すでに実用化している地震の予警報 熊本地震と緊急地震速報

デマ(ペイレスイメージズ/アフロ)

予測に必要な3つの要素

自然現象が予測ができるということは、「どこで」、「どのくらいの強さで」、「いつ」の3つが同時にわかることです。一つでも欠けていると予測ではありません。

地震については、東日本大震災のように、数百年から千年周期で発生する、となり合う地域で同時に地震が発生する巨大地震については難しいのですが、「どこで」、「どのくらいの強さで」発生するかは、ある程度わかるようになってきました

しかし、「いつ」地震が起こるかは、現在のところ、わかりません。

このため、地震の事前予測はできないのです。もし、「いつ」をはっきり言う事前予報があったとしたら、それはデマです。

そこで、緊急地震速報という予警報が考えられました。

地震を予測できる緊急地震速報

地震が発生すると、震源から揺れが波となって伝わってきます。

これを地震波といいますが、地震波には秒速約7キロメートルで伝わるP波と、秒速約4キロメートルで伝わるS波があります。

P波の方が早く伝わりますが、破壊力のある大きな揺れはS波のほうです。

このため、地震波の伝わる速度の差を利用して、先に伝わるP波を検知した段階で、大きな揺れのS波が伝わってくる前に危険が迫っていることを知らせることが可能になります。

これが、緊急地震速報です。緊急地震速報は、地震が発生してからの速報ですので、震源地から離れた場所に対して有効な情報です。

緊急地震速報は、地震が発生したら、その情報を破壊的な地震波が到達する前に予警報を伝えるものですので、事後予測です(図1)。

図1 緊急地震速報のしくみ
図1 緊急地震速報のしくみ

地震発生後ですから「どこで」「どのくらいの強さで」「いつ」という3つの要素がわかりますので、予測ができるのです。

ただ、地震発生後の事後予報ですから、震源地付近では、緊急地震速報が届く前に破壊的な地震波がきて間に合いません。

震源地から少し離れた場所でしか利用価値がなく、しかも、破壊的な揺れの数秒から10秒ちょっとくら前にしか入手できない予警報です。

地震の事前予報ができれば、それに越したことはありませんが、地震の事後予報である緊急地震速報でも、大きな揺れが来る前に情報が入りますので、被害を軽減する対応をとることができます。

緊急地震速報は、平成16年に一部運用を開始し、平成19年10月より運用を開始していますが、このような地震に関する予報は世界初の試みです。

地震に対する特別警報

気象庁では、災害発生の危険性を分かりやすく示すため、平成25年8月30日から重大な災害の起こるおそれが著しく大きい場合に特別警報を発表しています。

気象庁が自ら周知の措置をとるほか、報道機関の協力を求めて周知するほか、地方自治体等の防災機関の通信網やNHKの放送網を活用し、住民へ確実に伝達する体制をとっています。

特別警報は、気象等に関する特別警報、津波に関する特別警報、火山に関する特別警報、地震に関する特別警報の4つがあります。

このうち、地震に関する特別警報は、緊急地震速報が発表基準です(表)。

表 地震に関する予警報の発表基準  
表 地震に関する予警報の発表基準  

推定震度が5弱以上である特別警報と警報は、一般向けにテレビや携帯電話などを通じて提供されますが、直ちに行動をとる高度利用者と呼ばれるところへは、推定震度が4以下である場合も含めて各地の震度や到達時間などの詳しい情報が提供されています。

高度利用者は気象庁からの情報を受けるやいなや、直ちにコンピュータ制御を行って防災行動に入り、新幹線やエレベーターは直ちに停止の信号が出て止まります。とにかく停止をさせ、安全を確認して再開という行動は、費用対効果が非常に大きなもので、利用が急速に進んでいます。

熊本地震での緊急速報

緊急地震速報は、南海地震など、海溝型の巨大地震では威力を発揮すると考えられていますが、熊本地震のように直下型の地震では、地震発生から大きな揺れがくるまでの時間が非常に短く、間に合わないという本質的な弱点を持っています。

図2 震度7を観測した4月14日の熊本地震の前震の緊急地震速報(気象庁HPより)
図2 震度7を観測した4月14日の熊本地震の前震の緊急地震速報(気象庁HPより)

最大震度7を観測した熊本地震の前震(平成28年4月14日21時26分)では、緊急地震速報第一報提供した時刻から主要動到達までの時間は図2のようになっています。このときに大きな震度を観測した地域は、緊急地震速報第一報が発表したときには既に揺れていた地域(図中で0と記した一番内側の円内)でした。

また、最大震度7を観測した熊本地震(平成28年4月16日1時25分)でも、図3のように、大きな震度を観測した地域の中心は、緊急地震速報第一報が発表したときに既に揺れていた地域ですが、大きな揺れの範囲が広く、5から15秒前に緊急地震速報が発表になった地域もあります。

図3 震度7を観測した4月16日の熊本地震の緊急地震速報(気象庁HPより)
図3 震度7を観測した4月16日の熊本地震の緊急地震速報(気象庁HPより)

緊急地震速報のメリット

新幹線など高速で移動する列車に対して、自動的に緊急ブレーキをかけ、大きな揺れが来る前に停止させることができます。停止できなくとも、減速させることができます。速度がでていなければ、被害は小さくなります。

また、エレベーターの安全確保のための利用できます。緊急地震速報でエレベーターが止まれば、閉じこめ事故の防止になります。閉じ込め事故が多発すると、救助に時間がかかります。

また、エレベーターが止まっている時の大きな揺れは、動いている時の大きな揺れに比べて損傷が少ないと言われています。

このため、P波の感知器と緊急地震速報などを組み合わせて、緊急地震速報が間に合わない直下型の地震も含めて、大きん揺れ前に最寄り階に停止させるシステムがついたエレベーターが急速に普及中です。

さらに、緊急地震速報で、直ちに、発生場所と規模が分かることから、大きな揺れがくる前に、津波対策のための作業を、確実にスタートさせることができます。

図4 緊急地震速報を利用した自働急閉機能を持つ熊野川と市田川の間の水門(新宮市)
図4 緊急地震速報を利用した自働急閉機能を持つ熊野川と市田川の間の水門(新宮市)

例えば、津波に対する水門閉鎖が考えられます。緊急地震速報で水門閉鎖がスタートしても、水門閉鎖が終わる前に大きな揺れがきますが、閉鎖動作が進行中であれば、確実に、津波の到達前に水門が閉まります。

東日本大震災では、津波を防ぐために水門を閉めに向かった多くの水防団の人が亡くなっていますが、緊急地震速報で水門が自動的に閉まるようになっていたら防げたと強く思います。

というのは、10年以上前に勤務していた和歌山県の南部では、南海地震による津波を防ぐために、緊急地震速報を利用した自働急閉機能を持つ水門が作られていたからです(図4)。

緊急地震速報を信用して行動を

テレビや携帯電話で緊急地震速報が伝えられるときには、すでに、高度利用者によって対応がとられ、大きな効果がでています。

緊急地震速報を入手したとき、それが正しければ、すぐに大きな揺れがきます。自分の頭を手で守るなどやれることは限られていますが、それでも、死ぬところを重傷に、重傷を軽傷にするという、かなりの利用価値があります。

緊急地震速報は直下型では間に合わないことがある、あるいは誤報の可能性があるという弱点を持っていますが、考える時間的余裕はありませんので、まず、緊急地震速報を信用して行動をとることが大切です。

誤報でなけれな命に関わる情報ですぐに対応が必要であり、仮に誤報に基づいた行動をとったとしても、すぐに普段の状態に戻れるからです。

緊急地震速報は、震度1位の誤差がありますが、多くの地震が発生している時には、震源地の位置をコンピュータが誤って計算することがあります。

例えば、 平成28年4月16日11時29分に発表した熊本地震の前震に対する緊急地震速報では、日向灘で予想最大震度7の地震が発生するというものでした。これは、2つの地震が同時に発生したために起きた誤報です(図5)。

図5 緊急地震速報の誤報(平成28年4月16日11時29分、気象庁HPより)
図5 緊急地震速報の誤報(平成28年4月16日11時29分、気象庁HPより)

この緊急地震速報は誤報となりましたが、この通りの地震であれば津波が発生して大きな災害に直結する可能性があり、一刻の猶予もありませんでした。