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東京五輪・パラだけじゃない――北京2022年冬季に忍び寄る新型コロナの影と人権侵害批判のボイコット

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
北京冬季五輪・パラリンピックの準備状況を視察する習近平主席=組織委員会のHPより

「誰もそれを聞きたくないが、誰かがそれを言う時が来た」。香港の有力英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)は最近、こんな書き出しで、北京冬季五輪・パラリンピック(2022年2月4日開幕)への不安感を綴った。中国の習近平国家主席が「北京を夏・冬とも五輪・パラを開催した世界で唯一の『ダブル・オリンピック・シティー』にする」と意気込むのに対して、国際社会での新型コロナウイルス感染は続き、行く末を案じながらの準備が進む。

◇夏・冬開催「ダブル・オリンピック・シティー」

「東京2020年が不確かであるならば――そして間違いなく、日本の首都が非常事態に陥っている現時点では――北京2022年もそうであるはずだ」

 SCMPは婉曲的な表現で北京冬季五輪・パラの予定通りの開催に、新型コロナ感染が不安材料になっていることを示唆した。

 北京での冬季五輪・パラは、東京五輪(7月23日~8月8日)・パラ(8月24日~9月5日)開催から半年もたたない来年2月4日の開始が予定されている。

 開・閉会式は、夏季の北京五輪・パラ(2008年)のメイン会場だった国家体育場(通称・鳥の巣)での開催が予定され、計187種目の競技は、北京市中心部▽北京市郊外の延慶区▽河北省張家口市――の3カ所に分かれて実施される。

 習主席は1月18~19日、共産党幹部を伴って五輪・パラの準備状況を視察。25日夜には国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長と電話で会談し、「中国は必ず、すべての準備作業を予定通り完了させ、北京冬季五輪の成功を確実なものにする」と宣言したうえ「北京は世界で唯一、夏季と冬季で五輪を開催した『ダブル・オリンピック・シティー』として、国際的なオリンピックスポーツに独自に貢献する」と打ち上げた。

 大会組織委員会の公式サイトにはカウントダウンが掲げられ、28日午後2時(日本時間)には「あと372日6時間」と表示された。

◇「最悪の事態に備えるよう勧める」

 中国は国の威信をかけて五輪・パラの準備を進める。関連施設の建設は新型コロナ感染拡大によって一時的に停止したものの、感染拡大が一定程度収まった段階で再開された。SCMPによると、組織委員会執行副主席の張建東・北京市副市長は昨年12月24日、「新型コロナによってもたらされた不確実性にもかかわらず、われわれは自信を持って、五輪・パラ冬季大会を成功させることができる」と断言した。

 だが、今年になって新たな感染が広がり、河北省で症例が急増している。特に省都・石家荘市(人口約1100万人)での感染拡大は深刻だ。今月7日には都市封鎖(ロックダウン)が実施され、大規模な検査とともに、4000人以上が収容可能な隔離施設の建設が進められている。

 中国では来月11日から春節(旧正月)の大型連休が始まり、春節前後を含めて延べ17億人の大移動が見込まれている。ただ感染再拡大が懸念されるため、中国当局は帰省や旅行を控えるよう求めている。

 SCMPは「現在のパンデミックがいつまで続くかはわからない。(東京や北京の五輪・パラなど)すべての国際的なスポーツイベントは、最高のものを期待しつつ、最悪の事態に備えるよう勧める」と、記事を締めくくっている。

◇もうひとつの懸念は「ボイコット」の可能性

 五輪・パラが開かれる中国は近年、香港での民主派弾圧や新彊ウイグル自治区での人権問題、新型コロナ感染拡大の真相究明、「戦狼外交」と表現される強硬姿勢などがもとで国際社会との関係がぎくしゃくしている。特に激しく対立する英国などでは「五輪・パラのボイコット」を求める声も上がっている。

 英国の与党・保守党の元党首、イアン・ダンカンスミス下院議員は昨年8月、中国が「独裁的、攻撃的、不寛容」であると非難したうえ、英政府に対し、ボイコットを検討するなど「強力な立場」で臨むよう求めた。

 ラーブ英外相も同10月の議会外交委員会で、五輪・パラ参加について「一般的に言えば、直感的に私はスポーツと外交・政治を切り離したいが、それが不可能な場合もある。証拠を集め、国際社会のパートナーと協力し、どのような行動をとる必要があるか検討しよう」と答弁し、不参加の可能性を示唆した。

 外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」(昨年10月7日付)によると、国際的な人権擁護組織が昨年9月、IOCに書簡を送り、北京冬季五輪開催の取り消しを求めたという。同誌は「人道に対する罪で告発されている中国共産党に、国際的なスポーツイベントが、いかなる正当性を、ましてや『栄光』を与えるべきなのだろうか」と主張している。

 またウインタースポーツでメダルを獲得している国の多くは西側先進国としたうえ「ボイコットする可能性のある国と重複する」との見方を示している。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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