりました

台風予報円はなぜ出来たか?

 台風といえば、いまでは予報円が当たり前のように使われていますが、この予報円を40年前に作ったのは私です

 台風の予報円が最初に使われたのは昭和57年(1982年)6月の台風5号からです。

 戦後の日本は、大きな台風災害が相次ぎ、死者が4桁(1, 000名以上)の大惨事となるのがふつうでした。それを何とか減らせないかと予測の上でも様々な努力がなされてきました。

 たとえば台風予報の扇形表示もその1つです。

 台風の24時間先予報において、気象庁では、台風の進行方向だけでも予報しようと、昭和52年(1982年)の台風4号までの約30年間、誤差幅をつけた「扇形表示(進行速度は難しいので一本の線上に表示)」を使っていました(図2)。

図2 台風の扇形表示
図2 台風の扇形表示

 第二次大戦後の相次ぐ台風災害の中で、予報精度が非常に悪くても、何とか進行方向だけでも正しい予報を出して防災に役立てようとする当時の予報官達の苦労の結晶が「扇形表示」です。

 しかし、最初から大きな欠点を持っていました。それは、予報誤差には、進行方向と進行速度の2種類があるのですが、扇形表示ではその形から、進行方向の誤差が全くないかのような印象を与え、「台風はまだ来ないだろう」と人々に誤った判断をさせてしまったことです。

 そこで考えられたのが、「予報円」を用いた表示方法です。

 台風の予報誤差には,進行方向と進行速度の2種類がありますが、多くの例で調査すると、両方の誤差がほぼ等しくモデル図(図3)の様に予報位置を中心とした分布となっています。

図3 台風の精度の悪い予報と良い予報
図3 台風の精度の悪い予報と良い予報

 精度の良い予報になればなるほど予報位置の周りに集中した分布となり、精度の悪い予報ほど周辺部にも広がっている分布となります。

 予報の精度を簡単に表すには、この予報位置のよわりにどれ位集中してくるかということを示せば良いのですが、これには2通りの方法があります。

 一つは一定の割合が含まれる円の大小で表す方法(図3のA)で、もう一つは、予報位置の周りに一定の大きさの円を描き、この円内にどれくらいの予報が含まれているかで表す方法(図3のB)です。

 気象庁の発表する予報円表示の予報円は,表示の簡明さ、情報伝達のわかりやすさ等を考え合わせ、前者の方法、つまり、円の中に70%の予報が入るということで半径を決めた予報円を採用しています。

 ところが台風予報の表示方式がそれまでの扇形表示から予報円表示に変わると、今度は台風の強さを表す表示がないため、予報円の大きな台風が強い台風であるとの誤解が生じてしまいました。

 このような誤解が生じることは、予報円を採用する時点では想定内でした。

 誤解がないようにPRに努めますが、「大きな予報円は台風の進路予報が定まらないので、より警戒する台風」を、「大きな予報円は大きな台風で、より警戒する台風」と誤解したとしても、「より警戒する」という、とるべき行動は同じであるということは予報円採用のメリットの一つとの主張もありました。

藤原の効果は?

 2つの台風がおおよそ1000キロくらいまで接近してくると、相互作用によって動きが複雑になります。

 これを、研究した藤原咲平(中央気象台長などを歴任)から「藤原の効果」といいますが、台風2号が発生した場合、台風1号と藤原の効果があるかどうか、現時点でははっきりしていません。

 台風に発達する熱帯低気圧と台風1号との距離は現時点で1500キロ以上もあり、両者の間には雲の無い領域が広がっています(図4)。

図4 台風1号と熱帯低気圧の雲(4月10日0時)
図4 台風1号と熱帯低気圧の雲(4月10日0時)

 現時点は藤原の効果を考える段階ではありませんが、次第に接近してきます。

 熱帯低気圧は、台風2号に発達したあと、4月13日には熱帯低気圧に衰えて、日本への影響はないと考えられます。

 しかし、来週は、本州付近には前線が発生し、停滞する可能性があります。

 台風2号となって台風1号との間で藤原の効果がおきると、北上してくる台風1号の進路が変わってきます。

 台風と前線の位置関係など、まだ不確実な段階ですが、台風が前線を刺激して大雨となる可能性もあります

 過去には4月に台風が上陸したこともあります。

 台風2号の動向にも注意が必要です。

タイトル画像、図1、図4の出典:ウェザーマップ提供。

図2、図3の出典:饒村曜(平成5年(1993年))、続・台風物語、日本気象協会。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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