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台風12号が東海・関東へ 大きな予報円は危険と誤解しても警戒は同じ

饒村曜気象予報士
発生したばかりの台風12号の雲(9月21日12時)

台風12号が北上

 台風12号が9月21日12時に日本の南海上で発生し、発達しながら北上中です。

 次第に進路を北東に変え、7月24日(木)には関東から東海、近畿地方にかなり接近、または上陸する可能性があります(図1)。

図1 台風12号の進路予報(9月22日3時の予報)
図1 台風12号の進路予報(9月22日3時の予報)

 台風の進路予報は、最新のものをお使いください。

 台風が発生・発達する目安は、海面水温が27度ですが、台風12号が進む海域の海面水温は28~29度です。

 台風を発達させるだけの水蒸気を豊富にありますので、暴風域を伴うまで発達してから接近・上陸の予報です。

 予報円の半径は、進路予報誤差に対応し、予報円の半径が大きいときは、台風の進路予報が難しい時です。

 近年の予報円の大きさは、1日先(24時間先)の予報で80キロくらい、2日先(48時間先)の予報で120キロくらいです。

 しかし、令和2年(2020年)の台風12号の予報円は、これらの値の円より大きくなっています。

 台風を大きく動かす上空の強い西風(偏西風)が、まだ南下していませんので、台風12号の動きは遅く、それだけ進路予報が難しくなっています。

予報円の大きさ

 第二次大戦後の相次ぐ台風災害の中で、予報精度が非常に悪くても、何とか進行方向だけでも正しい予報を出して防災に役立てようとする当時の予報官達の苦労の結晶が、誤差幅をつけた「扇形表示(進行速度は難しいので一本の線上に表示)」「扇形表示」です

 台風予報の扇形表示は、台風の進行方向だけでも予報しようと、予報円が最初に使われた昭和57年(1982年)6月の台風5号までの約30年間にわたって使われてきました。

 しかし、最初から大きな欠点を持っていました。

 それは、予報誤差には、進行方向と進行速度の2種類があるのですが、扇形表示ではその形から、進行方向の誤差が全くないかのような印象を与え、「台風はまだ来ないだろう」と人々に誤った判断をさせてしまったことです。

 そこで考えたのが、「予報円」を用いた表示方法です

 台風の予報誤差には、進行方向と進行速度の2種類がありますが、多くの例で調査すると、両方の誤差がほぼ等しく、図2のモデル図の様に、予報位置を中心とした分布となっています。

図2 モデル的な誤差分布
図2 モデル的な誤差分布

 精度の良い予報になればなるほど予報位置の回りに集中した分布となり、精度の悪い予報ほど周辺部にも広がっている分布となります。

 予報の精度を簡単に表すには、この予報位置のまわりにどれ位集中してくるかということを示せば良いのですが、これには2通りの方法があります。

 一つは一定の割合が含まれる円の大小で表わす方法(図2のA:ここでは70%が入る円の大きさ)で、もう一つは、予報位置の回りに一定の大きさの円を描き、この円内にどれくらいの予報が含まれているかで表わす方法(図2のB:ここでは150kmの円内に入る割合)です。

 気象庁の発表する予報円表示の予報円は、表示の簡明さ、情報伝達のわかりやすさ等を考え合わせ、前者の方法、つまり、円の中に70%の予報が入るということで半径を決めた予報円を採用しています(採用当初は60%でしたが、すぐに70%に引き上げられました)。

 このため、予報円の半径は、ほぼ台風の進路予報誤差の平均に対応しています。

 予報円が大きくなると、暴風警戒域も大きくなり、危険な台風と誤解しがちですが、暴風警戒域で囲まれた範囲が全て大荒れになるわけではありません。

 暴風警戒域に入っていても、台風が予報円の中のどの位置を進むかによって暴風域に入らないことも多々あります。

 予報円が大きいと、台風が大きくて危険であるとの誤解を与えるのではないかとの懸念がありますが、予報円の大きな台風は、予報が難しいことから防災対応がとりにくく、大きくて危険な台風並みの警戒が必要です。

 このため、台風情報を誤解せずに正しく理解するのが一番ですが、仮に誤解したとしても、十分な警戒をとるということについては同じ行動になります。

秋雨前線を刺激

 台風12号の北上で懸念されることは、秋雨前線の存在です(図3)。

図3 予想天気図(9月23日9時の予想)
図3 予想天気図(9月23日9時の予想)

 台風の月別発生数と上陸数をみると、ともに8月のほうが9月より多くなっています。

 にもかかわらず、台風は9月というイメージがあるのは、大きな災害をもたらした台風は9月のほうが多いからです。

 9月に大きな災害をもたらした台風が多いのは、台風接近時に秋雨前線が停滞していることが多いからです。

 台風と前線は危険な組み合わせですが、現在、まさにその状況です。

 台風12号が、まだ日本の南海上にある22日(火)の夜から秋雨前線による雨が降り始め、そのあと、台風12号の本体の雨が加わります。

 このため、東北南部太平洋側から紀伊半島にかけて、所により200ミリを超える大雨が予想されています(図4)。

図4 72時間予想降水量(9月22日6時から25日の72時間予想)
図4 72時間予想降水量(9月22日6時から25日の72時間予想)

 

 大荒れの4連休明けの9月23日(水)となる懸念がありますので、4連休最後の22日(火曜)は、台風12号の最新の情報を入手し、警戒してください。

 

タイトル画像、図1、図4の出典:ウェザーマップ提供。

図2の出典:饒村曜(平成5年(1993年))、続・台風物語、日本気象協会。

図3の出典:気象庁ホームページ。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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