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今回は「引きの西高東低」で日本海側の大雪と西日本を中心に厳しい寒さ

饒村曜気象予報士
雲と雨雪の分布予報(1月8日15時の予想)

日本海の低気圧が猛烈に発達

 令和3年(2021年)1月7日から8日にかけ、日本海の低気圧が発達しながら北日本を通過し、北海道の東海上で猛烈な勢力となる見込みです(図1)。

図1 予想天気図(1月8日9時の予想)
図1 予想天気図(1月8日9時の予想)

 そして、その後の日本付近は「西高東低の気圧配置」となり、西日本を中心に強い寒気が南下する見込みです。

西高東低の気圧配置

 冬のシベリア地方では、太陽光がほとんど当たらず、放射冷却によって冷たくて乾燥したシベリア高気圧をつくります。

 相対的に暖かい千島近海からアリューシャン列島南部にかけて気圧が低くなり、日本付近は西のほうで気圧が高く、東の方で気圧が低いという「西高東低の気圧配置」となります。

 「西高東低の気圧配置」では、等圧線はほぼ南北に走り、シベリア高気圧の寒気が強い北風となって南下し、日本海に入ります。

 水温が10度以下の日本海であっても、寒気にとっては熱いお湯に相当していますので、湯気を上げて日本海を吹き渡ります。

 そして日本海から熱と水分を吸収して下層から暖まると、不安定となって次々に積乱雲を形成します。

 これらの積乱雲は、脊梁山脈で妨げられ、日本海側の地方に雪を降らせます。その後、乾燥した風が太平洋側の地方などに吹き降ります。

 「西高東低の気圧配置」は、冬に多い気圧配置なので、「冬型の気圧配置」とも言いますが、大きく分けて「押し」と「引き」があります。

「西高東低の気圧配置」の「押し」と「引き」

 西高東低型のうち、シベリア高気圧が強いために等圧線の間隔が狭まり、押し出されるように季節風が吹く場合が「押し」で、長続きする持続型です。

 これに対し、日本東海上の低気圧が発達したために等圧線が狭まり、引き込まれるように季節風が吹く場合が「引き」で、各地に暴風や大雪をもたらす反面、この荒天は一時的なもので、瞬発型です。

 無論、高気圧と低気圧の双方が強い、「押し引き混合型」もありますが、このときは、非常に強い寒気が南下して大荒れとなります。

 今回の「西高東低の気圧配置」は、「引き」とみられますが、北日本から西日本では雪を伴った非常に強い風が吹き、暴風雪や暴風、高波、大雪に警戒が必要です。

今冬3回目の強い寒気の南下

 日本列島に南下する寒気の目安として、上空約5500mの気温が使われます。

 上空約5500mの気温が氷点下30度以下なら強い寒気、氷点下36度以下なら非常に強い寒気で大雪の可能性もあります。

 令和2から3年(2020から2021年)の冬は、これまで、2回強い寒気が南下しており、今回の強い寒気の南下は3回目です(図2)。

図2 今冬3回目の強い寒気の南下(1月8日夜は予想)
図2 今冬3回目の強い寒気の南下(1月8日夜は予想)

 1回目は12月14日頃から南下し、北海道北部では、氷点下36度どころか、氷点下42度以下という、真冬でもなかなか出現しない強烈な寒気でした。

 この影響で、日本海側を中心に大雪となり、群馬県みなかみ町藤原では12月15日16時から17日16時までの48時間に199cmも降るなど、日本海側を中心に記録的な大雪となっています。

 集中豪雪の影響で、新潟・群馬県境の関越自動車道では、16日夜からの交通障害で1000台以上の車が立ち往生したことから、新潟県では自衛隊に災害派遣を要請しています(後に2000台以上の車が立ち往生していることが判明)。

 関越自動車道で発生している立ち往生の解消や、車内にいるドライバーの安全確保のためです。

 2回目は年末年始の強い寒気の南下です。

 このときの寒気も、北海道では氷点下42度以下という、真冬でもなかなか出現しない強烈なものでした。

 また、西日本にも寒気がおりてきましたので、北日本の日本海側や北陸だけでなく、山陰地方まで大雪となり、鳥取県大山では12月30~31日の2日間に104cmの降雪がありました。

 1月7日から予想されている3回目の強い寒気も、北海道で氷点下42度以下というものですが、前の2回と比べて、氷点下42度の範囲が広くなっています。

 図2の右下は、氷点下36度線の動向です。

 これによると、東日本ではほぼ同じ緯度までの南下ですが、西日本では一回目より二回目、二回目より三回目のほうが、より低緯度まで南下しています。

 つまり、寒気南下で特に警戒が必要なのは西日本です。

東京と福岡の気温の推移

 東日本の代表である東京の最高気温と最低気温の推移をみると、強い寒気の南下影響は、1回目が一番大きく、3回目は、2回目と同程度のものと予想されています(図3)。

図3 東京の最高気温と最低気温(1月7日から13日は気象庁、1月14日から22日はウェザーマップの予報)
図3 東京の最高気温と最低気温(1月7日から13日は気象庁、1月14日から22日はウェザーマップの予報)

 これに対し、西日本の代表である福岡の最高気温と最低気温の推移をみると、強い寒気の南下影響は、1回目より2回目、2回目より3回目のほうが大きくなる予想です(図4)。

図4 福岡の最高気温と最低気温(1月7日から13日は気象庁、1月14日から22日はウェザーマップの予報)
図4 福岡の最高気温と最低気温(1月7日から13日は気象庁、1月14日から22日はウェザーマップの予報)

 ただ、この強い寒気の南下は長続きせず、東京も福岡も来週になると最高気温・最低気温ともに平年を上回ってきます。

大雪と新雪雪崩

 雪崩は、雪崩層滑り面の位置によって「表層雪崩」、「底雪崩(全層雪崩)」などに分類されます。

 底雪崩は、主として春先の融雪期に起こる雪崩です。

 降雨や高温に誘発されることが多く、積雪した層全体が滑ることから全層雪崩とも言います。

 これに対し、表層雪崩は、主に降雪の最盛期に、多量の降雪量によって降雪中または降雪の直後に起こります。

 積雪の一部が崩れる表層雪崩より、積雪全体が崩れる底雪崩のほうが危険と感じる人が多いと思いますが、危険なのは表層雪崩のほうです

 確かに、底雪崩は破壊力が大きいのですが、発生場所はほぼ決まっており、雪間に割れ目やしわ、コブが生じるなど、発生の前兆が現れることが多いのです。

 これに対して、表層雪崩は、突然発生します。しかも、あまり雪崩が発生しない場所で発生したり、雪崩の走路が思わぬ場所まで達することもあります。

 過去の大きな雪崩による人的被害は、表層雪崩で発生しています。

 年末年始の大雪後に日中の昇温と夜間の冷え込みで積雪の表面は氷状になり、そこに大雪が降る予想となっており、表層雪崩が発生しやすい条件となっています(図5)。

図5 72時間予想降雪量(1月7~9日の72時間予想)
図5 72時間予想降雪量(1月7~9日の72時間予想)

 今後、北陸地方など日本海側を中心に多い所で2m以上という降雪も予想されており、地元気象台の発表する気象情報に注意し、警戒してください。

 多雪地帯では、暴風と大雪に対する警戒とともに、新雪雪崩にも厳重に警戒が必要です。

タイトル画像の出典、図5:ウェザーマップ提供。

図1の出典:気象庁ホームページ。

図2の出典:ウェザーマップ資料をもとに著者作成。

図3、図4の出典:気象庁資料とウェザーマップ資料をもとに著者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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