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速度を落とす台風12号、西日本は長時間の雨に警戒

饒村曜気象予報士
雲の渦巻き 台風のイメージ(提供:アフロ)

台風12号が西進

 台風の多くは、日本の上空を吹いている偏西風と呼ばれる西風によって西から東へ進みます(東進します)。盛夏になると、偏西風が高緯度地方に移動して弱まることから、台風の動きは遅くなり、停滞したり迷走します。

 しかし、台風12号は、「寒冷渦(かんれいうず)」と呼ばれる上空に寒気を伴った空気の渦の影響を受け、この渦をまわるように、時速35キロ以上に加速しながら北上、その後、向きを西に変えて本州南岸を速い速度で西進しています(図1)。

図1 台風の進路予報(7月29日0時の進路予報)
図1 台風の進路予報(7月29日0時の進路予報)

台風の進路予報は常に新しいものを利用してください

危険半円

 台風の進行方向右側は、進行方向左側に比べて風が強いとよく言われます。

 図2のように、台風全体を移動させる風Aと、台風自身の風Bが強めあうのが右側で「危険半円」、弱めあうのが左側で「可航半円」です。

図2 台風のモデル的な風
図2 台風のモデル的な風

 実際の風はそのようになっていることが多いのですが、誤解もあります。危険半円、可航半円という言葉は帆船時代にできたものです。帆船は動力が風ですから、台風の中心から逃れようとするときに、向かい風となる右側が「危険」、追い風となる左側が「可航」です。

 可航半円は、危険であってもとにかく可航半円に入り、追い風を利用して脱出するという意昧です。決して「航海できるほど安全」という意味で「可航」という言葉を使っているのではありません。左側でも、台風の中心付近では強い風が吹き危険です。

 日本付近にやってくる台風の多くは南西から北東進しますので、進行方向右側は台風の東側、進行方向左側は台風の西側になります。

 しかし、台風12号のように、台風が本州の南海上を西進する場合は、本州すべてが進行方向右側、危険半円に入ります。風が強く吹き、その強い風によって東斜面を中心に大雨となります。

今年初の台風上陸

 台風12号は本州の太平洋沿岸を西進し、7月29日1時に三重県伊勢市に上陸しましたが、次第に減速しています。西日本で、進行方向の右側の雨や風の強い領域(危険半円)に長く入ることになり、東斜面を中心に大雨に警戒が必要です。

 寒冷渦は次第に弱まっていますので、台風を動かしている上空の風が弱くなり、減速する予報です。

29日9時 岡山市付近にあって、西へ時速35キロ

29日21時 福岡市付近にあって、西南西へ時速25キロ

30日21時 長崎県五島列島近海にあって、西南西へ時速15キロ

31日21時 東シナ海にあって、西南西へゆっくり

 このことは、台風の影響が西日本を中心に長く続くことを意味します。

 また、偏西風はしばらく日本列島上空に戻ってはきませんので、南シナ海の台風12号(あるいは台風12号から変わった熱帯低気圧)の動きはゆっくりで、日本の南海上から湿った空気が日本列島に流入しやすい状況は長く続き、大雨に警戒する期間が長くなります。

 総降水量が多くなりますので、厳重な警戒が必要です。

図1の出典:気象庁ホームページ。

図2の出典:饒村曜(平成26年)、天気と気象100、オーム社。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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