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台風が衰えたのではなく、台風から変わった熱帯低気圧が関東接近

饒村曜気象予報士
台風1号から変わった熱帯低気圧(5月17日9時)

台風1号

 令和2年(2020年)の台風1号は、5月12日にフィリピンの東海上で発生し、西進してフィリピンに上陸しました。

 その後、フィリピンを北上してバシー海峡に達し、17日3時に熱帯低気圧に変わりました。

 台風の中心付近の風速が、17.2m/sメートル未満となり、台風の基準の風速より弱くなったからです。

 このようなとき、気象庁では「台風が弱まった」とは言わず、必ず「台風から変わった」という表現をします。

 これは、「弱まった」と言うと安心する人がいるからです。

 風が弱くなっても雨の心配があることに加え、熱帯低気圧から台風への再発達や、温帯低気圧の急発達などがあるです。

 台風1号から変わった低気圧の雲を、気象衛星の可視画像で見ると、台湾とルソン島の間のバシー海峡にしっかりした下層雲の渦巻きが見えます。

 これは、熱帯低気圧が、17.2メートルを超えていないものの、17.2メートルに近いやや強い風が吹いていることを示しています(タイトル画像参照)。

 また、台風1号は熱帯由来の湿った空気を多量に北上させていますので、18日(月)~19日(火)は全国的に雨で、太平洋側を中心に局地的に雨の量が多くなるおそれがあります。

200ミリの雨

 台風1号から変わった熱帯低気圧は、北東進して沖縄本島付近を通過し、本州南岸の前線と一体化して温帯低気圧に変わり、19日(火)9時には東海沖に進む見込みです(図1、図2)。

図1 予想天気図(5月19日9時の予想)
図1 予想天気図(5月19日9時の予想)
図2 雨と風の分布予報(5月19日9時の予想)
図2 雨と風の分布予報(5月19日9時の予想)

 このため、関東から西日本では、所により200ミリという雨が降る見込みです(図3)。

図3 48時間予想降水量予想(17日18時から19日18時まで)
図3 48時間予想降水量予想(17日18時から19日18時まで)

 気象庁では、「早期警戒情報」で、5日先までに警報を発表する可能性を「高」「中」の2階級で発表しています。

 これによると、18日(月)は九州を中心に、大雨警報を発表する可能性が高くなっています(図4)。

図4 週明けの早期注意情報
図4 週明けの早期注意情報

 また、19日(火)は、関東から九州までの広い範囲で大雨警報を発表する可能性があります。

腐っても鯛

 昔から、気象庁の予報官の間では、「腐っても鯛(優れたものは多少衰えても価値があるなどの意味)」になぞらえた「腐っても台風」という言葉があります。

 台風は、南の海上から多量の水蒸気を持ち込んでいますので、熱帯低気圧や温帯低気圧に変わったとしても、強い雨や風で大きな災害をもたらす可能性が残っています。

 最後の最後まで警戒を弱めることができないのが台風です。

 

タイトル画像、図2、図3、図4の出典:ウェザーマップ提供。

図1の出典:気象庁ホームページ。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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