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「なんで千葉県」といいたくなるほど相次いだ千葉県の災害

饒村曜気象予報士
茶色く濁った千葉県市原市付近の養老川(10月26日9時頃、撮影:片平敦)

令和元年(2019年)秋の千葉県

 令和元年(2019年)秋の千葉県は、台風15号、台風19号、そして、低気圧による1時間100ミリの雨と、「なんで千葉県」と思われほど災害が相次いでいます。

 令和元年(2019年)秋の太平洋高気圧の張り出しが、東日本を中心とした張り出しであることが多く、この縁辺部をまわるように台風や低気圧が関東地方にきたと考えられます。 

 太平洋高気圧の張り出しが、もう少し強ければ、あるいは、もう少し弱ければ千葉県ではなく、他の地方が災害にあった可能性があります。

 気象条件によっては、どこでも大災害発生の可能性があります。

台風15号と台風19号、そして低気圧

 台風15号は、9月9日5時前に強い勢力で千葉市付近に上陸し、関東を縦断しました。

 上陸時の中心気圧960ヘクトパスカルです。

 関東に上陸した台風のうち、昭和26年(1951年)以降で中心気圧が一番低かったのが、平成14年(2002年)に神奈川県川崎市付近に上陸した台風21号と、昭和33年(1958年)に神奈川県三浦半島に上陸した台風21号の960ヘクトパスカルです。

 関東地方上陸の台風で、中心気圧の低い記録を出している台風のほとんどは、神奈川県上陸か、千葉県でも房総半島上陸ですので、東京湾で一番奥に位置する千葉市への上陸は初めてといえそうです。

 このため、千葉市中央区で最大瞬間風速57.5メートル、最大風速35.9メートルを観測するなど、千葉県を中心に大きな被害が発生しました。

 台風15号の約1ヶ月後、台風19号が大型で強い勢力で、10月12日19時前に静岡県の伊豆半島に上陸しました。

 台風15号は、進行方向前面に分厚い雨雲を伴っており、この雨雲が東寄りの風によって伊豆半島から関東西部の山地に吹き付け、昭和33年(1958年)の狩野川台風のように、伊豆半島から関東の西部の山地で記録的な大雨が降っています。

 台風19号による雨は、神奈川県箱根で1000ミリを超えるなど、伊豆半島から関東西部の山地では600ミリを超え、群馬、埼玉、東京、神奈川、山梨、長野、静岡、茨城、栃木、新潟、福島、宮城、岩手の13都県で大雨特別警報が発表となりました。

 千葉県では、特別警報が発表するほどの記録的な大雨ではなかったのですが、台風15号の被害から復旧が終わっていないところでの大雨ですので、雨量の数値以上に大きな被害が発生しました。

 そして、非常に強い台風21号が関東の東海上を北上していた10月25日、東シナ海で発生した低気圧が、関東地方を通過しました(図1)。

図1 台風21号の雲(右)と低気圧の雲(左)
図1 台風21号の雲(右)と低気圧の雲(左)

 この低気圧は、普通の低気圧とは違い、低気圧と熱帯低気圧の中間の性質を持つ亜熱帯低気圧という珍しい低気圧です。

 熱帯低気圧のように多量の水蒸気を持っており、大雨を降らせる可能があります。

 加えて、関東の東海上を北上中の台風21号からの強い東風が雨を強化させました(図2)。 

図2 雨と風の分布(10月25日13時)
図2 雨と風の分布(10月25日13時)

 災害につながるような稀にしか観測しない雨量を観測・解析したとき、気象庁では「記録的短時間大雨情報」を発表しています。

 この数年に一度しか発生しない「記録的短時間大雨情報」が、千葉県の千葉市付近と八街市付近で発表されています。

 千葉市付近と八街市付近では、10月25日の13時30分までの1時間に約100ミリの猛烈な雨が降ったと解析されています。

 この記録的な大雨により、千葉県の養老川が氾濫するなど、千葉県を中心に河川の氾濫やがけ崩れなどが相次いでいます(タイトル画像参照)。

 千葉県では道路の冠水や交通網の寸断で帰れなくなる児童や生徒が相次ぎ、学校で一夜をあかした生徒が数多くでています。

千葉県の天気予報

 10月27日(日)の千葉県の天気予報は「くもり所により雨」です。

 大気が不安定になる夕方からは雨の可能性が高まりますが、雨量はそれほど多くない見込みです。

 ただ、これまでの雨によって、千葉県では土の中の水分量が多い状態が続いており、少しの雨でも土砂災害が発生する可能性がありますので、雨の降り方には注意して下さい(図3)。

図3 土の中の水分量(土壌雨量指数)
図3 土の中の水分量(土壌雨量指数)

 28日(月)は、移動性高気圧に覆われ晴れますが、東シナ海には低気圧が発生する予報で、晴れは長続きしません(図4)。

図4 予想天気図(10月28日21時の予想)
図4 予想天気図(10月28日21時の予想)

 29日(火)は、東シナ海で発生した低気圧が本州の南岸を通過するため、南部ほどまとまった雨になりそうです(図5)。

図5 雨と風の分布予報(10月29日15時の予想)
図5 雨と風の分布予報(10月29日15時の予想)

 台風15号、台風19号、および、低気圧の被災地では、一刻も早い災害復旧のためにも、二次災害防止が不可欠です。

 千葉市の16日間予報では、10月30日(水)以降の6日間は、晴れの日が続く予報です(図6)。

図6 千葉市の16日先までの天気予報
図6 千葉市の16日先までの天気予報

 降水の有無の信頼度は、5段階表示で一番高い「A」が多く含まれていますので、信頼度が高い晴れ予報です。

 その後は、3~4日に1日が雨という周期変化の予報ですが、降水の有無の信頼度は、5段階表示で一番低い「E」や、二番目に低い「D」が含まれていますので、信頼度が低い周期変化の予報です。

 「なんで千葉県」といいたくなるほど気象災害が相次いだ千葉県ですが、「千葉県が危ない県」というわけではありません。

 条件があえば、どこでも起こりうる災害が、たまたま千葉県で重なっただけです。

 どの地域でも、常日頃から災害への備えが必要です。

タイトル画像:片平敦氏提供。

図1、図2、図3、図5、図6の出典:ウェザーマップ提供。

図4の出典:気象庁ホームページ。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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