漁師の天気予測とテレビの天気予報どっちが当たる? 気象予報士が明かす内実

漁船(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

よく出てくる“漁師の天気予測”シーン

 令和3年(2021年)5月17日から、NHKの朝ドラ「おかえりモネ」が始まりました。

 このドラマの中では、色々な職業の人が風や空の様子を見ながら、天気を予想するシーンが描かれています。

 第3週と第4週の放送は、宮城県登米市の森林組合で働き始めた主人公の永浦百音(モネ)が、お盆に生まれ育った宮城県気仙沼市に帰省し、妹の未知(みーちゃん)や幼馴染に会うという話でした。

 6月4日(第15話)の放送では、幼馴染で漁師になっている及川亮が、「海風がまわってきた」とつぶやき、雲が多いが今日は雨が降らないと天気を予測しています。

 百音は、なぜ天気が分かるのかと亮に問いかけますが、「漁師は風向きと天気が必須だ」といい、百音の祖父・龍己もわかるはずだと微笑んでいます。

 海風とは、海岸地方で、日中、海から陸に向かって吹く風のことです。平らな海岸地域が日射を受けると、陸は海よりも暖まりやすくなります。

 こうして、暖まった地面からは、乱流などによってその上の空気も暖められて密度が小さくなり、このため陸上の気圧は海上の気圧よりも小さくなって、海から陸に向かって海風が吹き込みます(図1)。

図1 海風の吹く原理
図1 海風の吹く原理

 海風の先端(海風前線)で、もとからそこにある空気との間で収束がおきて上昇気流を生じ、空気中に水蒸気が多く含まれていると対流雲が生じます。

 上昇した空気は、高さ1~2キロで海に向かう反流となり、海上で下降する循環を形成します(図2)。

図2 海陸風循環
図2 海陸風循環

 夜は、陸のほうが海よりよく冷え、地面近くでは陸から海に向かう陸風が吹きますが、海陸の温度差は、昼間に比べて夜のほうが小さいため、陸風は海風に比べて弱く、反流の高さも低くなります。

 このような天気変化は、百音にとっては、参考書で勉強した知識でしたが、漁師にとっては体感で身についている知恵でした。

 6月7日(第16話)の放送では、百音の祖父・龍己が、朝岡覚気象予報士による天気予報をテレビで見ながら、「今夜は雨が降るからカキの原盤は海から引き揚げた方が良い」とアドバイスしています。

 龍己が持っている漁師の天気予測の能力を、テレビから流れる朝岡気象予報士の天気予報で確認し、「天気が下り坂になる」という判断からのアドバイスでしたが、妹・未知は、「雨が降るまではカキの原盤を入れておきたい」と、自分の考えを押し通しています。

 実際は、夜間の大雨の中、カキの原盤を引き揚げようとした龍己が負傷するのですが、総合判断ができるかできないかという大きな経験の差でした。

漁師の天気予測は気象予報士より当たる?

 科学的なデータを測る技術をもたなかった昔の人は、空や雲を眺め、風や空気を肌で感じて天気を予測していました。

 経験則をもとに、一定の気象条件と天気の予測を関連付けたもので、例えば、「月にカサがでたら(巻層雲をすかして月が見える状態になったら)翌日は雨」などといったもので、6月1日(第12話)の放送で百音もこの状態の月を写真に撮っていました。

 これを観天望気といいますが、ことわざのように人々に伝承されてきました。

 とりわけ、海で仕事をする漁師は、仕事自体が天気によって命にかかわります。

 また、漁獲量が多いか少ないかということは天気に左右されます。

 6月11日(第20話)の放送で、祖父の龍己が百音に、「漁業はギャンブル。天気のデータの読み方一つで100万も200万も稼ぎが変わってくんだよ」と言った通りです。

 天気予測ができる漁師が、カリスマ漁師だったのです。

 このため、熱心に経験則を求め、次世代に伝承してきました。

 観天望気は科学的な観測に基づく、気象予報士による天気予報に代替できるものではありませんが、狭い範囲、短い時間では、漁師の天気予測のほうが当たるということができます。

 理由は2つあります。

 1つは、5月20日(第4話)で朝岡気象予報士が「天気予報の放送枠2分30秒は短すぎる」といったように、テレビなどの天気予報では、放送時間などの関係で、広い範囲をまとめて放送せざるをえないことです。

 5月27日の放送(第9話)では、朝岡気象予報士が山の中にいる百音に対して、その場所の天気予報をしていますが、このように狭い範囲で降る雨に対してのきめ細かい予報ができても、それをテレビの放送時間内で伝えることは事実上不可能です。

 もう1つは、現象を観測して予報するまでに時間がかかり、その予報を伝えるのにも時間がかかることです。

 急激に変化する気象に対しては、漁師が見た瞬間にわかる観天望気と比べて、相手に伝わるまでに時間がかかる天気予報が負けることがあります。

 ただ、あくまで、狭い範囲、短い時間での話です。

 空を見渡して見える範囲は、条件の良い海上であっても数十キロです。

 時速30キロで雨雲が接近する場合、2時間以上先の予報は、現在見えていない雲からの雨ですので、観天望気で天気予報に勝つことはまず無理です。

 加えて、予測に使える現象がいつも起きるとは限りません。

 天気予報がなかった時代は仕方がありませんが、今では天気予報があります。

 天気予報で広い範囲の予報をかなり先まで知り、その知識を頭に入れながら観天望気で補正し、今いる場所における目先の天気を正確に予測するという使い方ができます。

 ドラマでは天気予報を見ながら天気の話をするシーンが多く出てきます。

 観天望気と天気予報は、どっちが当たるという競争関係ではなく、お互いの短所を補って利用するものであるからです。

大雨時は海水が薄まる影響も

 6月7日(第16話)から9日(第18話)では、カキの赤ちゃんを育てるため、ホタテの貝から作った原盤を海に入れたり、海から出したりするタイミングで、祖父の龍己と、妹の未知が対立しています。

 湾内など、狭い海域で大雨が降ると、海の塩分濃度が薄まってきますので、沿岸での養殖業では対応が大変になります。

 また、陸上で大雨が降ると多量の真水が川を通じて海に流れ込みますが、そのとき、陸上の栄養分も多量に海に流れ込みます。

 このときは、プランクトンが異常発生する赤潮によって湾内の魚貝類が大量死することがあります。

 魚貝類の養殖業においては「陸上の大雨時のがけ崩れ」という心配はありませんが、「海上の大雨時の塩分濃度低下」という心配があります。

山で働く人の天気予測

 第5週からの放送では、お盆の帰省が終わり、山にもどった百音の話となる予定です。

 そこで働く人も、観天望気により天気を予測し、仕事をしているシーンが描かれると思います。

 山の天気は海の天気とは違います。

 漁師の天気予測より、広い範囲を遠くまで見渡せることができない分だけ難しさはありますが、仕事にとって天気予測が大切であるということには変わりがありません。

 漁師の天気予測に山で働く人の天気予測、その道のプロの行為に対し、気象のプロである気象予報士となる百音がどう役立ってゆけるのか、今後の展開が楽しみです。

図1の出典:饒村曜(平成26年(2014年))、天気と気象100・一生付き合う自然現象を本格解説、オーム社。

図2の出典:饒村曜(平成27年(2015年))、ここが出る!!気象予報士完全合格教本、新星出版社。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】