Yahoo!ニュース

毛髪湿度計 金髪女性の髪を使用する理由

饒村曜気象予報士
乾燥した日に髪に櫛が通りにくい(「イラストでわかる天気のしくみ」より)

乾燥した日に髪に櫛が通りにくいと感じることがあるように、髪は湿度によって変化します。

相対湿度とは

空気のしめり具合を、量的に示したものが相対湿度で、含むことができる最大の水蒸気量に対して、実際の水蒸気量の比率です。

空気は温度によって含むことができる最大の水蒸気量(飽和水蒸気量)が変化します。

気温が10度のときは1立法メートルあたり気温が10度のときは9グラム、20度のときは17グラム、30度のときは20グラムと気温が高くなるにつれ飽和水蒸気量は大きくなります。

このため、水蒸気量が9グラムと同じであっても、気温が10度の時は、9分の9で相対湿度100%ですが、気温20度の時は、17分の9で相対湿度53%、気温30度の時は、20分の9で相対湿度30%と、気温が高くなると相対湿度は低くなります(図1)。

図1 相対湿度の説明図
図1 相対湿度の説明図

つまり、相対湿度が同じであっても、冬から春より梅雨時のほうが気温が高く、多くの水蒸気を含むことができ、それだけ大雨が降りやすくなります。

毛髪湿度計の原理

湿度計にはいろいろな種類がありますが、最初に実用化したのは18世紀に作られた毛髪湿度計です。

毛髪湿度計は、髪の毛が湿度によって延びることを機械的に拡大したものです(図2)。

図2 リシャール型自記湿度計(Hで示す赤の部分が毛髪)
図2 リシャール型自記湿度計(Hで示す赤の部分が毛髪)

毛髪の表面には多くの穴があり、空気中の湿度によってその穴が自動的に開閉し、結果的に湿度によって髪の長さが変わるという性質があります。

その伸縮の程度は、乾燥のときから相対湿度100%に至るまでに128分の3(2.3%)だけ伸びます。しかし、その伸縮の度合いは湿度に比例するのではなく、図3のように曲線を描いています。

図3 湿度と毛髪の伸縮関係
図3 湿度と毛髪の伸縮関係

この曲線の形は、髪の毛の種類によって違います。

最初に精密な観測が行われたのは金髪女性の髪の毛ですので、湿度計は金髪女性の髪の毛を使って作られました。

太平洋戦争直前、輸入品の金髪が入手困難になると、日本女性の黒髪で湿度計を作ろうとする研究が進められました。黒髪は、湿度が高いときには金髪より伸び率が若干大きく、湿度が50%程度のときは伸び率が若干小さくなるなどの結果がでて、曲線の形が少し違っています。

毛髪は昔から西洋婦人、特に多く仏国より高価に買ひ入れたが、最近の研究にて国産で充分なることが確かめられた。

出典:三浦栄五郎(1940)、気象観測法講話、地人書館

伸縮の不均一をカムで均一に

湿度と毛髪の伸縮関係が曲線であるため、毛髪の伸びを単に機械的に拡大しただけでは、自記記録のメモリ幅が不均一になってしまいます。このため、関係式を作って再計算する必要があり面倒です。

このため考えられたのが記録をとるために取り付けられたペンに取り付けられたカム(伝動子)です(図4)。

図4 カムとペン
図4 カムとペン

2つの弧状のカムを腹合わせしたもので、その弧の形は計算と実験から割り出したものです。

このため、湿度と毛髪の伸縮関係が異なった毛髪を使うと、湿度計の精度が悪くなります。

伸縮関係が異なった毛髪を使うときは、それにあわせでカムの形も変えなければなりません。

電気で湿度を観測

湿度計の毛髪は常に清浄を保ち、塵埃の付着がないように柔らかい筆か刷毛で常に払い落とし、又時々ベンジン類で洗浄し且つ水洗いをしなければなりません。

精度を保つためには、こまめな手入れが必要で、その作業は大変でした。

このため、電気的に湿度を測る観測機器がいろいろと作られました。

現在、気象庁などで使われている湿度計は、電気式湿度計です(図5)。

電気式湿度計には、相対湿度の変化に応じて高分子膜に含まれる水分の量が変化し、これにより誘電率が変化することから相対湿度を測定するものでず。図5の高分子膜湿度センサの電極は極めて薄い金属を蒸着して作った膜で、電極を通して高分子膜は水分を吸収・放出します。

図5 電気式湿度計(気象庁ホームページより)
図5 電気式湿度計(気象庁ホームページより)

今でも使う毛髪湿度計

電気式湿度計が普及しても、今でも毛髪湿度計が使われているところがあります。

それば美術館です。

美術品の管理には、気象観測のような精度は要求されませんが、湿度の観測は非常に重要です。

電気をまったく使わない毛髪湿度計は、どこにでもおけ、美術品に影響をあたえず、そして火災の心配がまったくないなどという、美術館にとって優れた特徴を持っているため、今でも使われているのです。

タイトル画像と図1の出典:饒村曜(1999)、イラストでわかる天気のしくみ、新星出版社。

図2~図4の出典:三浦栄五郎(1940)、気象観測法講話、地人書館。

図5の出典:気象庁ホームページ。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

饒村曜の最近の記事