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「韓国は大丈夫で、なぜわが国はダメなのか!」北朝鮮は2025年までミサイル発射を継続か

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
労働新聞が掲載した「鉄道機動ミサイル」発射場面=筆者キャプチャー

 北朝鮮は15日試射した弾道ミサイルについて、列車の荷台から打ち上げた「鉄道機動ミサイル」だと明らかにした。北朝鮮はこの5年間に兵器開発を加速させる考えで、今後も新型兵器実験が続くことが予想される。また北朝鮮は、試射直前に実施された韓国の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)実験に反発、これを国際社会が容認している点にも不満を抱いているとみられる。

◇発射されたのは北朝鮮版イスカンデル改良型か

 韓国軍当局などの情報を総合すると、北朝鮮は15日午後0時半すぎ、平安南道(ピョンアンナムド)陽徳(ヤンドク)一帯から日本海に向けて短距離弾道ミサイルを2度発射した。日本側の情報では飛行距離約750km、最高高度約50kmで日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下したとされる。

 韓国の聯合ニュースは、発射されたのは今年3月25日のものと同じ「北朝鮮版イスカンデル(KN23)改良型」と伝えている。KN23改良型は、通常の弾道ミサイルよりも低高度で滑空し、着弾する前に再上昇するなど、変則的な軌道を描くのが特徴で、迎撃が困難といわれる。

 今回の試射について、朝鮮中央通信は16日早朝、「鉄道機動ミサイル連隊の検閲射撃訓練」と発表した。同連隊は今年1月の朝鮮労働党大会の際に設立され、訓練の公開は初めてという。

 鉄道機動ミサイルは、列車の荷台に弾道ミサイルを横倒しに積んで移動し、発射の際に台を垂直に立てる方式。車両は発射の衝撃や外部からの攻撃に耐えるよう厚い装甲板で覆われている。

 北朝鮮は▽国土の多くが山岳地帯で構成されている▽鉄道網が広範囲に張り巡らされている――などを考慮すれば、鉄道機動ミサイルは機動性に優れているという指摘がある。また列車を「旅客用」に偽装して運行させれば、軍事衛星による探知を免れることもできそうだ。ただ、トンネル内に覆い隠すという運用が想定されるため、発射地点が事前に絞り込まれるという弱点もあるようだ。

 韓国の専門家は、聯合ニュースの取材に、こうした鉄道機動ミサイルを「ロシアの模倣」と指摘する。列車からのミサイル発射は旧ソ連時代に導入され、現在もロシアで核ミサイル搭載の「核列車」が運用されているという。

 鉄道を使った発射技術と北朝鮮の関係について、かつて次のような報道(米CNNテレビ2017年9月1日)があった。

 ソ連の構成国だったウクライナの治安当局が2011年、同国のミサイル関連技術を入手しようとした北朝鮮スパイを摘発した。

 裁判の際に提出された書面には「スパイが『SS-24』に関する情報を求めていた」と記されていた。「SS-24」はソ連が1980年代後半から運用を始めた移動式大陸間弾道ミサイル。最大10個の弾頭を搭載でき、鉄道車両やミサイルサイロ(地下式格納施設)を使って発射されてきた。ウクライナ当局は情報流出を否定しているが、北朝鮮スパイはその後、強制送還されたという。

◇文在寅氏に金与正氏が反論

 韓国では15日、文在寅(ムン・ジェイン)大統領が視察する中、独自に開発したSLBMが試射された。SLBMは3000t級潜水艦に搭載して水中から発射され、計画通りの距離を飛行して目標に命中したという。大統領府は「成功した」と発表し、潜水艦からの発射は米露中英仏印に続く7カ国目と成果を誇示していた。北朝鮮もSLBMを開発しているが、潜水艦からの試射には至っていない。

 文在寅氏は「(実験の成功は)北(朝鮮)の挑発にいつでも対応できる十分な抑止力を保有していることを証明した」と表明し、今後も北朝鮮を圧倒できるミサイル戦力を増強するよう指示した。

 この文在寅氏の発言に、北朝鮮の金与正(キム・ヨジョン)党副部長が反発した。

 15日深夜に発表した談話で文在寅氏を名指しで非難。「われわれは今、南朝鮮(韓国)が憶測しているように、誰かを狙い、ある時期を選択して『挑発』しているわけではない」と主張し、韓国の「国防中期計画」と同様に「正常で、自衛的な活動を進めている」と訴えた。これを意識するように、北朝鮮公式メディアは今回の試射を報じる際、「ミサイル発射」ではなく「(軍事担当の)朴正天(パク・ジョンチョン)書記の指導」というタイトルをつけている。

 ただ、金与正氏は全般的に抑制的な表現を使っており、文在寅氏の言動によって南北関係が断絶するような事態を「望まない」とも述べている。

 最近、北朝鮮側は「(党大会で示された)国防科学発展および兵器システム開発5カ年計画の重点目標」という表現を多用し、今年をその「初年」と位置づけている。党大会では、金正恩(キム・ジョンウン)総書記が活動報告の中で、軍事力強化の手段として、核弾頭2~3個を装着できる大陸間弾道ミサイル(ICBM)の技術向上▽原子力潜水艦の導入▽軍事偵察衛星を運用した偵察情報の収集能力確保――などに言及している。今後5年間に、金総書記が指示事項の完成に向け、朴正天書記を中心に各種実験を強行することが予想される。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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