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中国の約束「ウクライナに核攻撃の危険があれば助ける」の本気度

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
ヤヌコビッチ氏(左)と握手する習主席=CCTVより筆者キャプチャー

 ロシアによるウクライナ侵攻が長期化し、「核の脅威」という言葉もメディアで使われるようになった。そんななか、「ウクライナが核による攻撃を受けた場合、中国が安全を提供する」という習近平(Xi Jinping)国家主席の約束に改めて焦点が当てられている。習主席はどこまでの本気度をもって、この表現を受け入れたのか。

◇戦略的パートナーシップ

 ロシアによるウクライナ侵攻が始まった直後、中国のインターネット上で「ウクライナが核攻撃を受けた場合、中国は直ちに反撃すると約束している」「ウクライナは中国の核保護国」などの書き込みが広まった。

 根拠になっているのは、以下の事実だ。

 2013年12月、ウクライナのヤヌコビッチ大統領(当時)が中国を訪問し、同月5日、習主席と首脳会談を開いた。その際、両首脳は「中国とウクライナの戦略的パートナーシップのさらなる深化に関する共同声明」に署名した。

 そこには「双方は、国家の主権、統一、領土保全に関連する問題についての確固たる相互支援」がうたわれている。

 ウクライナ側は「『一つの中国』政策の揺るぎない実行に重ねて言及」「中国政府が、全中国を代表する唯一の合法的な政府であり、台湾は中国の不可分の領土であると認識」「いかなる形態の『台湾独立』にも反対し、両岸(中台)関係の平和的発展と中国の平和的統一の大業を支持する」と強調している。

 これに呼応する形で、中国側は「ウクライナ側による一方的な核兵器放棄と、核拡散防止条約(NPT)への非核兵器国としての加盟を高く評価している」と記したうえで、次の一文が続く。

「中国側は、国連安全保障理事会決議第984号と、1994年12月4日の中国政府によるウクライナへの安全の保証提供に関する声明に従い、非核兵器国であるウクライナに対し、核兵器を使用したり、使用すると威嚇したりしないと無条件で約束する。併せてウクライナが、核兵器による侵攻、あるいはこの種の侵略の脅威を受けている状況において、ウクライナに相応の安全の保証を提供すると約束する」

◇「ウクライナ側に立つ」示唆

 米紙ウォールストリート・ジャーナル(今年3月12日)によると、中国側では当時、新華社を含む国営メディアが、これを「核の傘」と表現したという。だがこうした報道はその後、ネット上から消えている。

「核の傘」は、米国が日本や韓国、北大西洋条約機構(NATO)加盟の欧州諸国などを守ると表明する際に使われる概念。中国は「核の傘」「核共有」について「核軍縮のプロセスを進めるためには、国際的な戦略のバランスと安定を維持することが必要であり、関係国は『核の傘』『核共有』といった政策を放棄すべきだ」(中国外務省報道官2014年4月14日発言)という立場をとっている。

 2013年のヤヌコビッチ氏訪中は、習主席がカザフスタンでの演説(2013年9月7日)で巨大経済圏構想「一帯一路」を提起してからわずか3カ月後のタイミングだった。ウクライナは中国にとって重要な貿易相手国であり、欧州への玄関口であり、「一帯一路」のパートナーである。両首脳が署名した共同声明でも経済面での協力が多数書き込まれ、農業やエネルギー、インフラ、航空宇宙など幅広い分野での実用的な協力関係の発展・強化が盛り込まれている。

 ヤヌコビッチ氏が訪中していた同じ時期、バイデン米副大統領(当時)も北京に滞在し、ヤヌコビッチ氏よりも先に習主席と会談していた。ただ、国営中国中央テレビ(CCTV)の看板ニュース番組「新聞聯播」は、バイデン氏よりも先にヤヌコビッチ氏のことを報じ、中国がウクライナとの関係をいかに重視しているかを国内外に認識させた。

 ロシアという国は、ウクライナにとって長年の脅威だ。習主席による共同声明署名は、ロシアとウクライナが衝突した場合、中国は一定程度、ウクライナ側に立つという姿勢を示唆したといえる。その一方で、中国側はロシア側に同調する形で、ウクライナが北大西洋条約機構(NATO)寄りになるのには反対している。

 ロシアによるウクライナ侵攻が長期化するにつれ、中国の立場も難しくなっている。

 王毅(Wang Yi)国務委員兼外相は今月4日、ウクライナのクレバ外相と電話で会談した際、「中国は地政学上の利己的利益を求めず、対岸の火事を見守るという考えもない。ましてや、火に油を注ぐことはない。心から期待するものは平和ただ1つだ」と述べ、客観的・公正な立場を堅持するという点を強調している。

 そのうえで「ウクライナは、自国民の根本的利益にかなう選択をする知恵を持っていると信じている」と述べ、仲裁を求めるウクライナ側と距離を置いた。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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