自粛生活でワイン消費量急増、人気の「赤」産地を巡る~コロナ禍で変わるドイツの今

(c)norikospitznagel

新型コロナウィルスの感染拡大が続く中、アルコール消費量が増えている。ドイツでは赤ワインの売上が好調だという。今回はワイン消費量に焦点を当て、ドイツの今をお伝えする。画像はすべて筆者撮影。

(画像トップはフランケン赤ワイン遊歩道のワインテラスにて。マイン川と雄大な自然を満喫しながらの試飲は至福のひと時)

ロックダウンでワイン消費量が増加

ドイツワイン協会(Deutsche Wein Institut・以下DWI)広報マネージャー・エルンスト・ブュシャー氏は、「今年第2四半期(4~6月)のワイン消費量は前年同期比で12.5%増加した。なかでもドイツ産ワインの消費量は前年同期比で14%増だった。そのうち白ワイン10%増、赤ワイン15%増と、赤ワインの消費が好調だ」と発表した。今年8月、DWIの委託で2万世帯を対象に市場調査企業「ニールセン」が行った購買行動のリサーチ結果だ。

フランケン赤ワイン遊歩道でハイキングを楽しむ人たち
フランケン赤ワイン遊歩道でハイキングを楽しむ人たち

ワイン消費量増加は、3月中旬から4月中旬にかけてのロックダウン(都市封鎖)がきっかけとなり、自宅で料理を作り、アルコールを嗜む「家のみ」が増えたことだ。さらに海外渡航の禁止により、国内旅行が人気となり、ハイキングやキャンピングに出かける人が殺到した。旅に自分の好きなワインを持参し、現地で愛飲するというケースも多いようだ。ちなみにドイツにおける2019年ワイン消費量は1人当たり28.3リットルだった。そして正確な数字は出ていないが、コロナ禍中は、通販で食料やワインを注文する人も増えているようだ。

遊歩道からマイン川を望む
遊歩道からマイン川を望む

ドイツのワイン生産地は13地域ある。その中で世界的に知られた伝統ある生産地といえば、ラインガウ、モーゼル、そしてフランケンの3地域だろう。これらの地域にはライン川、モーゼル川そしてマイン川がブドウ畑に沿って流れており、ブドウ栽培にも最適な地域だ。

コロナ禍で赤ワイン消費が好調だったことから、ドイツの赤を代表するシュペートブルグンダー(仏語・ピノ・ノワール)が特に美味しい地域として知られるクアフランケンを訪ねた。

クアフランケンとは?

クアフランケンを蛇行するマイン川の水源はバイエルン州にある
クアフランケンを蛇行するマイン川の水源はバイエルン州にある

ワイン生産地「フランケン」に属する「クアフランケン」は、バイエルン州ヴュルツブルクとヘッセン州フランクフルト間の中ほどに位置し、その間を蛇行するマイン川渓谷周辺に散在する21の町を対象にした地域を指す。2015年より正式にこの名称を使用するようになった。地域のワイン醸造家の協同組合のような役割を果たしており、加盟者が協力しあってワインや地元の特産品を宣伝して活性化に努めている。

フランケン地方の代表的なワインは、ジルヴァーナーやミュラー・トゥルガウなど辛口の白ワイン。ワインボトルでは、通常のボトルの他に、この地方ならではの丸くて平たいボックスボイテルが有名だ。一方、クアフランケンはドイツの赤を代表するシュペートブルグンダー(仏語・ピノ・ノワール)が特に美味しい地域として知られ、家族経営のワイナリーが多い。

フランケン地方ならではのソーシアルディスタンス1.5mはボックスボイテル11本分だそう
フランケン地方ならではのソーシアルディスタンス1.5mはボックスボイテル11本分だそう

また国内ワインに国際的な影響力を持つ一流ワイン評論家アイヒェルマン氏の絶賛するワインやドイツを代表する卓越したワイナリーもある。

フランケン赤ワイン遊歩道30周年

全長約79キロメートルのフランケン赤ワイン遊歩道は、大まかにいえば、バイエルン州と一部バーデン・ヴュルテンベルク州にまたがるブドウ畑のハイキングロードだ。1990年に整備され、今年で30周年を迎えた。

フランケン赤ワイン遊歩道の指標は赤ワインの入ったグラス
フランケン赤ワイン遊歩道の指標は赤ワインの入ったグラス

クアフランケン7つの町、グロースヴァルシュタット、グロースオストハイム、エルゼンフェルト、クリンゲンベルク、グロースホイバッハ、ビュルクシュタット、グロースオストハイムにまたがるこの遊歩道には、6つのハイキングコースがある。ブドウ畑の中に整備された遊歩道のため、一部に狭い道や足場の悪い場所もあるが、標高はどのコースも500メートル以下なので、初心者でも気軽に楽しめる。

訪問した9月上旬、ぶどう栽培が始まっていた
訪問した9月上旬、ぶどう栽培が始まっていた

今夏、時間と気分に任せていくつかのコースを歩いた。道中でワイン試飲をしながらワイン醸造家のお話も伺った。

コース1・グロースヴァルシュタットからグロースオストハイム(全長16.2km)

ワイナリー・ギーゲリッヒ

ワイナリー・ギーゲリッヒの白ワインコレクション
ワイナリー・ギーゲリッヒの白ワインコレクション

マイン川沿いの南側丘陵地帯の5か所で計12.5ヘクタールのブドウ畑を用い、白と赤ワインを生産する家族経営のワイナリー。

グロースヴァルシュタットは、長年国内でトップの座を占めたハンドボールで知られる町。この町で有名なワイナリーといえば、ギィゲリッヒ。フランケンワインで7つのゴールドメダルを獲得した。ゴーミヨ・ドイツワインガイドと前出アイヒマン氏お薦めのワイナリーだ。

コース2・グロースオストハイムからエルゼンフェルト(17.2km) 

ワイナリー・へーフリヒ

夏のひと時をワイナリー・ヘーフリヒで過ごす
夏のひと時をワイナリー・ヘーフリヒで過ごす

へ―フリッヒワインはモダンなボトルラベルが印象的。フランケン地方ならではの白ワインと赤ワインを醸造しており、ワインレストランも併設している。コロナ禍で密な屋内に座ることを敬遠する客にはうれしい大きな庭園とテラスが自慢。自家製ワインと軽食を味わいながら自然を満喫し、ハイキングで疲れた足を癒した。

コース3・エルゼンフェルトからエルレンバッハ(15km)

ワイナリー・ワイガンド

右・ワイナリー・ワイガンドの白ワインと左はワイナリー・シュトリツィンガーの赤シュペートブルグンダーをワインテラスで試飲した
右・ワイナリー・ワイガンドの白ワインと左はワイナリー・シュトリツィンガーの赤シュペートブルグンダーをワインテラスで試飲した

同ワイナリー経営者三代目のヴェレナさんは国内若手ワイナリーのホープ。4人の子供を持つ母親でもあり、小柄ながら大変エネルギッシュで魅力的な女性だ。

バリック(木製の樽)で熟成させた赤シュペートブルグンダーは、力強いアロマ。その他にはこの地区特産のミュラー・トルガウ、ジルヴァーナー、リースリング、ポルトギーザーなど。ブルグンダー品種を中心に栽培し白ワインを造っている。ブドウ畑土壌の特徴は、雑色砂岩(ブントサンドシュタイン)。砂や粘土が岩石化したもので、水はけがよく、通気性に優れ、太陽熱を蓄えることができる土壌で栽培されたブドウでワインを造ることができる。

コース4・エルレンバッハからクリンゲンベルク(4km)

ワイナリー・シュトリツィンガー 

フランケン赤ワイン遊歩道を考案したウィリー・シュトリツィンガー氏
フランケン赤ワイン遊歩道を考案したウィリー・シュトリツィンガー氏

ワイナリー・シュトリツィンガーはワインを造り始めて40年。初代オーナーのウィリーさんは、フランケン赤ワイン遊歩道を発案した中心人物だ。ウィリーさんの出身地プファルツ地方には著名なドイツワイン街道があり、沿線でワインの試飲や観光が盛ん。またラジオでオーストリア・チロル地方に赤ワイン遊歩道があると聞いた。そこでウィリーさんは「地元クリンゲンベルク周辺でも遊歩道があれば」と考案したそうだ。

現在、娘のアニヤさんが中心となってビオワイン造りに専念している。急斜面・丘陵地帯に広がるブドウ畑での仕事は決して簡単ではない。トラクターや機械の入る余地がなく、収穫や畑の管理はすべて手で行われるため、平面のブドウ畑よりも何倍もの労力が問われるからだ。だが、ワインが出来上がった時の喜びもひとしおだという。

コース4は初心者に最適で、4kmを1時間ほどで散策できる。コース3と4は景観が特に美しい。またコース途中にあるピクニックスポット「ワインテラス」は、絶景を眺めながらワイン試飲のできる人気の休憩所だ。

コース5・クリンゲンベルクからグロースホイバッハ(10.1km)

ワイナリー・クレーマー

芳香の強い暗い果色のワイン用ブドウ品種「サン・ローラン」で作られた赤ワインを試飲
芳香の強い暗い果色のワイン用ブドウ品種「サン・ローラン」で作られた赤ワインを試飲

マイン川南岸斜面にブドウ畑を持つワイナリー・クレーマーのウリ氏は、家業を継ぐ意思はなかったそうだ。一旦実家を離れたものの、再び町へもどる決心をし、ワイン醸造を本格的に学んだ。若者が不規則な労働時間や、天候に左右される畑仕事にあまり関心を持たないのは、どこでも同じではないだろうか。同氏は、家族経営の若手オーナーとして再出発し、ワイナリーもモダンに改装すると同時に個性的なワイン造りで注目を集めるようになった。

ブドウ品種はフランケン定番のミュラー・トゥガウやシルバーナー、リースリング、シュペートブルグンダーなど多岐にわたり、約5万本を栽培している。なかでも赤ワインはバリックで2年間熟成させている。

コース6・グロースホイバッハからビュルクシュタット(15.3km)

ワイナリー・フュルスト

2007年の貴重な赤・フリューブルグンダーを試飲・まろやかで奥の深い味に酔いしれた
2007年の貴重な赤・フリューブルグンダーを試飲・まろやかで奥の深い味に酔いしれた

ワイナリー「ルドルフ・フュルスト」は、「赤ワインの皇帝」と称され、日本でもかなりの著名人。創業1638年、ビュルクシュタットにある家族経営の醸造所。パウル・フュルスト氏は、1975年に父の後を継いでオーナーとなり、79年にビュルクシュタットへ移転した。2003年、ゴーミヨ・ドイツワインガイドの最優秀醸造家に選ばれた同氏は、フランケン地方における優れたワイン造りの先駆者。現在、息子のゼバスティアン氏を中心にワイン造りを行っている。

同ワイナリーは、白ワイン生産が圧倒的に多いこの地区では珍しく、シュペートブルグンダーが生産量の40%を占めている。秀逸で繊細な味とアロマのコレクションが主力商品だ。隣町クリンゲンベルクの畑で栽培したブドウから造られるシュペートブルグンダーは、軽やかな香りと味が特徴で、奥行きの深いワインだ。

もう一つのヒット商品はリースリング。この両ワインはドイツワイン生産者協会(VDP)の推奨する最高ワインとして国際的な名声を得ている。

ぶどう畑にはあちこちに休憩所がある。料理やワインを持ち寄り誕生日を祝うグループに遭遇した
ぶどう畑にはあちこちに休憩所がある。料理やワインを持ち寄り誕生日を祝うグループに遭遇した

ワインを試飲しながらの道中では、予想していなかった美味しいレストランにも出会った。大都市と違って、料理はどうかな?と思ったが、地元ワインと共に供された料理には感激した。

ドイツ料理の定番・ソーセージとザワークラウトは何時食べても飽きない味・ビュルクシュタット「ワインバウ・エルベルト」にて・次回のこのワイナリーを訪問したい
ドイツ料理の定番・ソーセージとザワークラウトは何時食べても飽きない味・ビュルクシュタット「ワインバウ・エルベルト」にて・次回のこのワイナリーを訪問したい
魚料理を食するとなぜかホッとする・グロ―スオストハイム「エデルケラー」にて
魚料理を食するとなぜかホッとする・グロ―スオストハイム「エデルケラー」にて
食欲をそそられる肉料理にも目が移る・同上「エデルケラー」にて
食欲をそそられる肉料理にも目が移る・同上「エデルケラー」にて
トマトとチーズの前菜は夏の夕食にピッタリ・グロースホイバッハ「ツア・クローネ」にて
トマトとチーズの前菜は夏の夕食にピッタリ・グロースホイバッハ「ツア・クローネ」にて

今回訪問した醸造家たちの声の多くは、以前書いた記事で紹介したものと同じく、温暖化に向けての課題と、ワイン醸造の成長への期待だ。またワイン産地として、前例を見ない北部のニーダーザクセン州やシュレースヴィヒ・ホルシュタイン州でもぶどう栽培を試み始めたという吉報もあり、今後ドイツワインがどのように変わっていくのか目が離せない。(フランクフルターアルゲマイネ日刊紙10月26記事日参照) 

まるで絵本の世界・ミルテンベルク

今回の旅は、バイエルン州ミルテンベルクを起点としてフランケン赤ワイン遊歩道を巡った。マイン川の真珠と言われるこの町は、中級山岳地帯シュペッサルトとオーデンヴァルド(オーデンの森)の間に位置する。日本ではあまり知られていない町だが、旧市街の色鮮やかな木組みの家並みが絵にかいたように美しい。市内を流れるマイン川が屈曲した場所にあり、遊覧船で川から町を眺めるのも楽しい。

絵本に出てくるようなマルクト広場にうっとり
絵本に出てくるようなマルクト広場にうっとり

旧市街マルクト広場は、ドイツで最も美しい広場のひとつと言われる。噴水を囲んで立ち並ぶレストランやホテル、店頭には人があふれかえっていた。

ツム・リ―ゼンは画像中央の建物・市内散策に疲れたら、自家製ビールを是非どうぞ
ツム・リ―ゼンは画像中央の建物・市内散策に疲れたら、自家製ビールを是非どうぞ

また中央通りにあるドイツ最古のゲストハウスと言われるツム・リーゼンも見逃せない。12世紀から続くゲストハウスの1階は、現在ビアレストランとして営業しており、地ビールとドイツ料理が人気。神聖ローマ帝国の皇帝を始め、多数の著名人がここに泊まったそうだ。

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ドイツには豊かな自然があり、ハイキングを楽しめる全長20万kmの遊歩道や7万kmのサイクリングロードが充実している。コロナ感染が終息するまで、しばらく屋外で余暇時間を楽しむ人が増えそうだ。

10月から、コロナ感染再拡大が深刻となっているドイツでは、11月2日から11月末まで部分的なロックダウンが導入されることになった。企業や小売店、学校や保育園などは営業できるが、レストランや映画館など娯楽施設は閉鎖となる。ロベルトコッホ研究所の集計によると、10月31日の新規感染者数は過去最多の19.059人を記録した。これからしばらく自粛生活を強いられる市民の生活動向は、さらなる変化が生じるだろう。