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アンサンブル予報が示す低気圧の発達とその後の寒波の到来

饒村曜気象予報士
気温変化(2015年11月~2016年1月)

天気の予測には、いろいろな不確定さを含んでいます。この不確定さは、数日先より一週間先の予測のほうが、一週間先より一ヶ月先の予測のほうが大きくなるというように、予測が長期間になればなるほど大きくなります。

しかし、この予測に伴う不確定さを考慮することで将来を予測する手法があります。

それがアンサンブル予報です。

アンサンブル予報

気象観測の結果を解析して初期値を作り、それをもとに大型計算機で将来の大気の様子を計算するのが数値予報と呼ばれる手法で、現在の天気予報の基本となっています。

アンサンブル予報は、観測誤差があることを考慮して初期値を少し変えた数値予報を数多く行い、その平均などをとって集団的振る舞いを統計処理するものです。

初期値を少し変えただけで大きく予報が変わる場合(ばらつきが大きい場合)は信頼度が低く、初期値を少し変えても予報があまり変わらない場合(ばらつきが小さい場合)は信頼度が高いなど、単独予報では得られない情報を得ることができます。

また、個々の予報を平均したアンサンブル平均による予報成績は、個々の予報の予報成績の平均よりも統計的に見て良好なものとなります。

常に良好というわけではありませんが、個々に行った予報で生じていた予報誤差が、互いに打ち消しあって予報精度が向上することが多いからです。

ただ、数多く計算すれば良いというわけではありません。計算する数が増えれば計算時間はどんどん増えて計算機の能力を超えてきますが、予測精度はあるところまでくると頭打ちになるからです。

このため、総合判断で予報ごとに計算する数が決められており、例えば、一ヶ月予報では50例を計算しています。

暖冬から顕著な寒波の襲来

暖冬が続いていますが、これから気圧の谷や寒気の影響で日本付近は低気圧が急速に発達して大荒れの天気となる見込みです。

図1は、1か月予報におけるアンサンブル予報の例で、地上約1,500mの気温が平年に比べてどのくらい変化したかの予測を示しています。50本の細い実線は個々の予測結果で、黒の太い実線は50本の細い線の平均(アンサンブル平均)です。

気温は平年並か平年より高い見込みで、これまでの暖冬から寒く感じる程度ですが、急速に発達した低気圧が通過したあとは、顕著な寒波が襲来して本格的に寒くなります。

これは、一ヶ月予報のアンサンブル予報で予想されています。

図1 アンサンブル予報による気温の変化傾向(上から北日本、東日本、西日本、沖縄・奄美)
図1 アンサンブル予報による気温の変化傾向(上から北日本、東日本、西日本、沖縄・奄美)

来週は低気圧が発達して大荒れ後に顕著な寒波が襲来するという予報は信頼度が高く、月末に気温が平年より高くなる予報はやや信頼度が低いといえます。暖冬が続いていますが、アンサンブル予報によると、北日本を除いて来週後半には顕著な寒波が襲来し、その後は暖かくなるという予報は、信頼度が高いということができます。

北日本も同様の傾向がありますが、東日本などに比べると信頼度がやや低くなっています。

図2 週間予報支援天気図(左から17日21時、18日21時、19日21時)
図2 週間予報支援天気図(左から17日21時、18日21時、19日21時)

来週は日本付近で低気圧が発達し大荒れ

週間予報のもととなっている天気図にも、アンサンブル予報が使われています。

図2は、専門家向けに気象庁が提供している天気図ですが、来週は日本付近で低気圧が発達し大荒れとなりますので、大変な一週間になりそうです。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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