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台風9号・10号など熱帯低気圧が次々に発生 東京2020オリンピックに影響する可能性も

饒村曜気象予報士
次々に発生する熱帯低気圧(8月3日15時)

令和3年(2021年)の台風

 令和3年(2021年)の7月までの台風発生数は8個と、平年の7.9個とほぼ同じです(表)。

表 平年と令和3年(2021年)の台風発生数・接近数・上陸数
表 平年と令和3年(2021年)の台風発生数・接近数・上陸数

 また、台風の中心が国内のいずれかの気象官署から300キロ以内に入った場合を「台風の接近」といいますが、7月までに5個接近しており、これは、平年の3.8個より若干多くなっています。

 さらに、台風の中心が北海道、本州、四国、九州の海岸線に達した場合を「台風の上陸」といいますが、これまで、1個、台風8号が宮城県石巻市付近に上陸しています(平年は0.8個上陸)。

 ほぼ平年並みに推移してきた台風ですが、7月末以降、いつもの年とは違った様相を示しています。

 それは、発達すれば台風となる熱帯低気圧が、日本近海で次々に発生していることです。

 図1は、8月3日15時の地上天気図ですが、熱帯低気圧が4個もあります。

図1 熱帯低気圧が4個ある地上天気図(8月3日15時)
図1 熱帯低気圧が4個ある地上天気図(8月3日15時)

 ただ、これらの熱帯低気圧は、8月3日の段階では強いものではありません。

 気象衛星画像をみても、これらの熱帯低気圧に対応する雲は、発達した積乱雲の塊であったり、はっきりと渦を巻いたりはしていません(タイトル画像参照)。

 熱帯低気圧が台風に発達するときのエネルギー源は、水蒸気が雨粒に変わるときに発生する熱です。

 このため、台風が発生するのは海面水温が高くて水蒸気が豊富な熱帯の海上です。

 同じ熱帯でも、水蒸気が少ない陸上では台風が発生しません。

 また、熱帯以外の海域では、海面水温が高くなって水蒸気が豊富になる夏の一時期を除いて台風が発生しません。

 ただ、今年、令和3年(2021年)のように、熱帯低気圧が次々に発生するときは、エネルギー源の水蒸気が豊富にあったとしても、その奪い合いとなり、個々の熱帯低気圧は大きく発達しない傾向があるといわれています。

 そんな中、南シナ海の熱帯低気圧と沖縄県先島諸島付近の熱帯低気圧は、今後発達して台風9号と台風10号になりそうです。

【追記(8月4日10時40分)】

 8月4日9時に南シナ海で台風9号が発生しました。

 この台風は今後も南シナ海を東よりに進み、7日(土)には台湾海峡付近を進んで、その後は東シナ海をさらに東よりに進む予想です。

台風発生か

 気象庁では、南シナ海の熱帯低気圧と先島諸島の熱帯低気圧が、ともに今後24時間以内に台風に発達するとして台風情報を発表しています(図2)。

図2 熱帯低気圧の進路予報(8月4日3時)
図2 熱帯低気圧の進路予報(8月4日3時)

 台風が発生すれば、令和3年(2021年)で9番目、10番目ですので、台風9号と台風10号の発生です。

 どちらが先に発生するかは不明ですが、気象庁では、先に台風に発達する予報が発表された南シナ海の熱帯低気圧を「熱帯低気圧a」、先島諸島付近の熱帯低気圧を「熱帯低気圧b」として情報を発表しています。

 ともに、台風の経路にあたる海域の海面水温は、台風が発生する目安とされる27度を上回っています。

 衰弱することなく日本列島へ向かって北東進する見込みです。

 ただ、2つの台風ともに、予報円が非常に大きく、進路予報が難しい台風です。

 台風進路にあたる地方では、最新の台風情報の入手に努め、警戒してください。

 警戒すべきは、この2つだけではありません。

 小笠原諸島の東海上の熱帯低気圧は北上して小笠原諸島近海に進んでくる予報です(図3)。

図3 予想天気図(8月5日21時の予想)
図3 予想天気図(8月5日21時の予想)

 こちらの熱帯低気圧も注意が必要で、油断できません。

東京に接近する台風の発生海域

 資料は少し古くなりますが、昔の筆者の調査です。

 どの海域で台風が発生したかを、緯度経度5度ごとにまとめると、台風が多く発生する海域は、フィリピンの東海上の北緯10度から20度、東経125度から135度の海域です(図4)。

図4 台風の発生場所
図4 台風の発生場所

 また、フィリピン・ルソン島の西海上の南シナ海でもやや多く発生しますが、フィリピンから遠ざかるにつれ、発生数が減少します。

 東京2020オリンピックが開催されている東京から、300キロ以内にまで接近した台風は、台風全体の約7パーセントですが、発生海域は大きく2つに分けられます(図5)。

図5 東京に接近した台風の発生場所
図5 東京に接近した台風の発生場所

 1つは、台風が多く発生するフィリピンの東海上のやや北側で、東京から見てはるか南南西海上です(図5のA)。

 そして、南南東海上(図5のB)でもすくなくありません。

 つまり、東京に接近する台風は、南西海上から放物線を描きながら接近するものと、南東海上からまっすぐ北上するものの2種類があることを示唆しています。

 発生が予想されている台風9号、台風10号は、統計的に多い、南西海上から放物線を描きながら東京に接近する台風よりは、少し北側を通る、少し珍しい経路での接近になりそうです。

 東京2020オリンピックは、台風8号によって日程変更などの影響が出ましたが、また台風によって影響がでるかもしれません。

 台風に油断できない大会となっています。

タイトル画像の出典:ウェザーマップ提供資料に筆者加筆。

図1の出典:気象庁ホームページ。

図2の出典:ウェザーマップ提供。

図3の出典:気象庁ホームページに加筆。

図4、図5の出典:饒村曜(平成5年(1993年))、続・台風物語、日本気象協会。

表の出典:気象庁ホームページをもとに筆者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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