難しい予報用語 「一時雨」と「時々雨」、降っている時間が長いのはどっち?
気象庁では簡潔表現で豊富な内容を盛り込むため、予報に用いる言葉(予報用語)の定義を定めています。
予報用語が作られたのは昭和41年
天気予報の文章は、利用者にわかりやすいように、「平易な短い言葉」が使われています。
「平易な短い言葉」は、長い文章と違って、人によって様々に受け取られ、正確に真意が伝わらない言葉でもあります。
このため、予報官が予報に用いる言葉については、同じ基準で発表できるよう、昭和41年3月に予報用語のガイドラインを定めています。
これは国民に強制する言葉の定義ではありません。
天気予報の利用者は多岐にわたり、人によっては違って受け取ることがあるといっても、少なくとも、予報官が発表する文章は、できるだけ統一した定義で発表しようとするものです。
このため、予報用語を理解すると、簡潔表現の中に盛り込まれている豊富な内容を理解することができます。
しかし、天気予報は多くの人が利用しますので、国民全ての実感にあうように予報用語を決めることは難しく、人によっては違って受け取ることがあります。
このため、テレビ番組で「時々雨と一時雨で、雨が降っている時間が長いのは?」などのクイズが出題されたりします。
天気予報で使用が好ましくない言葉
昭和41年3月に作られた「予報作業指針(その14、予報用語および文章)」では、次のことを考え、天気予報で使用が好ましくない言葉をリストアップしています。
(1)専門用語でまだ一般にPRされていないもの(例えば、渦度)
(2)専門的に決まった名称があるのに、間違った言い方をしているもの(例えば、瞬間最大風速。正しくは最大瞬間風速)
(3)意味がいろいろに解釈され誤解を招きやすいもの(例えば、雪模様)
(4)主観的な言葉、大変聞きづらい言葉(例えば、だいたい良い天気。だいたいは地域的か時間的かわからない)
(5)古い言葉で現在はあまる使われていないことば(例えば、正子)
(6)いいまわしが適当でないもの(例えば、薄雲っている・晴れがち。がちは悪いことが起こりやすい場合に使うことから晴れに使うのは適当でない)
放送文で使用が好ましくない言葉
天気予報を耳から聞く場合は、好ましくない言葉の範囲が広がります。
昭和41年3月に作られた「予報作業指針(その14、予報用語および文章)」では、放送文で使用が好ましくない言葉もリストアップされ、言い換えたり、使用する場合には解説をつけるとしています。
(1)耳で聞いては意味が分からない言葉(例えば、雲域・晩霜)
(2)発音上ほかの言葉と誤解されやすいもの(例えば、気象潮(気象庁)・終雪(驟雪)
(3)難しい術後、漢語など(例えば、北偏する・険悪な)
(4)発音しにくい言葉、聞き苦しい言葉(例えば、雨のやみ間)
(5)簡単に優しい言葉でいいかえのできるもの(例えば、東進(東に進む))
(6)現在では一般にあまり使用しない言葉(例えば、さみだれ)
(7)言葉使いとして不正確または不自然なもの、その他内容的に誤解されるおそれのある言葉(例えば、雲が増す(雲が多くなる))
昭和62年に予報用語の改訂
昭和41年3月に作られた「予報用語および文章」は、20年来使われてきましたが、昭和62年8月に改訂が行われています。
これは、その間にアメダスや気象衛星等の新しい気象観測システムの導入や、数値予報の精度向上などの予報技術の進歩があり、加えて、降水確率予報の発表などの情報提供方式の改善があったからです。
予報用語に関する基本姿勢は同じですが、アメダスや気象衛星などの用語を加えたため、収録用語は約700語と、20年前の約350語の2倍となっています。
そして、収録用語を4つに分類しています。
予報用語(天気予報や注・警報、気象概況に使用する用語)
解説用語(やや専門的であったり、逆に、くだけた用語のため天気予報などには使用を控えたい用語)
参考用語(注釈を付けて解説に用いる他は使用しない用語)
言い換え用語(誤って使用されていたり、一般的でない用語のため他に適当に言い換えを示した用語)
そして、昭和62年8月から、いくつかの用語については定義を変更しています。
その一つが「一時」と「時々」の定義の変更です。
「一時」と「時々」の定義の変更
「一時」と「時々」の定義は、雨の場合で説明すると、昭和62年8月から、表1のようになっています。
雨が連続して降る場合(雨のやみ間があっても1時間以内の場合)、雨が降っている時間が、予報期間の4分の1未満を「一時雨」、雨が断続して降る場合、雨の降っている時間の合計時間が予報期間の2分の1未満を「時々雨」です。
ほとんどの場合、「時々雨」のほうが「一時雨」より雨の期間が長くなりますが、例外がでてきます。
例えば、連続して雨が予報期間の20%で降っている「一時雨」と、断続して降っている雨の時間を合計すると予報期間の15%となる「時々雨」を比べると、「一時雨」のほうが雨の時間が長いことになります。
しかし、このケースは希ですし、わかりにくい予報文となりますので、予報官は別の表現をすると思います。
したがって、「時々雨と一時雨で雨が長いのは?」というクイズの答えは、「多くの場合、時々雨のほうが長い」というのが正解です。
ただ、昭和62年7月までの定義では、「時々雨のほうが長い」というのが正解です。
昔の「時々雨」の定義
昭和62年7月までの定義は、表2のように、連続して降る雨(雪)で、予報期間の4分の1以上、2分の1未満を「時々雨(雪)」としていました。
また、天気概況で記入する時間帯と予報期間が異なっているので、厳密な比較にはならないと断り書きをして、参考として、昼間(6時から18時)の天気と夜間(18時から翌日6時)の天気概況の記入要領の表を示しています(表3)。
つまり、昭和62年7月までは、現在のような「一時雨より短い時々雨」の可能性はありませんので、「時々雨と一時雨で雨が長いのは?」というクイズの答えは、「時々雨のほうが長い」とシンプルになります。
「時々」と「一時」を変更した理由
変更した理由は、「時々」に対する利用者の一般的感覚の重視です。そして、連続現象を表すときはその発現時間帯を指定して予報文とすること、「一時」の予報文については、その現象の発現時間帯を指定するように努めるよう、予報官は部内文書で具体的に指示されました。
例えば今日予報(予報期間が6時から18時までの12時間)の場合を例として、次の4つがあげられました。
(1)朝のうち、一時的に連続した降雨がある場合(曇り、朝のうち一時雨)
(2)断続した雨が続くが降雨時間の合計が6時間未満の場合(曇り時々雨)
(3)連続降雨が日中3~6時間続く場合(曇り、日中は雨)(従来は、曇り時々雨)
(4)連続降雨が昼過ぎから降り出す場合(曇り、昼ごろから雨)(従来は、曇りのち雨)
現在の天気予報は2段構えで利用
「平易な短い言葉」は、人によって様々に受け取られ、正確に真意が伝わらないという欠点があっても、「一時」「時々」などの言葉は、わかりやすく、簡単に全体像がつかめることから、使い方に工夫をしながら、現在でも使われています。
とはいえ、「平易な短い言葉」には限界があります。
しかし、予報技術が進み、地点ごとに詳しい天気の時間変化の予報である、時間時系列予報ができました。
この時系列予報は膨大であり、全てをマスメディアで伝えることは不可能ですが、パソコンやスマートフォンなど、新しい情報伝達手段では伝えることが可能です。
このため、気象庁ではホームページで代表的な地点についての時系列予報を発表しています(図)が、民間の天気予報を行っている会社は、気象庁よりも多くの地点で、もっと細かく時系列で予報を行っていますので、検索すれば簡単に入手できます。
テレビや新聞などのマスメディアが報じる「平易な短い言葉」の天気予報で天気予報の全体像を知り、自分の生活に影響しそうだったら、パソコンやスマートフォンで検索し、より詳しく、具体的な自分にあった天気予報を知るという、2段構えで天気予報を利用する時代になっています。