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猛烈な台風25号が接近 10月は猛烈な台風の季節

饒村曜気象予報士
気象衛星「ひまわり」から見た台風25号(10月3日1時)

猛烈な台風25号

 フィリピンの東海上で台風25号の最大風速が毎秒54メートル以上となり、猛烈な台風となりました。

台風の階級(最大風速)

強い台風(33~44メートル)

非常に強い台風(44~54メートル)

猛烈な台風(54メートル以上)

 台風の強さの分類では、「弱い(17~25メートル)」「なみの強さ(25~33メートル)」というものもありましたが、平成12年(2000年)以降は使われていません。これは、「台風としては弱い」という意味であっても、「弱い」という言葉が、安心させてしまうとの防災上の配慮からです。

 猛烈な台風は、10月に一番多く発生し、ついで9月、11月となります。つまり、10月前後に猛烈な台風が発生するのは珍しくありませんが、多くの年は、10月頃の猛烈な台風は、日本付近まで北上してきません。しかし、今年、平成30年(2018年)は違います。

 台風24号は、猛烈な台風にまで発達したあと、9月30日に非常に強い勢力で和歌山県田辺市付近に上陸し、日本全国に記録的な暴風をもたらしましたが、台風25号も似たコースを通って日本を襲う可能性があります(図1)。

図1 台風25号の進路予報(10月3日1時の予報)
図1 台風25号の進路予報(10月3日1時の予報)

 台風情報は最新のものを利用してください

 現在の日本周辺は、台風24号のときに比べると、太平洋高気圧が少し西に張り出しており、上空の強い西風の位置も少し南下しています。

 このため、台風25号は、台風24号に比べ、少し大回りして西日本に接近します。また、台風24号のように沖縄の南海上で速度が落ちるということはない見込みです。

猛烈な台風

 平成30年(2018年)は、これまで台風3号、台風8号、台風21号、台風22号、台風24号が猛烈な台風にまで発達していますので、台風25号で6個目となります。

 台風の強さを最大風速で決めるようになった平成3年(1991年)以降では、最多となります。

 平成2年(1990年)までは、台風の強さは主として中心気圧で定めていました(表)。

表 台風の強さの分類(昭和37年から平成2年まで使用)
表 台風の強さの分類(昭和37年から平成2年まで使用)

 

 これは、気圧の分布が風の分布に比べて、把握しやすいことから、主に中心気圧を用いた分類が最初に使われました。平成3年(1991年)から風に重点をおいた分類に変更になったのは、静止気象衛星「ひまわり」により、台風の風分布が、かなりの精度で解析できるようになったことからです。

 平成2年(1990年)以前は、台風の中心気圧が900ミリバール(現在の900ヘクトパスカル)未満になった場合を、猛烈な台風としていましたので、猛烈な台風と称する基準が今より厳しく、猛烈な台風の数は少なかったことになります。

 日本気象協会が昭和42年(1967年)から編纂している気象年鑑を用い、昭和41年(1966年)から平成2年(1990年)までの台風のうち、最大風速が55メートル以上になった台風が多い年は次のようになります。

昭和42年(1967年)7個

昭和43年(1968年)7個

昭和45年(1970年)7個

昭和46年(1971年)6個

昭和58年(1983年)6個

 昭和40年代には、現在の基準で言う猛烈な台風が多かったと推定できますが、近年は、最大風速が55メートル以上となる台風の数が、年に0~4個という年が続いていました。

急発達の台風によるマリアナ海難

 昭和26年(1951年)から昭和55年(1980年)までの台風について、9時と21時に前24時間で50ヘクトパスカル以上の急発達を数えたことがあります。

 のべ73回あったわけですが、このうち一番多かったのは9月の19回ですが、10月も17回あります。そして、11月の16回と続きます。

 台風が急発達するのは、10月前後なのです。

 昭和40年(1965年)10月4日には、台風29号がマリアナ諸島北部のアグリガン(アグリハン)島付近の10隻のカツオ漁船を襲い、死者3名、行方不明者206名というマリアナ海難が発生しています(図2)。

図2 昭和40年(1965年)の台風29号の経路
図2 昭和40年(1965年)の台風29号の経路

 このとき、台風29号は、24時間に60ヘクトパスカルも急発達をしていました。

 遺体がほとんど見つからなかったことや、この中に十代の若者が30名もいたことが、事故の悲劇性を大きくしました。

 当時は気象衛星もなく、マリアナ諸島グアム島の陸上観測と米軍飛行機の観測だけという非常に少ない資料をもとに台風予報作業を行っていたため、このような急発達を予測・通報できませんでした。

 気象通報ミスとして漁業関係者が気象庁に抗議し、佐藤内閣総理大臣の指示で、洋上の船からの気象資料を多くするなど観測の強化が図られています。

 また、気象庁では、日本近海で毎秒25メートル以上の暴風が吹くと考えられる時には、すみやかに警告するという緊急信号制度(オートアラーム)が作られています。

 私が気象庁で勤務していた頃も、緊急信号制度があったのですが、一回も使ったことがありません。

 気象衛星での常時監視が行われ、台風の詳しくて正確な情報が即座に利用者に伝わるようになったからで、台風が急発達しているということを、特別に伝えるということを考えなくてもよくなったからです。

 10月の台風は、急速に発達すること、日本付近に達する頃には猛烈な速度となること、秋雨前線で降雨が続いているところへの台風接近になることなど、数が少ないといっても、上陸すれば大災害を起こすという、油断できない台風です。

 台風25号が接近してくるときは、シーズン外れの台風という感覚ではなく、夏の台風以上に危険な台風という認識で警戒してください。

タイトル画像、図1の出典:ウェザーマップ提供。

図2、表の出典:饒村曜(平成9年(1997年))、「10月に大きな被害をもたらした台風」、雑誌「気象」、日本気象協会。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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