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119番の日から全国火災予防運動 市町村の火災警報を支援するために気象庁は「火災気象通報」

饒村曜気象予報士
火災現場(写真:アフロ)

秋の「全国火災予防運動」が11月9日から始まります。この一週間、消防訓練等に参加されるかたも多いかと思います。

2016年度の標語は、「消しましょう その火その時 その場所で」です。

「全国火災予防運動」の名称が使われるのは、昭和28年(1953年)以降ですが、それまでも「全国大火撲滅運動」が行われていました。

「消防記念日」と「119番の日」

「全国火災予防運動」の期間は、何度か変更がありますが、平成元年(1989年)から、現在の2つの期間が全国火災予防運動期間になっています。

春の全国火災予防運動(3月1日~7日)ですが、これは、「消防記念日(3月7日)」までの1週間です。「消防記念日」は、昭和23年3月7日に消防組織法が施行され、現在の消防組織ができた日です。

また、秋の全国火災予防運動(11月9日~15日)は、「119番の日(11月9日)」からの1週間です。「119番の日」は、昭和62年に、消防に対する正しい理解と認識を深め、防火防災意識の高揚や地域ぐるみの防災体制の確立を目的に作られた日です。火事を伝える呼び出し電話番号「119」からの語呂合わせですが、この頃は、空気が乾燥し、火災の起こりやすい季節であることも大きな理由です。

火事の呼び出しサービスは大正6年から

火事が発生すると、一刻も早く消防組織伝えないと大ごとになります。

このため、早くも、大正6年(1917年)4月1日から、電話局が火事の呼び出しサービスを開始しています。当時は、交換手が通話先を聞いてから通話先へつなぐという業務形態でしたが、制度として、「火事」と電話するだけで、交換手が消防署につないでいます。

大正15年(1926年)に、ダイヤルで直接相手につながる電話ができると、この利用者の緊急通報用ダイヤルとして「112番」が割り振られました。

当時の電話では、一番早くダイヤルを回せるのが「1」で、二番目に早いのが「2」だからです。

しかし、誤接続が多かったことから、翌年10月1日から「119番」に変更となり、現在に至っています。その間、元号は大正から昭和に変わっています。

火災警報は市町村が発令

市町村は、空気が乾燥して強風が吹くなど、火災の発生しやすい気象のとき火災警報を発令します。

消防法の規定に基づく「火災警報発令基準規程(昭和53年9月4日)」があるように、「火災警報発表」ではなく、「火災警報発令」です。

火災警報が発表されると、市町村では特別体制に入ります。市町村の防災行政無線等による放送や、掲示板、消防車両等による巡回広報などの周知が行われ、条例による火の使用制限などが行われます。

暴風警報や大雨警報など、気象に関するほとんどの警報は気象庁が行います。

気象業務法では、「気象庁は警報をするという記述」があり、別の条文で「気象庁以外は警報を発表してはいけないという記述」がありますので、「気象庁は警報発表」です。

気象庁には命令権限がないので、「気象庁は警報発令」ではありません。

このように、市町村が発令する火災警報は、他の警報と間違えやすいことから、気象予報士試験の問題には、ときどき出題されます。

火災気象通報と実効湿度

消防法の規程により、気象庁では、市町村長が発令する火災警報の基礎資料として、気象の状況が火災の予防上危険と認められるときは、都道府県知事に対して火災気象通報を行っています。

そして、都道府県知事は、気象庁から火災気象通報を受けたときは、直ちに市町村長に通報します。

火災気象通報の基準は、定期的に担当気象台等と都道府県で、実効湿度、最小湿度、風速などをもとに定められています。

ここで、実効湿度とは、柱などの木材の乾燥度を表すもので、当日の平均湿度と前日の実効湿度を用いて計算されます。

当日の実効湿度=0.3×当日の平均湿度+0.7×前日の実効湿度

この式は、前日の実効湿度がわからないと計算できない式ですが、少し前の湿度の影響はどんどん小さくなりますので、最初に適当な値をいれ、しばらく計算を繰り返していれば、実効湿度がもとまります。

例えば、東京の実効湿度の計算で、10月30日の実効湿度がわからない場合、10月30日の実効湿度を100%と仮定した場合と、0%と仮定した場合との差は、どんどん小さくなり、10日もすれば、両者は、ほぼ同じとなります。

図 東京の実効湿度の計算例(日平均湿度は平成28年11月)
図 東京の実効湿度の計算例(日平均湿度は平成28年11月)

湿度の低い日が数日あっても、実効湿度は小さくなりません。長期間にわたって平均湿度が低いと実効湿度が低くなり、木材は乾いて大火が起きる可能性が高くなります。

逆に、実効湿度が小さい時に、数日にわたって湿度が高い日があっても、実効湿度がそれほど高くはならず、大火が起きる可能性は高いままです。

火事は、全てを無くしますので、撲滅に対する取り組みは、年2回の全国火災予防運動の一週間だけでなく、一年中必要です。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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