北朝鮮が年明け早々、弾道ミサイルとみられる兵器を試射し、朝鮮半島情勢の緊張を高めた。最近、ミサイル発射などを自制してきた北朝鮮が、なぜ今のタイミングで弾道ミサイル試射に踏み切ったのか。

◇78日ぶり

 日韓の防衛当局は5日午前8時すぎ、北朝鮮から弾道ミサイルの可能性があるものが発射されたと発表した。日本側の発表によると、日本の排他的経済水域(EEZ)の外側に落下したとみられるという。詳細は明らかにされていない。

 北朝鮮の弾道ミサイル発射は昨年10月19日に新型潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)試射以来、78日ぶりとなる。弾道ミサイル技術を使った発射は国連安保理違反となるため、日本や韓国の軍当局はこれを検知すれば、速やかにメディアを通して発表している。

 金正恩(キム・ジョンウン)総書記は昨年1月の朝鮮労働党大会で「国防科学発展および兵器システム開発5カ年計画」と示し、核兵器小型化▽極超音速ミサイル導入▽新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)開発▽原子力潜水艦やSLBMの保有▽軍事偵察衛星の運営――などを列挙した。これに伴い、昨年9~10月には、極超音速ミサイル「火星8」型や新型SLBMなど、多様なミサイルの試射を繰り返した。

 昨年末に開かれた党中央委員会総会で金総書記は「(軍需工業部門では)現代戦に相応した威力ある戦闘技術機材の開発、生産を力強く推し進め、国家防衛力の質的変化を強力に促して、国防工業の主体化、現代化、科学化の目標を計画的に達成しなければならない」と強調しており、今回のミサイル試射はこれを具体化した形になっている。

 また、朝鮮人民軍は昨年12月初めから冬季訓練に入っており、この訓練の一環としてミサイルを試射した可能性もある。

◇「具体的な行動」

 北朝鮮は軍事力強化のプロセスを進める一方、最近のミサイル試射には金総書記本人は立ち会っておらず、自制的な姿勢を見せている。また「最大の主敵」と表現してきた米国についても、その批判を引っ込めて「主敵は戦争そのもの」という論理で上書きしてきた。中央委総会では「対南・対米関係事業方向」も議論されたが、その中身は公開されていない。

 米朝間では、韓国も含めて朝鮮戦争(1950~53)の終戦宣言をめぐり、その手続きに関する水面下交渉が進んでいるようだ。

 北朝鮮側は応じる条件に、米国による敵視政策や二重基準の撤回を求め、具体的な措置として米韓合同軍事演習の中止や経済制裁の緩和などを挙げているようだ。昨年10月のSLBM試射以来、北朝鮮がミサイル試射を自制してきたのはこの理由もあるようだ。

 一方の米国側は、サリバン大統領補佐官が先月17日、米朝間のシンガポール共同声明(2018年)を「継承する」意向を明確にするなど、対話姿勢を強調している。ただ、北朝鮮側は米国の動きが鈍い点にいらだちを覚えているようで「この出発点となるような、米国による何らかの行動」「自国の発言を裏付けるような措置」を求めている。したがって、今回の弾道ミサイル試射は、米国からの回答を促す目的もあるとみられる。

 長引く経済制裁や新型コロナウイルス対策による国境封鎖によって、北朝鮮経済は疲弊している。ミサイル発射により国威発揚を図る狙いも排除できない。