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寒気の谷間で南岸低気圧 低気圧進路が八丈島の真上を通過するときは太平洋側でも大雪

饒村曜気象予報士
予想天気図(1月12日9時の予想)

寒気が弱まると南岸低気圧

 シベリアから強い寒気が南下してくると、日本海側を中心に大雪となり、太平洋側では晴れます。

 強い寒気が南下中は、大陸に中心を持つ大きな高気圧が日本を覆いますので、本州の南岸を低気圧が通過することはありません。

 シベリアからの寒気の南下が峠を越すと、本州の南岸を低気圧が通過するようになります。

 令和3年(2021年)も、1月8日頃から西高東低の気圧配置が続き、非常に強い寒気が南下して北陸地方を中心に広い範囲で大雪となりましたが、本州の南岸を低気圧が通過することはありませんでした。

 その非常に強い寒気の南下が峠を越えた1月11日には、本州の南岸に低気圧が発生し、12日にかけて本州南岸を通過する予想です(タイトル画像参照)。

 南岸低気圧が八丈島より北を通過するときは、南から暖気が入りやすくなるため雨の可能性が高くなります。

 逆に、南岸低気圧が八丈島より南を通過するときは、北から寒気が入りやすくなるため雪の可能性が高くなりますが、低気圧から離れていることから雪の量は少なく、場合によっては降りません。

 この「南岸低気圧」と呼ばれる低気圧の進路が、八丈島の真上を通る時には、今度は太平洋側でも大雪の可能性がでてきます。

 同じ大雪と言っても、日本海側の大雪に比べれば、太平洋側の大雪と呼ばれているものは量が少ないのですが、雪に対する備えがないために大きな影響がでます。

大雪注意報や大雪警報の発表基準の地域差

 気象庁では、大雪災害の発生するおそれがあるときには大雪注意報を、重大な災害の発生するおそれがあるときには大雪警報を発表しています。

 大雪注違報や大雪警報の発表基準は、市町村ごとに過去の災害を網羅的に調査したうえで決められていますので、少しの雪でも災害が起きやすい地方では基準値が低く、多少の雪では災害が起きにくい地方では基準値が高く設定されています。

 例えば、東京都千代田区で12時間に10センチの雪が降れば大雪警報の発表ですが、新潟市で12時間では、大雪警報どころか、大雪注意報の基準にも達しません(表1)。

表1 新潟県(新潟市・長岡市)と関東南部(東京都千代田区・横浜市)の大雪警報、大雪注意報の発表基準
表1 新潟県(新潟市・長岡市)と関東南部(東京都千代田区・横浜市)の大雪警報、大雪注意報の発表基準

 本州南岸を低気圧が発達しながら通過するため、「太平洋側では大雪の可能性があります」といっても、ここでいう大雪は、日本海側の大雪に比べれば、少ない量です。

 しかし、量は少ないのですが、雪に対する経験や備えがないため、交通機関が止まるなどの大きな影響がでます。

令和3年(2021年)1月12日の南岸低気圧

 令和3年(2021年)1月12日の南岸低気圧は、下層のちょっとした温度の違いによって雪になったり、雨になったりしますので、予報が難しいケースです。

 現時点の関東地方の予報は、南岸低気圧による雨か雪が降る前の12日の明け方に先行する小さな低気圧によって、雪が降る可能性があります(図1)。

図1 雨雪の判別予想(上段は1月12日4時、下段は1月12日15時の予想)
図1 雨雪の判別予想(上段は1月12日4時、下段は1月12日15時の予想)

 その後、いったん降水現象が止み、午後には南岸低気圧の接近・通過によって、雨かみぞれか雪が降る予報です。

 ちょっとした気温の変化で、雨の範囲が広がったり雪の範囲が広がったりするのです。

 低気圧の進路が八丈島付近ですが、低気圧があまり発達しないために寒気を引きこむことがあまりなく、雨が主体と考えられています。

 このため雪が降っても多くないという予想です(図2)。

図2 24時間予想天気図(1月12日3時から1月13日3時までの24時間)
図2 24時間予想天気図(1月12日3時から1月13日3時までの24時間)

 難しい予報ですが、雨と雪では社会生活への影響には雲泥の差があります。東京で5センチの雪が降ると、交通機関は遅れたり運休するなどで大混乱をしますが、5センチの雪に相当する雨(約5ミリの雨)が降る場合は、社会生活にほとんど影響がありません。

 最新の気象情報の入手に努め、警戒してください。

 南岸低気圧の通過後は、再度、強い寒気が南下してきます。

 特に、17日頃に南下してくる寒気は非常に強いもので、全国的な寒さと、日本海側の地方の大雪に警戒が必要になります。

 つまり、今回の南岸低気圧は、寒気の谷間での南岸低気圧です。

 冬本番は、これからです。

地球温暖化でも降雪の記録はでている

 近年、地球温暖化で雪が降らなくなったと言われていますが、これは、北陸地方の豪雪地帯での話です。

 北陸地方の豪雪地帯では、今年のように例外の年はありますが、ほとんどの年は、地球温暖化によって雪ではなく雨として降ることになるので、降雪の記録は観測しなくなっています。

 いっぽう、太平洋側の場合は、昭和28年(1953年)以降の東京の日降雪量をみると、ベスト11のうち、5つは平成になってから観測しています(表2)。

表 東京の日降雪量の記録(昭和28年(1953年)以降)
表 東京の日降雪量の記録(昭和28年(1953年)以降)

 現在より地球温暖化がさらに進めば、北日本の日本海側でも太平洋側でも雪として降るケースが雨として降ることになり、降雪の記録はでないと思われますが、現時点においては、地球温暖化といっても、記録的な降となることがあります。

 地球温暖化が進んでも、しばらくは雪に警戒しなければならない状態は続きます。

タイトル画像の出典:気象庁ホームページ。

図1、図2の出典:ウェザーマップ提供。

表1、表2の出典:気象庁ホームページより著者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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