台風の強さは見た目で決める
今から70年前の昭和20年8月22日は、太平洋戦争突入により禁止されていた天気予報が復活した日で、このときは、観測データの極端な不足から、房総半島沖にある台風の存在がまったくわからず、大はずれの天気予報で警報も出し遅れでした。現在では、ひまわり8号が10分ごとに台風を観測していますので、台風の卵の段階から見逃しはありません。非常に強い台風15号がバシー海峡に、また、強い台風16号が父島の東海上にあってともに北上中などという台風情報が発表されていますが、そのもととなっている台風の強さは、気象衛星から見た目で判断したものです。
台風の強さは見た目で決める
昭和50年代、気象衛星による観測が始まると、台風は中心付近の雲が厚く、眼がはっきりしているほど、また、周囲を回る雲の帯の幅が太くて長く伸びているほど勢力が強いという特徴があることがわかってきました。このため、台風を眼の状態と眼を取り巻く雲バンドによって分類し、台風の強さを推定する方法が考えられました。アメリカのドボラック(Vernon Dvorak)が昭和48年頃に最初に試みたので「ドボラック法」と呼ばれている方法です。この方法は、気象衛星を用いた台風観測の極めて有力な手段と認められ、日本でも台風解析の中心となっています。現在では、ドボラックの方法は、なるべく客観的になるよう細部まで考慮され、かなり複雑になっています。その基本的な考えを昭和48年頃の方法で説明すると次のようになります。
台風の状態を示すT数は、「台風の中心付近の厚い雲の層と目の状態で決めた数字CF(central feature)」、「台風の周辺の曲率を持った雲の様子で決めた数字BF(banding feature)」、「衰弱中の台風補正α」のたったの3つからなっています。
T=CF+BF+α
(αは、台風が発達中・変化なしのときは0、衰弱中のとき0.5~1.0)
台風が衰弱するときには、周囲の雲の衰弱が中心気圧より先に起こります。そのため、CFとBFだけでT数を決めると、実際より高い中心気圧(弱い最大風速)になってしまうため、台風が衰弱中のときのみ、0.5~1.0の数字を加えています。つまり、台風の雲が衰えてきても、台風の勢力はしばらく維持されるのです。
台風16号は、台風の目がはっきりしており、勢力の強い台風なのですが、台風15号の目が小さくてクリッとしており、もっと強い勢力の台風ということを示しています。今後、南西諸島から西日本に接近する台風15号に警戒が必要です。
同じ見かけなら、ハリケーンより台風のほうが強い
気象衛星による観測が始まった昭和50年代は、飛行機による台風観測が頻繁に行われていましたので、T数と飛行機観測による中心気圧と最大風の対応表が各地で作られました。表は北西太平洋の台風についてですが、北大西洋などでは値が少し違います。同じように見え、同じT値であっても、北大西洋などのハリケーンより、北西太平洋にある台風のほうが気圧が低い(発達している)のです。現在は、飛行機による台風観測が行われませんが、島の上などを通過したときの観測値をみると、かなりの精度で推定していることがわかります。このことは、多額の費用と危険をおかして実施してきた飛行機による台風観測の代替になった理由にもなっています。
図表の出典:饒村曜(2014)、天気と気象100、オーム社。