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無謀すぎる中国の犬肉祭――新型コロナの教訓どこに?

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
犬肉祭に出品される食肉処理された犬=SCMPより筆者キャプチャー(一部加工)

 中国南部・広西チワン族自治区の玉林で今月21日から「犬肉祭」が始まり、露店に食肉処理された犬が無数に陳列されている。これに反対する市民団体がイベント開始前、食肉処理場に向かっていた68匹を保護して調べたところ、多くが健康不良の状態だったという。湖北省武漢で野生動物を食肉用に販売していた市場と、新型コロナウイルスの関係が取りざたされた背景もあり、市民団体は「公衆衛生を危険にさらしている」と批判している。

◇病気が蔓延する可能性

 香港の有力英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)によると、中国の動物愛護に関わる市民団体が今月中旬、玉林の食肉処理場に向かって走っていたトラックを制止した。荷台を確認すると、錆びた鉄の檻に、68匹の犬が押し込まれていたという。

 市民団体のメンバーはSCMPの取材に「犬たちは玉林郊外で捕らえられ、多くが健康状態に問題があった」と話している。中には、前足を差し出して「お手」をする犬もいたことから、市民団体は「盗まれたペット」の可能性もあるとみている。

 トラックが玉林に入る際、地元当局が摘発して犬を保護するはずだ――市民団体側はこう見込んでいたが、当局は取り締まりには乗り出さなかった。このため、市民団体が食肉処理場行きを阻止する形を取ったという。保護された犬たちは、休息を与えられ、獣医の治療を受けた後、市民団体が支援するシェルターに移された。

 市民団体のメンバーは「犬の窃盗、違法な輸送、非人道的な食肉処理によって、動物たちが苦しめられている」と犬肉祭のあり方を批判。さらに「狂犬病やその他の病気が蔓延する恐れがあり、公衆衛生を危険にさらしている」として、中国当局に対応を求めている。

 中国のネットメディア「網易新聞」に投稿された記事でも、市民団体の動きを伝えている。上記組織と同一であるか確認できない。

「網易新聞」に投稿された写真。鉄の檻に無数の犬が押し込まれている=筆者キャプチャー
「網易新聞」に投稿された写真。鉄の檻に無数の犬が押し込まれている=筆者キャプチャー

 それによると、広東省から玉林に向かう幹線道路にメンバー20人以上が配置され、パトロールを展開。今月14日に犬を運搬していたトラックを制止した。乗車していた犬の販売業者が「犬は中国東北部で3万8000元(約65万円)を支払って手に入れた」と話したため、市民団体が買い取る意向を伝えた。「犬は人間の友達だ」「売買すべきではない」と訴えながら価格交渉をした結果、2万5000元(約43万円)で引き取ることになったという。

◇「伝統的に犬肉を食べる」

 玉林では、地元住民が夏に犬肉を食べるという習慣があることから、毎年夏至の時期に犬肉祭を開いて観光客誘致を図っている。ただ、国内外から批判を受けていることから、玉林市政府は2014年6月に「市民による集まりであり、市政府や社会団体は、いかなる関与もしていない」との声明を出し、「公認イベント」でない点を強調している。

 このころ、中国メディアも犬肉祭開催に異議を唱えている。新華社通信や中国中央テレビ、人民日報系環球時報など、共産党や政府系の有力メディアを含む20社以上が犬肉取引に反対する会合を開き、犬肉祭のボイコットや犬肉ビジネス禁止を満場一致で採択している。

 犬肉祭で売買される肉の質に関連して、以前から疑問視する声が上がっている。華僑向け国営通信社の中国新聞網は、専門家の話として次のような見解を伝えている。

 食肉は一般に、動物の誕生、繁殖、予防接種、輸送、販売、食肉処理、流通、加工に至るプロセスが正確に記録されている。このため、あらゆる食肉について、消費者に至るまでのプロセスをすべてさかのぼることができる。だが、玉林の犬肉祭では、このプロセスで違法行為が横行している――。

 おびただしい種類の野生動物を食肉用に販売していた武漢華南海鮮卸売市場(武漢市江漢区)と、新型コロナウイルス発生の関係が取りざたされたことにより、中国では野生動物を消費する行為に対する監視が強化されるようになった。全国人民代表大会(国会)常務委員会は昨年2月、野生動物を食べる習慣の根絶や、全面的な野生動物の取引禁止を決めている。

 犬肉に関しては広東省深圳市が同年5月から販売・消費を禁止している。ただ、中国全土で犬肉消費が禁じられているわけではなく、一部ではその習慣が続いている。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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