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金正恩氏肝いり巡航ミサイル「最長距離」飛行――日米韓当局は探知しながら沈黙?それとも捕捉できず?

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
労働新聞が伝えた新型長距離巡航ミサイル試射の様子=筆者キャプチャー

 北朝鮮国営の朝鮮中央通信は13日朝、同国の国防科学院が9月11、12両日、新型長距離巡航ミサイルを試射したと伝えた。巡航ミサイル試射は国連安全保障理事会の対北朝鮮決議違反とはならないため日米韓当局は探知していながら公表しなかったか、あるいは捕捉できなかった可能性がある。

◇日本の大部分が射程圏内

 同通信によると、試射に参観したのは軍事担当の朴正天(パク・ジョンチョン)朝鮮労働党書記(政治局常務委員)や金正植(キム・ジョンシク)、全日好(チョン・イルホ)の両副部長。金正恩(キム・ジョンウン)総書記の名前はなかった。

 長距離巡航ミサイルは北朝鮮の領土・領海上空に設定した「楕円や八字形飛行軌道」に沿って7580秒(2時間6分20秒)飛行、1500km先の標的に命中し、試射は成功したという。韓国の通信社「ニュース1」は「発表内容が事実であれば、これまで開発してきた巡航ミサイルの中で最も長い距離を飛んだことになる」と伝えている。1500kmは、北朝鮮の東海岸から発射すれば、日本の大部分に到達する距離だ。

 長距離巡航ミサイルについて、金総書記は今年1月の党大会の活動報告で「中・長距離巡航ミサイルをはじめとする先端核戦術兵器も次々と開発」と言及していた。同通信も「『国防科学発展および兵器システム開発5カ年計画』重点目標の達成に向けて大きな意義を持つ戦略兵器」と位置づけ、この2年間に「中核的な事業」として開発が進められてきたと明らかにしている。

 巡航ミサイルは弾道ミサイルに比べて製造コストが安く、維持・訓練も容易で、多くの国が製造している。

 防衛白書(2018年)によると、命中精度が比較的高い▽打ち上げ時の探知が困難▽弾道ミサイルに比べて小型であり、船舶などに隠して密かに攻撃対象に接近できる――という特徴がある。ただ弾道ミサイルに比べて速度は遅く、核弾頭搭載のハードルも高い。北朝鮮が試射しても国連安全保障理事会の対北朝鮮決議違反とはならないため、周辺国は試射を把握していても明らかにしないこともあった。

 一方、ロイター通信は専門家の話として「北朝鮮で『戦略的』役割を明示された最初の巡航ミサイルになるだろう」と伝えている。北朝鮮が巡航ミサイルに搭載できるほど核弾頭を小型化できているか不明であるものの、巡航ミサイル能力の向上を深刻にとらえるべきだと指摘する声は広がりをみせている。

◇巡航ミサイルは安保理決議違反にあたらず

 北朝鮮の巡航ミサイル試射は3月21日以来。北朝鮮は当時、直前に米韓が実施した合同軍事演習に反発しており、その4日後にも「北朝鮮版イスカンデル」(KN-23)改良型と呼ばれる短距離弾道ミサイルの試射を強行していた。巡航ミサイルについては、韓国メディアは「バイデン米大統領就任直後の1月22日にも発射している」と伝えている。

 北朝鮮は、米韓両軍が先月にも合同軍事演習を実施したことに反発し、金与正(キム・ヨジョン)副部長は同月10日、「国家防衛力と強力な先制攻撃能力をさらに強化することに一層拍車を掛ける」と、ミサイル試射などを強行する考えを示唆していた。だが、演習終了直後の挑発行為はなく、今月9日の建国73周年に実施した軍事パレードでも新型兵器を誇示しないという抑制的と思われる対応をみせてきた。

 この流れで今回、弾道ミサイルではないものの、巡航ミサイル能力向上を見せつけて関係国を圧迫した。韓国軍関係者はニュース1の取材に対し「韓米情報当局間の緊密な協力のもとで精密に分析を進めている」と述べるにとどめている。

 北朝鮮情勢をめぐっては、米国務省のソン・キム北朝鮮担当特別代表が13日に来日し、14日に開かれる日本の船越健裕・外務省アジア大洋州局長や韓国の魯圭悳(ノ・ギュドク)外務省朝鮮半島平和交渉本部長と会談して情勢分析を進める。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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