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実態以上に増えたように感じる「記録的短時間大雨情報」

饒村曜気象予報士
大雨イメージ(写真:アフロ)

記録的短時間大雨情報の発表基準

 気象庁では、大雨警報を発表中に数年に一度しか起こらないような激しい雨を観測・解析したとき、「記録的短時間大雨情報」を発表しています。

 この情報は、現在の降雨がその地域にとって災害の発生につながるような、稀にしか観測しない雨量であることを知らせ、より一層の警戒を呼びかけるために発表するものです。   

 記録的短時間大雨情報の発表基準は、1時間雨量歴代1位または2位の記録を参考に、各細分区域ごとに決めてあります。このため、一番低いのは北海道根室支庁と新潟県佐渡などの1時間雨量80ミリ、高いのは三重県、徳島県南部、高知県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県石垣島と宮古島の1時間雨量120ミリと、1.5倍の差があります。

2種類ある「記録的短時間大雨情報」

 「記録的短時間大雨情報」には、地上の雨量計による観測によるものと、気象レーダーと地上の雨量計を組み合わせた分析(解析)によるものの2種類があります。

 地上の雨量計による観測によるものは、実際の観測ですから、観測地点名と1ミリ単位の雨量が発表されます。

 これに対し、分析(解析)によるものは、誤差を考え、地名に「付近」、雨量に「約」という言葉がつき、雨量は10ミリきざみで、120ミリを超える場合は「120ミリ以上」と表現されます。

気象レーダーと地上の雨量計を組み合わせた解析雨量

 気象レーダーは、電波を使って広い範囲の雨の分布や強さを連続的、面的に観測できますが、地上の雨量を直接測定するものではありません。一方、アメダスはその地点の雨量を正確に観測できるといっても、アメダス観測所の配置は、約17キロメートル四方に1ケ所の割合でしかありません。解析雨量は、レーダーとアメダスのそれぞれの特徴を生かし、レーダーの連続的、面的な情報を、アメダスの実測雨量で較正することにより得られる雨量情報です(図)。

 各地のレーダーで観測したデータは、アメダスの雨量計で較正し、レーダー観測に伴う各種誤差を最小にするように処理され、降水短時間予報や「記録的短時間大雨情報」などに使われています。

 このような雨の解析、予報システムは世界的に見ても進んだシステムです。

 しかも、最近は、アメダスだけでなく、1時間に1回、正時には、気象庁以外の国が設置した雨量計や、自治体が設置した雨量計のデータも取り込んで作成するシステムに改良され、精度があがっています。

図 レーダーとアメダスによる雨量観測
図 レーダーとアメダスによる雨量観測

増える「記録的短時間大雨情報」

 記録的な集中豪雨は、アメダスの観測網にかからないほどの狭い範囲で降ることが多いため、レーダーの助けを借りた解析雨量を使い、できるだけ早く「記録的短時間大雨情報」を発表し、警戒を呼びかけています。

 ただ、昨年(平成28年:2016年)9月末から、記録的短時間予報の分析(解析)を、それまでの30分毎から10分毎に短縮していますので、分析(解析)による発表が大幅に増えています。

 今年(平成29年:2017年)の台風18号が、台風の統計をとりはじめた昭和26年(1951年)以降、初めて九州、四国、本州、北海道にの主要4島全てに上陸しました。各地で大雨となって「記録的短時間大雨情報」が13回発表となりましたが、このうち、約半数の6回は10分、20分、40分のものです(表)。

 つまり、昨年までなら発表となっていないケースが、かなりの割合で含まれていると考えられます。

 今年の「記録的短時間大雨情報」は、解析間隔を短縮したことなどから、実態以上に増えたように感じます。

表 平成29年(2017年)の台風18号に伴う記録的短時間大雨情報(気象庁がホームページをもとに著者作成)
表 平成29年(2017年)の台風18号に伴う記録的短時間大雨情報(気象庁がホームページをもとに著者作成)

「記録的短時間大雨情報」の迅速発表

 気象庁の報道発表資料(平成28年(2016年)9月15日)では、平成28年(2016年)9月28日(水)12時より、これまでより分析(解析)による「記録的短時間大雨情報」を最大で30分早く発表するとしています(地上の雨量計による観測によるものは従来通り)。

 気象庁では「危険な状況を1分でも早く周知し、危険箇所等の居住者に安全確保行動をより迅速にとっていただくなどの効果が、これまでにも増して期待できます」としています。

 これは良い事ですが、その反面、迅速化に伴い、分析(解析)間隔を30分毎から10分毎に短縮したことなどから、発表回数の増加があり、「記録的短時間大雨情報」が実態以上に増えたように感じている人が多いと思います。

表の出典:気象庁ホームページで公表している記録的短時間大雨情報をもとに著者作成。

図の出典:饒村曜(2012)、お天気ニュースの読み方・使い方、オーム社。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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