今年の台風進路予報は正確だった
気象庁から今年の台風についての速報が発表になり、台風進路予報誤差は過去最小でした。
平成27年の台風進路予報
平成27年の台風の発生数は、今のところ、平年並の27個(平年値25.6個)ですが、気象庁発表資料によると、台風の統計を開始した昭和26年以降、発生した平均経度では最も東となり(平年値は東経136.7度)、また平均緯度も平年より南となっています(平年値は北緯16.3度)。
気象庁では、エルニーニョ現象の影響によると考えています。
また、今年は発達した台風が多く、「スーパー台風」という言葉がよく使われました。
台風には年ごとのくせがあり、進路予報が難しい年とそれほどでもない年がありますので、進路予報誤差は変動していますが、長期的にみると、確実に小さくなっています(図1)。
特に、平成27年は、24時間先(明日)、48時間先(明後日)、3日先、4日先、5日先の台風進路予報の全てが、これまでで一番小さくなっています。つまり、これまでで最も高い精度となっています。
年々精度が向上している台風の進路予報
台風の予報技術は進歩を続け、予報円表示が始まった昭和57年頃には、24時間予報の平均誤差が200キロメートル以上ありましたが、現在は約100キロメートルと半減しています。今年の1日先の進路予報誤差は72キロメートルでした。
このような予報技術の進歩によって長期間の予報が実用的となり、昭和62年からは48時間先まで、平成9年からは72時間先(3日先)までの予報が始まっています。
さらに、平成11年からは4日先と5日先までの予報が始まっています。
台風の進路予報は、長い期間の予報ほど精度向上が著しく、21世紀が始まった頃の3日先の台風予報の平均誤差は約400キロメートルでしたが、近年は4日先でも、400キロメートルを下回っており、今年は、5日先でも368キロメートルです。
このように5日先でも400キロメートルを下回ってくると、一週間先の台風予報が実用化する可能性がでてきたのではないかと思います。
私たちは一週間単位で生活していますので、1週間先の台風予報が実用化すれば、その利便性はかなりのものがあります。
このように平均誤差が小さくなった理由は、台風の進路予報のもととなっている数値予報技術が改善したためです。
この数値予報というのは、まず場所や高さによって異なる大気の状態を、3次元的な格子点ごとに、風向・風速、気圧、気温、水蒸気量等で定量的に表し、格子点上に表された気象要素の時間変化を流体力学の方程式、熱力学の方程式、質量保存の方程式、さらに水蒸気の凝結や蒸発等の変化を表す方程式等といった物理方程式を用いて計算たものです。
これらの方程式は複雑に組み合わされており、手作業ではまず解けません。コンピュータがないとできない方法です。
台風の進路予報スーパーコンピュータの飛躍的な性能アップに加え、気象衛星から観測された詳細な気象要素を取り込む技術が進んだことが背景にあります。
台風の進路予報誤差と予報円の大きさの関係
台風の予報誤差には,進行方向と進行速度の2種類がありますが、多くの例で調査すると,両方の誤差がはぼ等しく、予報位置を中心とした分布(ほぼ正規分布)となっています。
精度の良い予報になればなるほど予報位置の回りに集中した分布となり、精度の悪い予報ほど周辺部にも広がっている分布となります。
予報円は、進路予報の精度を簡単に表すため、一定の割合が含まれる円の大小で表わす方法です。
一定の割合として60%を採用した場合の円の大きさより、70%を採用した場合の円の大きさの方が大きくなります。1.2倍くらいになります(図2)。
いずれにしても、台風の進路予報誤差の平均が小さくなると予報円も小さくなります。
予報円が導入した頃は、一定の割合として60%が使われましたが、今は70%を採用しています。導入した頃に比べたら大きくなる円を採用していますが、予報誤差の平均が小さくなっているので、予報円がかなり小さくなっています。
将来、進路予報精度がもっと向上すれば、予報円を省略し、予報円の中心位置のみの表示になるかもしれません。
図2の出典:饒村曜(1993)、続・台風物語、日本気象協会