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北京で深刻な黄砂 偏西風に乗った黄砂は6日夜から7日に飛来

饒村曜気象予報士
黄砂で汚れた自動車(ペイレスイメージズ/アフロ)

中国の北京市は、5月4日3時頃から5日9時頃まで、内モンゴル自治区方面から飛来した黄砂に覆われ、砂塵(黄砂)に関する青色警報を発令して市民に警戒を呼びかけるという、2年ぶりの深刻な事態となりました。

北京の砂塵青色警報

砂塵による青色警報は、平成25年の春から導入されたもので、「人民網日本語版(2013年5月10日)」によると、次のようになっています。中国でも、大気汚染に対する取り組みが進んでおり、これまでの情報は出さないというスタンスから、不十分であっても情報を発表するというスタンスに変わっていると感じています。

今回の改正では、煙霧警報については、現行の黄色とオレンジ色の2種類に加え、新たに赤色警報が新設された。各色の警戒レベルは、黄色が中度、オレンジ色が重度、赤色が深刻な重度。また、レベル判定のための指標として、従来の視程や大気中の湿度に加え、PM2.5濃度も指標の一つに組み込まれた。砂塵警報については、青色警報が新しく追加された。この青色警報は、12時間以内に揚沙(強風で視程10-1キロ)や浮塵(弱風で視程10-1キロ)が発生する可能性がある場合、もしくは、すでに発生した揚沙や砂埃が続く場合に発令される。

出典:人民網日本語版(2013年5月10日)

砂嵐状態になっている(揚沙)のか、空中に漂っている(浮塵)のかはともかく、北京市内では視程が1キロメートル程度まで落り、黄色がかった霧に覆われたような状態が続きました。

北京市内では、PM10(粒子の直径が10マイクロメートル以下)の濃度が、1立方メートル当たり2000マイクログラムを超えていますが、世界保健機関(WHO)の環境基準値(年平均)である20マイクログラムの100倍です。

この黄砂は、気圧の谷が通過し、強い西よりの風が吹いたことから弱まっていますが、強い風と気圧の谷に伴う上昇気流によって黄砂の一部は上空に高く吹き上げられています(図1)。

図1 地上天気図(5月5日6時)
図1 地上天気図(5月5日6時)

上空の偏西風

日本などの中緯度帯の上空は、強弱はありますが、いつも西風(偏西風)が吹いています。

このため、中国大陸で上空に吹き上げられた黄砂は、この西風によって日本付近にやってきます。黄砂の粒子のうち、比較的大きいものは早く落下しますが、比較的小さなものは落下速度が遅いのですが、高気圧圏内にはいると下降気流によって、より早く地表付近に降りてきます。

このため、移動性高気圧が通過する時には、地表付近で黄砂が多くなります(図2)。

図2 黄砂解説図(気象庁ホームページより)
図2 黄砂解説図(気象庁ホームページより)

黄砂の飛来

5月4日から5日に北京周辺から上空に吹き上げられた黄砂は、上空の偏西風に乗って6日夜から7日にかけて、日本上空に飛来することが予想されますが、この時は西日本に移動性高気圧がやってきます(図3)。

図3 予想天気図(5月7日9時の予想)
図3 予想天気図(5月7日9時の予想)

このため、地上付近の黄砂は6日夜から7日にかけて多くなり、視程がわるくなったり、自動車や洗濯物が黄砂で汚れたりしますので注意が必要となります。

気象庁の黄砂予報では、次のようになっています。

図4 地表付近の黄砂の濃度(5月5日15時)
図4 地表付近の黄砂の濃度(5月5日15時)
図5 黄砂の予想(5月7日3時の予想)
図5 黄砂の予想(5月7日3時の予想)

PM2.5は?

大気汚染では、世界の多くの国で直径が10マイクロメートル以下の粒子「PM10」を観測してきましたが、1990年代後半からは、観測技術が向上してきたことから、人体への影響が深刻な、より小さな粒子、直径が2.5マイクロメートル以下の粒子「PM2.5」の観測が始まっています。

日本でPM2.5が一般の人に注目されたのは、4年前の平成25年(2013年)1月~2月に、中国の影響を受けて日本のPM2.5濃度が上昇したときが初めと思われます。しかしこのときも、過去に比べて極端に数値が大きくなったわけではありません。

一般的にはPM10が多ければ、PM2.5も多いと言えますが、単純ではありません。小さくなればなるほど、工場や車から発生する人為発生の粒子の割合が増えてくるからです。

このため、比較的粒子が大きい黄砂の予報と非常に粒子が小さいPM2.5の予報は別物です。

日本気象協会の予想によると、黄砂の中心が日本に移っているときも、PM2.5の中心は、中国大陸です(図6)。

図6 PM2.5の予想(5月7日3時の予想)
図6 PM2.5の予想(5月7日3時の予想)
気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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