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中国を潤す揚子江が干上がる?――気候変動か、北京への送水か、それとも三峡ダムのせいか

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
重慶を流れる長江(写真:PantherMedia/イメージマート)

 香港の有力英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)は先月28日付の記事で「中国最大の河川、長江(揚子江)が一滴ずつ干上がっている」と報じた。長江の水位が全般的に下がっているとの研究結果を伝えつつ「中国で最も繁栄している長江流域の環境や経済に深刻な影響を与える可能性がある」と警告している。

◇長江流域に4億6000万人

 長江はチベット高原から始まり、重慶や武漢、さらには中国の経済拠点・上海を経由して東シナ海につながる。その長さは6380kmもあり、ナイル川(6695km)やアマゾン川(6516km)に次いで世界で3番目。流域には計4億6000万人が住み、中国の国内総生産(GDP)の3分の1以上を占めているともいわれる。

 SCMPによると、中国政府の研究チームが長江の平均水位に関するデータを採取したところ、「1980年代以降、5年ごとに約2cmずつ低下していると推定される」という結論に至ったという。

 研究チームは長期的傾向をより正確に推定するため、過去数十年間の地上でのデータに加え、人工衛星からの重力データも活用して水位変化を測定したそうだ。

 チームは水位低下の原因について「80%以上が気候変動」と分析し、「太平洋上における気温上昇が長江への全般的な降雨量を減らしている」などとの見解を示している。

 また水分の蒸発も深刻になっている。気温上昇のほか、人の行動が活発化することによって発生するもので、「成長を続ける都市が、大気中の水分ロスを加速させている」としている。

 さらに、三峡ダムを含む15カ所の主要ダムによって長江の水位は冬と春には低下し、暖かい時期には上昇するため「小さいながらも、ダムはマイナスの影響を与えている」とみている。

◇絶滅危惧種に有毒

 加えて、SCMPが指摘するのが、北京など北部地域への送水の影響だ。北京市当局によると、北京における水の消費量の半分以上が長江から供給されたものだという。

 ただ、中国では水の分配は政治的に敏感な問題であり、匿名の識者はSCMPに対して「歴史を通して、水問題は地域間紛争のきっかけとなってきた」と解説し、研究チームの分析でも触れられていないようだ。

 一方、チームに参加していない研究者が懸念しているのが、水不足が環境に与える影響だ。「汚染物質の濃度が川の中で高まることは、絶滅危惧種には有毒だ」と指摘する。生態系のバランスは、乾燥した環境を好む種の側に傾く可能性があるといい、乾燥の速度が高まれば、特定の動植物が絶滅する恐れがあるという。

 これを裏付けるかのように、長江を生息域とする中国特有種で“長江のパンダ”とも称されたハシナガチョウザメが絶滅したと、2019年12月に報告されている。

 この研究者はSCMPに対して「現状では長江で水不足は起きていない」との見解を示しながらも「その影響は、より長い時間軸で明らかになるものだ」と警戒している。

◇南水北調

 中国の水資源は南と西南部に偏り、北部は慢性的に水不足に悩まされている。「南水北調」というプロジェクトによって、長江の水が大量に、北京を含む「乾いた」地域に運ばれている。

 この「南水北調」は毛沢東が1950年代に提唱したといわれる。これを受け、中国当局は調査・研究を重ね、北部に長江の水を送るための3ルートを編み出した。

中国側資料をもとに筆者作成
中国側資料をもとに筆者作成

(1)長江下流の江蘇省から取水して天津に送る(東ルート)

(2)中流の湖北省から北京や天津に送る(中央ルート)

(3)長江上流と黄河上流をつなぐ(西ルート)

 2002年に東と中央で着工し、両ルートは2014年までに完成した。総事業費は計約2500億元(約4兆円)。一方、西ルートは困難な工事を伴うため、計画段階にとどまっている。

 この「南水北調」は北部の水不足緩和に役立つものの、水不足の根本的解決につながっているわけではない。南側から汚染物質が流れ込む懸念も以前から指摘され、水質をいかに担保するかが課題となっている。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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