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カロリン諸島の熱帯低気圧の域内の最大風速が17.2メートル以上となって台風1号が発生、「域内」とは?

饒村曜気象予報士
台風1号になりそうなカロリン諸島の熱帯低気圧の雲(4月6日15時00分)

台風1号の発生

 カロリン諸島で熱帯低気圧が発達し、域内の最大風速が、17.2メートル以上となって台風1号となる見込みです(タイトル画像参照)。

 カロリン諸島付近の海面水温は、台風が発達する目安となる27度を大きく上回る29度以上もありますが、赤道に近い低緯度にあるために渦を巻きにくく、大きく発達するのは、もう少し北上してからです(図1)。

図1 発達する熱帯低気圧の進路予報(4月7日0時)
図1 発達する熱帯低気圧の進路予報(4月7日0時)

 台風1号が発生した場合、4月11日にはフィリピンの東海上まで北上する見込みですが、過去の4月の台風の統計では、ほとんどが西進するものの、一部の台風は、北緯20度以上に北上してきます(図2)。

図2 4月の台風の平均経路
図2 4月の台風の平均経路

 今後の台風情報に注意してください。

【追記(4月8日12時)】

 気象庁は、4月8日9時にカロリン諸島で熱帯低気圧が発達し、台風1号になったと発表しました。

台風の定義

 熱帯低気圧のうち、北西太平洋(南シナ海を含む)で、域内の最大風速が毎秒17.2メートル以上となったものを「台風」といいます。

 ここで、17.2メートルと端数になっているのは、ビューフォートが作った風力階級と関係があります。

 帆船時代、どのくらいの風が吹けば、どのくらいの速度で船が進むのかは、重要な関心事でした。

 ビューフォートは、波の状態などから風力階級を作り、風力1なら1ノット(時速約2キロ)、風力2なら2ノット(時速約4キロ)などということを考えました。

 しかし、船の種類によって同じ強さの風が吹いても、速度が違うことから、風力階級の数値と、船の速度との一致は早い段階であきらめています。

 とはいえ、風の強さを、波の状態などから求めるビューフォート風力階級は、船舶に風速計が積まれる前から、利便性によって広く使われるようになりました。

 そして、風力階級8は「(陸上では)小枝が折れる」であり、被害が発生する風であることから、熱帯低気圧のうち、風力8以上のものに対して、特別な名前をつけて警戒しています。

 これが、台風の最初の基準です。

 風速計が普及し、船舶に積まれるようになると、風速計で観測した34ノット以上が風力8以上に相当することがわかり、台風の基準が34ノット以上に変わります。

 さらに、メートルという単位が普及してくると、33.5ノットをメートルであらわした毎秒17.2メートルが、台風の基準になったのです。

台風の「域内」

 気象庁がホームページで公表している予報用語では、「17.2メートル」を「およそ17メートル」とし、「強風域」と「暴風域」については、下記のような説明があります。

強風域:台風や発達した低気圧の周辺で、平均風速が15メートル以上の風が吹いているか、地形の影響などがない場合に、吹く可能性のある領域。通常、その範囲を円で示す。

暴風域:台風の周辺で、平均風速が25メートル以上の風が吹いているか、地形の影響などがない場合に、吹く可能性のある領域。通常、その範囲を円で示す。

 ただ、台風の定義内で使われている「(熱帯)低気圧域内」についての定義はありません。

 筆者が気象庁予報課で勤務していた昭和59年(1984年)に、予報課が「台風域内」の定義を決めて部内通知を出していますので、今でもこの考え方と思います。

予報用語「台風域内」について(通知)

昭和59.9.22気業第546号

(予報部業務課長から各管区・沖縄・各海洋気象台総務部長・次長・台長あて)

このことについて、下記の定義によって運用することとしましたので、お知らせします。

「台風域内」とは地上天気図上で台風に伴う明瞭な低気圧性循環が認められる範囲をいう。

ここで、「明瞭な」とは、風向・風速が組織的に連続性をもって解析できる場合であり、一般には風速10m/s程度以上の範囲をいう。

 昭和59年(1984年)に「台風域内」の定義が問題となったのは、この年の台風10号がきっかけでした(図3)。

図3 昭和59年の台風10号の経路
図3 昭和59年の台風10号の経路

 この時、台風域内の議論として、循環の範囲、円形等圧線の一番外側、15メートル以上の強風域・25メートル以上の暴風域との関係をどうするのかということがあり、上記のような通知になったのです。

昭和59年(1984年)の台風10号

 昭和59年(1984年)の台風は、特異な特徴が3つありました。

(1)遅い台風1号の発生

 台風1号の発生が6月9日と、台風の統計が作られている昭和26年(1951年)以降では、7月9日に台風1号が発生した平成10年(1998年)、7月3日の平成28年(2016年)、7月2日の昭和48年(1973年)などに次ぐ、6番目に遅い発生でした。

 ただ、年間発生数は27個と、平年より多くなりました。

(2)初の上陸数0個

 台風が全国の気象官署(気象台や測候所、特別地域気象観測所)から300キロ以内に入ったときを台風の接近といいますが、この接近数は平年より少なくなりました。

 また、台風の中心が北海道、本州、四国、九州の海岸線に達した場合を「日本に上陸した台風」としています。ただし、小さい島や半島を横切って短時間で再び海に出る場合は「通過」としています。

 この台風の上陸については、昭和26年(1951年)から昭和58年(1983年)まで、上陸数が0という年はありませんでした。

 台風の上陸数は1個から5個の間で、少なくとも1個上陸していたのですが、この年以降は、上陸数が0の年がときどきあります。

 一方、平成16年(2004年)に台風が10個上陸したように、近年は上陸数が6個以上と多い年も増えています。

 つまり、近年は、台風上陸について年による差が大きくなっています(図4)。 

図4 台風上陸数の推移
図4 台風上陸数の推移

(3)大きな暴風域

 台風10号は暴風域の範囲は750キロもあり、1000ヘクトパスカルの等圧線は大きく、円形ではありませんでした(図5)。

図5 地上天気図(昭和59年8月17日21時)
図5 地上天気図(昭和59年8月17日21時)

 ただ、この年の台風22号の暴風域の直径は、台風10号よりも大きく、950キロもありました。この950キロという広がりは、平成元年(1989年)の台風28号と並んで1位タイの大きさです(表)。

表 暴風域が大きい台風
表 暴風域が大きい台風

 令和4年(2022年)の台風シーズンが始まりました。

 今後の台風情報に注意してください。

タイトル画像、図1の出典:ウェザーマップ提供。

図2の出典:饒村曜・宮澤清治(昭和55年(1980年))、台風に関する諸統計 月別発生数・存在分布・平均経路、研究時報、気象庁。

図3の出典:気象庁ホームページ。

図4の出典:気象庁ホームページをもとに筆者作成。

図5の出典:原典:気象庁「天気図」、加工:国立情報学研究所「デジタル台風」。

表の出典:気象庁ホームページをもとに筆者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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