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中国共産党“100歳”まで70日を切る――ジワリと進む敵vs味方の線引き

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
南京で開かれる無料の集団結婚式を告知するネット上のポスター=筆者キャプチャー

 中国共産党は7月1日に党創立100年を迎える。中国国内では習近平(Xi Jinping)総書記(国家主席)を中心に団結を呼びかける「愛国的」イベントの準備が進む一方で、党や習総書記に対する批判を封じ込める動きも加速している。

◇「愛国的」なイベント多数

 中国共産党は1921年7月に上海で開かれた第1回党大会で成立を宣言した。大会開幕日は同月23日。だが毛沢東(Mao Zedong)は「創立日」の特定を求められたのに思い出せず、党創立17周年(1938年)での演説で「7月1日を党の誕生記念日とする」と宣言したことで、これが定着した。創立時の党員は50人程度に過ぎなかったが、2019年末には約9191万人まで膨れ上がっている。

 100周年の関連行事について、胡和平(Hu Heping)党宣伝部副部長(文化観光相)は今年3月の記者会見で▽全党員で党史研究・教育▽大規模祝賀会▽習総書記演説▽卓越した党員の表彰▽展覧会・演劇――などを開催すると発表している。

 100年間の歴史に焦点が当てられるとともに、習総書記を毛沢東や鄧小平(Deng Xiaoping)ら歴代最高指導者に並ぶ変革の担い手であると強調される。同時に習総書記を中心に党・国が団結していて、米国に対抗できる強国である点をアピールするとみられる。

 香港の有力英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)によると、100周年記念の「愛国的」イベントは多数準備され、滞りなく進められるよう党関係者は神経をすり減らしているという。

 映画館では朝鮮戦争を描いた「金剛川」などの愛国的映画を上映するように命じられている。都市部の小学校は、習総書記が掲げる「中国の夢」にちなんだ絵画や書の作品を子供たちがつくるよう指示されている。

 さらに江蘇省南京市は、昨年10月~今年4月に同市に婚姻届を出したカップル100組を対象に、100周年を祝して6月6日に開く集団結婚式に無料で招待する。党員が優先的に選ばれるという。南京市当局者はSCMPの取材に「集団結婚式は党の誕生日に賛辞を送ることを意味している」との意義づけを強調している。

◇温家宝前首相の寄稿文を問題視

 習総書記は以前から、党が民営企業や名門大学、報道機関を含む社会全体を強力に統制しなければ、党支配が危うくなると警告してきた。党機関では中央・地方を問わず、幹部を対象にした党史の勉強会が開かれ、習総書記と党への「絶対的な忠誠心」を持つよう鍛錬が続けられているようだ。

 同時に当局は祝賀の雰囲気に合わない言動に神経を尖らせている。

 SCMPによると、民政省は「100周年の良好な環境」を確保するため、全国的に宗教・社会団体を含む「違法な」非営利団体の取り締まりを進めている。党史を歪曲したり、党の英雄を中傷したりした者は重大な結末を迎えると警告している。

 ネット規制を受け持つ国家インターネット情報弁公室は「先進的な社会主義文化の素晴らしさを否定する者を根絶するため」として、専用のウェブサイトやホットラインを公開し、そうした人物を市民が通報するよう呼びかけている。

四川大地震(2008年5月)の際、現地に乗り込み、被災者を慰問する温家宝首相(当時、写真中央)=中国・検察日報より筆者キャプチャー
四川大地震(2008年5月)の際、現地に乗り込み、被災者を慰問する温家宝首相(当時、写真中央)=中国・検察日報より筆者キャプチャー

 この延長線上で起きたある出来事が波紋を呼んでいる。

 マカオ紙「マカオ導報」に3~4月、4回にわたって掲載された温家宝(Wen Jiabao)前首相の寄稿文「私の母親」が問題視されたのだ。

 そこには次のような文言があった。

「私の考えでは、中国は公正さと正義に満ちた国であるべきだ」

「侮辱や抑圧に反対する」

「民意や人道、人の本質が常に尊重され、若々しさと自由、努力する姿勢が常にあるべきだ」

 温家宝氏は胡錦濤(Hu Jintao)政権時代(2003~13年)の首相で、比較的リベラルな改革派として知られている。

 表向きは亡き母への追悼文となっているが、「公正」「正義」「人道」「自由」という言葉に重きが置かれているため、読者の多くが習総書記を暗に批判しているのではないかと解釈したという。検閲当局が介入し、この寄稿文は複数のウェブサイトから削除され、拡散阻止の措置が取られている。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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