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危険な台風10号が西日本上陸へ 暴風域に入る確率情報の利用の仕方

饒村曜気象予報士
西日本へ接近する台風10号(8月12日15時00分)

体に堪える暑さ

 令和元年(2019年)は、猛暑日(最高気温が35度以上の日)を観測したのべ地点数は、平成30年(2018年)の半分しかありません(図1)。

図1 令和元年(2019年)と平成30年(2018年)の猛暑日ののべ地点数
図1 令和元年(2019年)と平成30年(2018年)の猛暑日ののべ地点数

 しかし、令和元年(2019年)は、7月中旬の梅雨末期まで気温の低い日が続いていたため、例年のように、梅雨末期に断続的に出現する暑い日によって体が暑さになれるということがありませんでした。

 このため、令和元年(2019年)の暑さは、平成30年(2018年)の暑さに比べ、多少気温が低い、多少湿度が低いという傾向があるものの、体に堪える暑さといわれています。

 体に堪えるほぼ全国的な暑さは、8月13日も続きますが、台風10号が西日本に接近・上陸する14~15日に一時中断しそうです。

 台風の進路によって、天気予報が大きく変わるのですが、現時点においては、週末からは再び暑くなりますが、全国的に猛暑日となることはなさそうです(図2)。

図2 各地の10日間予報(数字は最高気温)
図2 各地の10日間予報(数字は最高気温)

 週末の再度の暑さも心配ですが、まずは、西日本に上陸の可能性がある台風10号の動向が問題です。

危険な台風10号

 台風の勢力が強いと大災害が発生しますので、台風の強さは、台風災害の危険要素であることは言うまでもありません。

 しかし、台風の勢力が強くなくても大災害が発生することがあります。

 それは、台風の広がりが大きいときと、台風の動きが遅いときです。

 台風の広がりが大きいと、台風による暴風や強い雨の継続時間が長くなります。

 このため、建物が長時間の暴風に耐えられなくなり倒壊、あるいは、雨の総量が非常に多くなって洪水や土砂災害が発生しやすくなります。

 また、台風の広がりが小さくても、動きが遅いと、台風進路にあたる地方では、比較的狭い範囲とはいえ、台風による暴風や強い雨の継続時間が長くなります。

 台風の危険要素として、「勢力が強い」「規模が大きい」「速度が遅い」の3つがあり、この危険三要素のうち、一つでもあればより一層の警戒が必要な台風ということができます。

 現在、西日本へ向かって北上中の台風10号は、危険三要素をすべて持っています(図3)。

図3 台風10号の進路予報(8月13日3時)
図3 台風10号の進路予報(8月13日3時)

 台風情報は、気象庁の発表する最新のものをお使い下さい

 台風10号は発達しながら北西へ進んでおり、8月13日3時には最大風速が毎秒30メートルですが、14日3時には35メートルとなる見込みです。

 台風の強さは最大風速によって決められ、33メートル以上44メートル未満が「強い台風」、44~54メートルが「非常に強い台風」、54メートル以上が「猛烈な台風」ですので、「台風10号は強い台風となって接近」ということになります。

 台風の中でも、強いほうの台風で、しかも、台風の眼が大きい環状台風の様相を示してきました。

 このため、台風の中心付近でなはなく、台風の中心から少し離れたところで暴風となる可能性がありますので、台風中心から少し離れていても、厳重な警戒が必要です。

 また、台風10号の強風域(最大風速が毎秒15メートル以上の領域)の範囲が、8月12日21時現在で、南側1100キロ、北側560キロ(平均で830キロ)もあります。

 強風域の範囲が500キロ以上800キロ未満の台風が「大型の台風」、800キロ以上の台風が「超大型の台風」ですから、「台風10号は超大型の台風」です。

 日本列島がすっぽり入るくらいの大きさの台風ですので、台風から離れていても強い風が吹き始めますので注意が必要です。

 さらに、台風10号は、台風を動かす上空の風が弱いために、時速15キロと自転車並みの速度ですすんでおり、なかなか加速しません。

 つまり、西日本接近中の台風10号は危険な三要素(強い・大きい・遅い)を全て持っている台風ですので、最大限の警戒が必要です。

暴風域に入る確率情報の利用

 気象庁では、台風ごとに暴風域に入る確率を計算し、それを分布図や、地方ごとの時系列図の形で、ホームページで提供しています。

 気象庁が8月12日21時に発表した、暴風域に入る確率分布図によると、台風10号により今後120時間(5日)以内に暴風域に入る可能性が70パーセント以上あるのは、中国・四国・九州です(図4)。

図4 120時間(5日間)以内に台風10号の暴風域に入る確率の分布図(8月12日21時)
図4 120時間(5日間)以内に台風10号の暴風域に入る確率の分布図(8月12日21時)

 暴風域に入る確率の分布図は最新のものをお使いください

 また、地方ごとの時系列図として、5日先までの3時間ごとの時間帯に暴風域に入る確率と、1日先までの24時間に暴風域に入る確率、2日先までの48時間に暴風域に入る確率…5日先までの120時間に暴風域に入る確率を表現した図を提供しています(図5)。

図5 宮崎県宮崎地区の暴風域に入る確率の時間変化(8月12日21時)
図5 宮崎県宮崎地区の暴風域に入る確率の時間変化(8月12日21時)

 図5によると、宮崎県宮崎地区では、14日明け方(3時から6時)から確率が0ではなくなり、15日未明(0時から3時)に確率が一番大きな値、約90パーセントとなっています。

 つまり、この確率が一番大きな値の時間帯、15日未明(0時から3時)が台風10号の宮崎県宮崎地区に最接近する時間帯です。

 そして、確率が一番大きな値が、次の新しい予報で増えて入れば、台風が接近している、あるいは、勢力が強くなっているかですので、より一層の警戒が必要となります。

 図6は台風10号が、まだ小笠原近海にいた10日9時と11日3時の暴風域に入る確率の時間変化です。

図6 宮崎県宮崎地区の暴風域に入る確率の時間変化(8月10日9時の予報と11日3時の予報)
図6 宮崎県宮崎地区の暴風域に入る確率の時間変化(8月10日9時の予報と11日3時の予報)

 10日9時の予報では、宮崎地区最接近は14日夕方(15時から18時)、確率の最大値は約20%ですが、11日3時の予報では、最接近が15日明け方(3時から6時)、確率の最大値は約50パーセントとなっています。

 今年、令和元年(2019年)5月から、台風の強さについての予報が3日先までから5日先までに延長されましたので可能となりましたが、平成の時代であれば、11日3時の段階では、台風10号の暴風域に関する情報は発表されませんでした。

 11日3時の予報は、10日9時の予報に比べ、最接近の時間が遅れたものの、暴風域に入る確率は約50パーセントと、高くなっています。

 そして、11日3時のピーク値が出ている時間帯は12日21時の時間帯と大きくずれていません。

 つまり、台風10号が宮崎県宮崎地区に最接近する時間帯の予報は、12日21時以降は安定して予報されていることを示しており、台風10号の予報精度が良くなっていることを暗示しています。

 危険な台風10号は、九州南部に上陸か、豊後水道を通って広島県に上陸、あるいは四国西部に上陸か、現時点では絞り切れていませんが、西日本では厳重な警戒が必要なことにはかわりがありません。

 そして、防災対策をするのは、晴れて暑いかもしれませんが、今日13日しかありません

タイトル画像、図2、図3の出典:ウェザーマップ提供。

図1の出典:気象庁ホームページをもとに著者作成。

図4、図5、図6の出典:気象庁ホームページ。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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