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オリンピック開幕日に発生した台風8号は、北上しながら向きを西に変え、関東~東北地方に上陸か

饒村曜気象予報士
台風6号の雲(左)と台風8号の雲(右)(7月24日3時)

動きの遅い台風6号

大型で強い台風6号が沖縄県先島諸島を通って、東シナ海を北上中です。

この海域を7月に西寄りに進む台風の平均速度は、筆者が昔調べたところ、時速約17キロですが、この平均より遅い速度での北上です(図1)。

図1 台風6号の進行速度の変化(7月23日21時までの太線は実況の速度、細線は予想の速度)
図1 台風6号の進行速度の変化(7月23日21時までの太線は実況の速度、細線は予想の速度)

 その分だけ、先島諸島は暴風や大雨の期間が長くなって危険な状態となっています。

 台風6号が完全に過ぎ去るまで、厳重な警戒が必要です。

台風8号の発生

 東京オリンピックの開幕式が行われていた7月23日21時、南鳥島近海で台風8号が発生しました。

 台風8号は、現時点では中心付近に発達した積乱雲はなく、急激に発達する兆候はありませんが、徐々に発達しながら北上する見込みです。

 そして、北上しながら向きを西寄りに変え、関東~東北地方に上陸する可能性があります(図2)。

図2 台風6号と台風8号の進路予報(7月24日3時)
図2 台風6号と台風8号の進路予報(7月24日3時)

台風の進路予報は最新のものをお使いください

 台風8号の接近により、来週の東京オリンピック大会への影響が懸念されます。

 様々なことが起きるオリンピックです。

 最新の台風情報等に注意し、台風というハードルを飛び越えた熱戦を期待します。 

台風の動き

 台風は、地球の自転の影響により、自分自身の力で北へ向かう性質をもっています。

 しかし、この力は弱く、台風はゆっくりとしか北上しません。

 台風の動きは、ほとんどが周辺の風によって流されてのものです。

 一般的には、低緯度では上空の風が偏東風ですので、東風にのって西に動きながら、台風自身の力によってわずかに北上しますので、西北西へ進みます。

 上空の風が弱い緯度まで北上すると、台風はゆっくり北上し、さらに緯度が高くなって偏西風帯にはいると、ゆっくり北上しながら上空の西風、それも強い西風に乗りますので速度を早めて東北東へ進みます(図3)。

図3 台風の動きの説明図
図3 台風の動きの説明図

 これが、台風の一般的な進路です。

 偏西風帯にはいっていることが多い日本付近では、台風が東よりに進むことが多いのですが、台風8号は違います。

 台風8号の予報のように、台風が日本付近を西進するときには、台風の近くに寒冷低気圧が存在し、その寒冷低気圧と相互作用をしているときです。

 寒冷低気圧は、上空にある冷たい低気圧(周囲より気温が低い低気圧)で、地上天気図を書いただけではわからない低気圧です。

 このため、昔は台風が急に西進する理由がまったくわからず、台風の進路予報が外れて大きな被害が発生していました。

 しかし、今は上空にある寒冷低気圧の動きを読み、それとの相互作用を加味し、前述のような予報が発表されているのです。

台風8号と類似の台風

 台風8号が東北地方の太平洋側に上陸した場合、台風統計がある昭和26年(1951年)以降では、平成28年(2016年)の台風10号に次ぐ2例目となります。

 この時も、上空の寒冷低気圧と相互作用をしていました。

 それ以前には、大正2年(1913年)8月27日に東北地方に上陸した台風くらいしかありませんので、50年に1度くらいの珍しい台風です。

 また、台風8号のように、日本付近を大きく西進する例として、平成30年(2018年)の台風12号がありますが、この時も寒冷低気圧と相互作用をしていました(図4)。

図4 日本付近を西進した台風の例
図4 日本付近を西進した台風の例

 平成30年(2018年)の台風12号は、台風8号より、経度にして8度位西を通り、7月28日から30日にかけて東海から西日本を通過しています。

 そして、「台風がきてもここは周囲より風が弱く高波が押し寄せない」と言われた場所でも被害が発生しています。

 局地的に台風の風が強まる場所や波が高くなる場所は、台風が東寄りに進む場合と、西寄りに進む場合は違います。

 日本付近を西へ進む台風は、普段とは違うという認識で警戒してください。

タイトル画像の出典:ウェザーマップ提供。

図1、図4の出典:気象庁ホームページをもとに筆者作成。

図2の出典:ウェザーマップ提供。

図3の出典:筆者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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