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台風10号は高潮被害がでやすい満月の日に接近

饒村曜気象予報士
満月(写真:アフロ)

危険な台風10号が西日本へ

 台風の危険要素として、「勢力が強い」「規模が大きい」「速度が遅い」の3つがあり、この危険三要素のうち、一つでもあればより一層の警戒が必要な台風ということができます。

 現在、西日本へ向かって北上中の台風10号は、危険三要素をすべて持っており、危険な台風です(図1)。

図1 台風10号の進路予報(8月14日3時)
図1 台風10号の進路予報(8月14日3時)

 台風情報は、気象庁の発表する最新のものをお使い下さい

 台風10号は発達しながら北西へ進んでおり、現在の最大風速が毎秒30メートルですが、15日0時には35メートルとなる見込みです。

 台風の強さは最大風速によって決められ、33メートル以上44メートル未満が「強い台風」、44メートル以上~54メートル未満が「非常に強い台風」、54メートル以上が「猛烈な台風」ですので、「台風10号は強い台風となって接近」ということになります。

台風が遅いということで大雨

 台風10号の強風域(最大風速が毎秒15メートル以上の領域)の範囲は、8月12日21時現在で、南側1100キロ、北側600キロ(平均で850キロ)もあります。

 強風域の範囲が500キロ以上800キロ未満の台風が「大型の台風」、800キロ以上の台風が「超大型の台風」ですから、「台風10号は超大型の台風」です。

 日本列島がすっぽり入るくらいの大きさの台風ですので、台風から離れていても強い風が吹きますので、注意が必要です。

 台風10号に伴う直接的な雨の範囲は、おおむね西日本を覆うくらいの大きさです(図2)。

図2 台風10号の雨と風の予報(8月15日9時の予報)
図2 台風10号の雨と風の予報(8月15日9時の予報)

 ただ、台風の東側では、南から暖かくて湿った空気の流入が続き、大気が不安定になっています。

 このため、関東地方など、台風から離れている地方でも、山沿いを中心として局地的な大雨の可能性があります。

 さらに、台風10号は、台風を動かす上空の風が弱いために、時速15キロと自転車並みの速度ですすんでおり、なかなか加速しないことから、これも、強い風と強い雨が継続します。

 台風が超大型であることに加え、台風の動きが遅いことから、西日本の太平洋側の東~南東斜面では、長時間にわたって東~南東風が吹き付けることで生じる地形性の雨の量が非常に多くなります。

 8月14日0時から16日24時までの72時間降水量についての試算では、紀伊半島と四国東部で1200ミリ以上、四国西部で900ミリ以上、九州北部で800ミリ以上、東海でも600ミリ以上となっています(図3)。

図3 台風10号の72時間降水量予想(8月14~16日)
図3 台風10号の72時間降水量予想(8月14~16日)

 総降水量が500ミリになると、水害や土砂災害が発生しはじめますが、その2倍の雨が降るわけです。

 厳重な警戒が必要です。

満月の日

 海面の水位(潮位)は、太陽と月の影響を受け、約半日の周期でゆっくりと上下運動をしており、潮位が上がり切った状態が満潮、反対に下がり切った状態が干潮です。

 地球に対して月と太陽が一直線上に並ぶとき(新月か満月のとき)は、1日の満潮と干潮の差が大きくなる大潮となり、月と太陽がお互いに直角方向にずれているときは満潮と干潮の差が小さい小潮となります(図4)。

図4 大潮と小潮の説明図(気象庁ホームページより)
図4 大潮と小潮の説明図(気象庁ホームページより)

 台風10号が西日本に上陸の可能性が高い15日は、満月の日です。

 つまり大潮の日です。

 台風上陸の可能性が高い15日は満月の日ですので、台風が接近して高潮をおこすときに満潮であれば、その満潮は普段より高い大潮の満潮です。

 海面はより高くなり、堤防を越えて大きな高潮被害をもたらすことがあります。

 しかも、台風の動きが遅いということで、満潮と重なるという可能性は高くなっています。

 高潮に対して、厳重な警戒が必要です。

平成16年(2004年)の台風16号の高潮もほぼ満月のとき

 平成16年(2004年)8月30日10時頃に鹿児島県串木野市付近に上陸した台風16号は、九州を縦断し、中国地方を通って日本海に抜けた台風ですが、岡山県宇野港や香川県高松港など瀬戸内海沿岸を中心に大きな高潮被害が発生しました(図5)。

図5 平成16年(2004年)の台風16号の経路図
図5 平成16年(2004年)の台風16号の経路図

 この年の満月は翌日の31日でしたので、30日の高潮は、ほぼ満月の日の高潮でした。

 台風10号は、大災害が発生しやすい要素をいくつも持っていますので、最新情報の入手に努め、厳重な警戒が必要です。

図1、図4、図5の出典:気象庁ホームページ。

図2、図3の出典:ウェザーマップ提供。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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