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台風より防災対策が難しい爆弾低気圧

饒村曜気象予報士
雪の壁(ペイレスイメージズ/アフロ)

爆弾低気圧

 オホーツク海には台風より防災対策が難しい「爆弾低気圧」があってほとんど停滞し、強い西高東低の気圧配置(冬型の気圧配置)が続いています(図1)。

図1 地上天気図(平成29年12月26日21時)
図1 地上天気図(平成29年12月26日21時)

 「爆弾低気圧」とは、急速に発達し、熱帯低気圧並みの風雨をもたらす温帯低気圧のことですが、気象庁では戦争をイメージするなどの理由で「急速に発達する低気圧」と表現しています。

 世界気象機関(WMO)では、北緯60度に温帯低気圧がある場合は24時間に24ヘクトパスカル(hPa)以上、北緯40度の場合は18ヘクトパスカル以上、中心気圧が低下する温帯低気圧を「爆弾低気圧」と呼んでいます(図2)。

図2 爆弾低気圧の定義
図2 爆弾低気圧の定義

24時間で低気圧の中心気圧が40ヘクトパスカルも低下

 日本付近では、世界的に見ても「爆弾低気圧」の発生が多い地域で、季節的には、冬から春に多く発生していますので、季節的には少し早い発生です。

 一般的に、「爆弾低気圧」は強い寒気の南下と強い暖気の北上が重なったときに発生しますが、今回は主に非常に強い寒気の南下によって発生し、25日3時から26日3時までの24時間に40ヘクトパスカルも気圧が降下しました(表)。

表 現在オホーツク海にある低気圧の気圧変化
表 現在オホーツク海にある低気圧の気圧変化

 気象庁が低気圧に対して命名したのは、「昭和45年1月低気圧」だけです。このときも爆弾低気圧でしたが、気圧の降下は24時間で32ヘクトパスカルでした。

 台風も、「爆弾低気圧」のように気圧が急激に低下して発達することがあります。台風の中には、「爆弾低気圧」より大きな気圧低下、例えば、24時間に50ヘクトパスカル以上も発達する場合が約1%あります。

 しかし、気圧が急激に低下して暴風が強まるといっても、台風の場合、暴風が強まるのは台風の中心付近だけです。しかし、「爆弾低気圧」は台風より広範囲で暴風が強まり、台風のように中心付近だけが強いわけではありません。このため、被害が広範囲に及ぶ危険性があるのですが、何処で、何時ごろから、何の防災対策をとるかの判断が非常に難しいために、「爆弾低気圧」は台風以上に危険です。

 爆弾低気圧の暴風を、「台風並みの暴風」と表現することがありますが、「台風以上に危険な暴風」なのです。

「昭和45年1月低気圧」

 昭和45年(1970年)1月30日から2月2日にかけて台湾付近で発生した低気圧と、日本海で発生した低気圧が一緒になった低気圧は、24時間に32ヘクトパスカルも気圧が下がるという、爆弾低気圧の中でも強いものでした。東日本・北日本は猛烈な暴風雪や高波に見舞われ、中部地方から北海道にかけて死者・行方不明者25人、住宅被害5,000棟以上、船舶被害300隻という被害が発生しました。

北日本と北陸地方で大荒れ

 日本海には、寒気の流入を示す筋状の雲がでていますが、この雲は大陸のすぐそばから発生しています。シベリアからの寒気が日本海にはいるとすぐに対流雲が発生していることから、今回の寒気が非常に強いことを示しています(図3)。

図3 気象衛星「ひまわり」の赤外画像(平成29年12月27日3時)
図3 気象衛星「ひまわり」の赤外画像(平成29年12月27日3時)

 オホーツク海の低気圧の発達は止まっていますが、引き続き発達したままで、ほとんど動いていません。このため、北日本と北陸では非常に強い風が吹き、北陸地方を中心に大雪となっています。山沿いの地方では、ところによっては1日に1メートルを超す大雪という予報がでています。

 北日本と北陸地方では、しばらくは、暴風と大雪に厳重な警戒が必要です。

 そして、大雪が一段落しても、気温が低いので積雪はなかなか減らず、雪による生活の困難さの目安となる積雪の積算値はどんどん増えます。雪との戦いは長く続きますので、健康に十分注意する必要があります。  

注目点は中心気圧より等圧線の混む場所

 地図で等高度線の間隔が混んでいるところは、傾斜が急で、そこを流れる川は速い流れです。反対に等高度線の間隔が開いてるところは傾斜がゆるやかで、そこの川はゆっくりとした流れです。空気(大気)も同じです。等圧線の混みぐあいを気圧頻度といいますが、気圧傾度が大きいところで、空気が速く動く、つまり強い風が吹いています。

 風が強くなればなるほど、風による被害が大きくなりますので、等圧線が非常に混んでいるところは、警戒が必要な場所です。

 発達した低気圧の中心付近で気圧の値が低くても、等圧線の間隔が広くて穏やかな天気であることは珍しくありません。

 しかし、その周辺では、気圧の値が高くても、等圧線の間隔が狭くて暴風となっているところがあります。この等圧線の間隔が狭いところがやってくると、それまで穏やかであっても急に荒れることがあります。

 平成25年3月2日から3日にかけて発達した低気圧によって北海道は暴風雪となり、立ち往生した車のなかでの一酸化炭素中毒や、雪を巻き上げて視界が悪くなる「ホワイトアウト」による目的地までわずかな所での凍死などで9名が亡くなっています。2日午前の北海道は、低気圧の中心付近ではあったものの等圧線の間隔が広く、穏やかな天気でしたが、北海道の西海上にあった等圧線の混んだ部分がやって来た夕方から、急に風と雪が強まってきたことが災害の下地となりました。

 このような事例がありますので、オホーツク海にある低気圧の中心気圧が高くなってきたといっても、等圧線が混んでいる場所が残っている限り、警戒を緩めるわけにはゆきません。

図1、図3の出典:気象庁ホームページ。

図2の出典:饒村曜(2014)、天気と気象100 一生付き合う自然現象を本格解説、オーム社。

表の出典:気象庁ホームページをもとに、著者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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